前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら

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第3章

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ジョスランと同じく、キャトリンヌも家族に同じ話をしていた。


「……そうか。今度の花の守り手が、人間だと聞いて驚いていたが、そんな方なら選ばれるのも納得だ」
「フィオレンティーナ様、子爵家、冷遇」


キャトリンヌの言葉に家族は妖精たちの方を見た。


「ほぅ、子爵家か。少し前まで、こちらでも話題になっていたが……」
「学園のことも聞いていましたわ」
「雇って、庭師たち」
「庭師たち?」
「フィオレンティーナ様、喜ぶ」


キャトリンヌの言葉に首を傾げたが、花の守り手が喜ぶと聞いて、両親は拙い話し方をする娘の言葉の補足を妖精たちに頼んだ。

娘は、痛々しく包帯を両手に巻かれていた。ゆっくり休んでほしいところだが、キャトリンヌは伝えようと必死になっていて、両親も両脇で聞いていた。

母親のリディアーヌ・ドルブリューズは、泣き腫らした顔をしながら聞いていた。娘の姿に気を失いかけたが、そこまでして花の守り手を守った誇らしい娘の側にいた。

父親も、知らせを聞いてすっ飛んで帰って、キャトリンヌの側にいた。


「花の守り手とも懇意にしていたのか?」
「ん、妖精の縁、ある。こっち、招く。フィオレンティーナ様、喜ぶ」
「ふむ。花の守り手が喜ばれることか。わかった。上に話して、庭師だけでなく、家族も来たければ、全員呼ぼう。ただ、妖精の縁がない者は、他の国に行けるようにすることになるやも知れないが……」
「それ、仕方ない」
「でも、あの国の今後を考えるなら、他の方が安全だろうな」
「ん。フィオレンティーナ様、大事。守る」


花の守り手のためになるならばとすぐに動いていた。


「あの、ペトロニーユ様とジョスラン様が、お見えです」
「ここにか?」
「はい」


メイドの言葉に娘を見た。キャトリンヌは、フィオレンティーナに何かあったのかと起き上がろうとするのを止めて、横にさせた。すぐにペトロニーユたちが通された。
 

「お2人とも、どうしたんだ?」
「ハンカチです!」
「ん?」
「ジョスランの怪我が、あの刺繍が光って治ったのです!」
「それは、本当なの?!」


リディアーヌは、それを聞くなり、ペトロニーユたちに詰め寄り、すぐに自分のハンカチを持ってこさせた。

キャトリンヌは、己のハンカチを見て、心配そうにした。


「キャトリンヌ様、私のは光っただけで、なっともなっておりませんわ」
「本当?」
「はい。ほら」
「……ジョスラン。怪我、した?」
「不注意だが、もう治りました。キャトリンヌ、試してみては?」
「……」


ジョスランや他の者に言われて、キャトリンヌは己の包帯だらけの手を見た。


「フィオレンティーナ様。よくなって」


己の怪我より、キャトリンヌはフィオレンティーナが元気になることを望んだ。それで、宝物が消えてもいいと思えるほどに願った。そして、涙を流した。

その涙の美しさと思いにジョスランも大人たちも、使用人たち、そして妖精たちも涙した。

その思いに応えるように刺繍が光った。キャトリンヌの酷い火傷は瞬く間に消えた。


「っ!?」


キャトリンヌは、それに飛び起きてハンカチを見た。刺繍は、元よりより一層輝いて見えた。

それを見て、ホッとしながらフィオレンティーナのところに行こうとして、ベッドから降りるなり崩れ落ちたのを彼女の父親とジョスランが支えた。


「無茶だ。見た目の傷が癒えても、身体がまいっている。養生せねば」
「フィオレンティーナ様」


これで、よくなるかもしれないと思っているのだ。だから、行きたいと言うのがひしひしとわかった。


「キャトリンヌ。私が行くわ。あなたは、ここで休んでいなさい」
「でも」
「旦那様は、キャトリンヌの側に」
「わかった」


リディアーヌは、急に元気になった。娘の火傷が瞬く間に治ったのだ。そして、そんなことになっていても、フィオレンティーナの心配をする娘に心打たれた母は、途端に行動に出た。

ペトロニーユとジョスランも一緒になって、フィオレンティーナのいるところに行くことにした。

刺繍が何か効力を持つのならばとペトロニーユは娘も呼ぼうとしたが、母と弟がキャトリンヌのところに行ったと知って、彼女の方が駆け込んで来たことに驚いてしまった。


「刺繍が消えた……?」


娘のハンカチから、あの美しい刺繍が消えたらしく、大慌てで騒ぎ立てていた。

キャトリンヌは、じっとジョスランを見て、その姉を見た。そして、ぽつりと呟いた。


「自業自得」
「っ、!?」
「キャトリンヌ?」


ジョスランの姉にキャトリンヌは、そう言っただけで、他に何か言うことはなかった。それどころか。慕っていたジョスランの姉に対してキャトリンヌが無反応になったのは、この時からだった。

キャトリンヌの両親は、娘が何を言いたいのかがわからず、妖精たちを見た。そして、その意味がよくわかったが、何も言わなかった。


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