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第3章
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しおりを挟む妖精の血を引く者たちが住まうフォントネル国。そこに住まう者たちは、花の守り手がやって来たことを喜びつつ、しばらく経っても未だ生死の境を彷徨っていることに何ら変わりがないことに胸を痛めていた。
「ジョスラン。彼女とどうして、婚約せずにそのままにしたの?」
「姉上。フィオレンティーナさんは、……いえ、フィオレンティーナ様は、お心がとても優しい方なのです。怒りよりも悲しみに暮れて、生死の境を彷徨っておられる。彼女は、私たちが婚約しているのを知っていて、お似合いだとおっしゃってまでくれていました。それなのに解消して、私がフィオレンティーナ様と婚約したとわかれば、悲しませてしまいます」
「でも」
「フィオレンティーナ様は、妖精の縁が何もないんです。その方に悲しい想いをさせるわけにはいきません」
「……」
そう、妖精の血を引いている者の大半ならば、そこまでしてでも花の守り手を助ける。それはわかってくれるが、フィオレンティーナはたとえ一時とはいえ、そんなことで婚約を解消させたことを知れば、それだけで心を痛める。そういう人間なのだ。
すぐに元に戻しても、悲しそうにする。それをジョスランたちは、数ヶ月一緒にいるだけでいたいほどわかってしまった。
そんな彼女を悲しませるとわかっていることをジョスランたちにはできなかった。
ジョスランの母であるペトロニーユは、息子の言葉にすぐに全てはないが、それでもあのハンカチの作った者ならばと言葉を交わさずとも、納得できたのだが、ジョスランの姉は……。
「それで、もしものことがあったら、どうするのよ!!」
「……」
留学の時のように弟を責めた。ペトロニーユが、止めても責め立てた。
ジョスランは、責め立てられても反論せずに己の手に爪が食い込み血が滴り落ちるほどだった。それを見て母親は、いたたまれないなくなって、娘を怒鳴りつけた。
母が、娘を怒鳴りつけることなど、これまでなかった。怒鳴られた方も、そうでない方もぎょっとした。
「おやめ!! ジョスランが、他の留学した方々が、何とも思わないわけがないでしょ! お前は、弟を責め立てることしかできない。留学しようとしたジョスランをそうやって散々なまでに言ったのをもう忘れたの?」
「それとこれとは、別よ」
だが、姉の方は憤慨して出て行った。
「母上」
「とても優しい方なのでしょう? こんなことをしては、悲しむわ」
「あ、」
「無意識にしていたのね。すぐ手当てをしましょう。そうすれば、跡も残らないわ。それとキャトリンヌ様も火傷を負われたのが心配ね」
「……私は、烙印持ちに触れるるなどできませんでした」
ジョスランが、それを悔いているのが、ペトロニーユにはよくわかった。
「私とて、できないわ。キャトリンヌ様は、妖精の血が誰よりも濃いから、火傷で済んだのでしょうね。そうでなければ、腕どころか。命も危うく落とすところのはずよ」
「っ、」
「母にはわかりますよ。あなたは、逃げずにその場にいた。守ろうとしたのでしょう?」
「っ、立っていることしかできませんでした。キャトリンヌは、あんなに勇敢にフィオレンティーナ様を守っていたのに。私は……」
「キャトリンヌ様の怪我によいものを調べるわ。フィオレンティーナ様がお目覚めになられた時に怪我を気になさるはずだもの」
「……よく、なるでしょうか?」
「そればかりは、私にもわからないわ」
そう言いながら、ペトロニーユは貰ったハンカチを見つめて、刺繍の部分を撫でた。
そんなことをしているとハンカチが淡い光に包まれ、ジョスランの傷が癒えたのだ。それには、2人とも驚いた。
「「っ、?!」」
それを見た2人は、目をパチクリさせ、そしてキャトリンヌの家に急ぎ知らせなければと向かった。
連絡をすれば、よかったのだが、慌てた2人は何か条件があるのかも知れないと思ったのもあって急ぎ彼女の家に向かった。
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