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第2章
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しおりを挟むオギュストの方は、知らせを聞いてすっ飛んで来たが、学園長室に行って全てを終わらせてから、花の守り手のもとに急いでやって来て、その光景にショックを受けた。
花の守り手が誕生したのは久方ぶりだが、こんな光景を見た者はこれまでいなかったはずだ。
「フィオレンティーナ、助けて!」
「キャトリンヌ」
可愛い姪っ子の頼みにオギュストは、何とも言えない顔をした。それにキャトリンヌの手が酷いことになっていたのだ。それを見て烙印に触れたことは容易にわかった。
ジョスランが手当てをしようとしても、キャトリンヌはフィオレンティーナがどうにかなってしまうことの方が、一大事で聞き入れることはなかったため、そのままになっていた。
花の守り手となったフィオレンティーナの命の灯火が消えそうになっているのだ。それも、わからなくはないが。
左手に現れた花の守り手の証である花の種子は、蔦だけで蕾も何もなかった。
「蕾がないなんて……」
オギュストは、そんな状態の花の守り手に未だかつて会ったこともなければ、聞いたこともなかった。
「彼女には、妖精の縁が何もないんだ。それに花を踏まれて激怒するより、悲しくて壊れかけている」
「……ふむ、確かに。ここまで、花のために嘆き悲しむとは……花の守り手になられるだけはある。あの刺繍も、この方だな?」
リュシアンは、頷いた。
妖精たちが、伝えて来る想いにオギュストは、沈痛な顔をした。踏まれた花たちは、それよりもフィオレンティーナのことを気にかけていた。妖精たちも、そうだ。烙印が現れても、逃げ惑うこともせず、フィオレンティーナの側にいようと必死になっていたのだ。
その光景にオギュストは、涙が出そうだった。
「父上は?」
「花の守り手が誕生したが、同時に烙印が側にいたと聞いて籠られた。国民も、皆が花の守り手のために祈っている。それと彼女は、子爵家から勘当されて、国内から出て行くことになった」
「は?」
「よく、勘当になんてできましたね」
リュシアンは間抜けな顔をして、ジョスランもそれに怪訝な顔をした。
「双子の片割れと勘違いしたようだ。あまり話題にしたくないが烙印を勘当して、国内から追い出したと思ってやったことだ」
「……」
「私ではないぞ。あちらが、ペラペラと……」
「理事長!」
「そうだな。とりあえず、大人は私だけだから、私の養子として迎え入れよう」
「でも、それだけじゃ……」
国に入れても、保たない。彼女には、フォントネル国との強い絆が必要だった。
「ふむ。ジョスランは、婚約者がいるから無理は言う気はないが、リュシアン。彼女と婚約する気は?」
「っ、」
「理事長」
「彼女の命を守るためだ。彼女が目覚めて、他を望んだら、解消とする」
「それで、助かるのか?」
「……この状況では、戻り次第、他の婚約者を見つけて複数で守ることでぎりぎり保てるか、どうかだろう」
「……わかった」
リュシアンは、すぐに頷いた。願うなら、彼女が起きても婚約者のままでいたいが、決めるのは彼女だ。
理事長の言葉にキャトリンヌは……。
「ジョスラン」
彼女は、婚約者であり幼なじみを呼んで見つめた。親同士が決めた婚約だ。
キャトリンヌは泣き腫らした顔をしていた。その手は酷い状態になっていた。妖精たちが、心配してどうにかしようとしているが、近づくだけでも火傷しそうになっているというのに必死になってキャトリンヌの手当てをしようとしていた。
「キャトリンヌ」
「やめておけ」
「でも、彼女が……」
「彼女が起きた時にそれを聞いたら、更に悲しむ。彼女は、妖精たちにとって、花の守り手がどれだけ大事で大切な存在かを知らないんだ。自分の命のためにお前たちの婚約が駄目になったら、どんな反応するかは目に見えている」
「「っ、」」
キャトリンヌは、それでも彼女のためにできることなら、どんなことでもしたかった。それは、ジョスランも同じだった。その気持ちは、妖精の血が濃いからだ。どんなに惹かれていても、花の守り手の命のためなら、彼女を選ぶ。
でも、それで更に悲しませるのなら、それは誰のためにもならない。
「キャトリンヌ。その手を応急処置だけでもしろ。そのままでは、フォントネル国に戻った時に更に酷くなりかねないぞ」
「いい」
「キャトリンヌ」
「こんな、痛み、なんてこと、ない。何倍も、フィオレンティーナ、辛い」
その間にオギュストは大急ぎで、フィオレンティーナを義理の娘にする作業を行った。
「ふむ。これで、書類上は、義娘だな。リュシアン」
「わかっています」
婚約者としてサインした。そして、フィオレンティーナの頬に口づけをした。
「少し、顔色が良くなった……?」
「今のうちに国に帰ろう。彼女の持ち物は……?」
「片割れが、暴れ回っているようです」
「仕方がないな。大事なものがあったら、取りにこさせると言いたいが、ここには簡単には戻っては来られないだろう。……あちらで、用立てられるといいが。妖精たち、ここに長居は無用だ。花の守り手はフォントネル国に行く。残るなら、烙印がいるから覚悟しろ」
オギュストは、そういうと姪の手を一瞬で手当てしてから、杖で床を叩いて魔法陣が現れて全員を飲み込んで消えた。
彼としては、そのまま戻らせるなんて理事長としても伯父としても、できなかった。それでも応急処置にすぎない。
烙印に触れたのだ。そう簡単に治ることはないだろう。
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