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第2章

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「リュシアン様」
「この気配は間違いない。花の守り手だ」
「この国で、選ばれるなんて聞いたことがありませんが……」
「フィオレンティーナ!」
「「っ!?」」


キャトリンヌは、すぐに彼女しかいないと駆け出した。それをリュシアンとジョスランも、アイコンタクトして頷きあって、すぐに追いかけたが、キャトリンヌは物凄い速さでフィオレンティーナがどこにいるかをわかっているように迷いなく走って行った。

リュシアンとジョスランは、そのスピードに着いて行った。普通の人間なら息を切らしているだろうが、彼らは大したことなさそうにしていた。

そこで、見たのは気絶している痛々しい花の守り手となったフィオレンティーナと……。


「烙印!」
「え?」
「離れろ!」
「なっ、何よ?!」


チェレスティーナを親の敵のようにキャトリンヌは睨んでいた。いつもほのぼのとしている美少女が、激昂している姿にチェレスティーナはぎょっとした。

キャトリンヌは渾身の力で、チェレスティーナの身体をフィオレンティーナから引き離すべく押しやった。それこそ、妖精の血が濃い彼女が、烙印に触れるなんて煮えたぎった油に手を突っ込むようなものだったが、そんなことお構いなしにキャトリンヌはやってのけた。


「フィオレンティーナ。フィオレンティーナ」


烙印に触れたことで、キャトリンヌの手が大変なことになっていたが、そんなことどうでもいいとばかりに彼女はフィオレンティーナを必死に呼んだ。

フィオレンティーナに触りたいが、手が大変なことになっていて触れなかったが、必死になって呼んでいた。


「キャトリンヌ」
「死んじゃう。どっちも、死んじゃう」
「落ち着け。“妖精たち。父上と理事長に知らせろ。花の守り手が誕生したが、危険だ。近くに烙印もいると。それと妖精たちみんなにこの国から避難するように伝えろ。ここには先がない”」


リュシアンの言葉に妖精たちは、頷いて動いた。リュシアンは、キャトリンヌの手をどうにかしようとするが、フィオレンティーナの方が先決だとして拒否するように首を振った。

ジョスランは、婚約者とフィオレンティーナを守るようにチェレスティーナに立ちはだかった。


「彼女から、離れてくれませんか? ……というか、私たちから離れてください。気分が悪くなる」
「っ、」


チェレスティーナは、ジョスランにそんなことを言われて不愉快そうな顔までされたことに激怒した。

ジョスランは、それに気分を悪くさせた。崩れ落ちそうになる身体を叱咤して、意地でそこを退こうとしなかった。フィオレンティーナとキャトリンヌを庇うように立ち塞がるのをやめはしなかった。

リュシアンは、フィオレンティーナに近づけないことが先決だとして、ジョスランを下がらせて、そこに立った。実に不愉快な存在を見ることになったが、それでも退くことはなかった。

ジョスランはキャトリンヌの手を見て泣きそうになっていたが、リュシアンと同じく手当てをさせてはくれなかった。

騒ぎを聞いて他の生徒や先生方も、そこに集まってきた。


「花の守り手……? それに……」
「なんだ? 気持ち悪いな」


生徒たちは、子爵家の双子を見てそんなことを言っていた。

チェレスティーナは、肌に茨の痣が蠢いていた。入れ墨と違い動くそれに眉を顰めて、更には見ているだけで、側にいるだけで気持ち悪くなる面々が、チェレスティーナから距離を置こうとするのに必死になった。

リュシアンが、フィオレンティーナを運ぶことになり、彼女たちの両親がすぐに呼ばれることになった。

チェレスティーナは、学園に入れるのもあれだとなり、先生方が寮の自室で大人しくしていろと言うも、怒っていて大変だった。

誰も彼女に触りたがらなかった。近づきたくはないと思うほどだったが、花の守り手の側にいられては、この国が危うくなるとわかっている面々が、どうにかこうにかして、チェレスティーナを自室へと引っ込めさせていた。

もっとも、そこに入れられても、チェレスティーナは大人しくなんて長くはしてはいなかったが。


「何よ! 何で、私が、ここに閉じ込められなきゃならないのよ! みんな、フィオレンティーナのせいなのに!!」


全てが、私がいるせいだとチェレスティーナの内側から怒りが爆発しそうになって、部屋に大人しくなんて数十分ももたずにフィオレンティーナの自室に向かって暴れるまで、大した時間はかからなかった。


「っ、部屋から出るな!」
「煩い! 指図しないで!」
「っ」


先生方の制止も聞かず、部屋に戻らせようとする面々を信じられない力でなぎ飛ばして、フィオレンティーナの部屋へと向かった。

生徒たちは、そんなチェレスティーナに怯えて、ただ恐ろしさに震え上がっていた。


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