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第2章
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しおりを挟むチェレスティーナの手紙が届いても、子爵夫人はしばらくその手紙を放置していた。娘からの手紙に緊急性などないと思っていた。
だが、返事が中々来ないことに苛立ってか。チェレスティーナから、数日置きに手紙が来て、ようやく手紙を読む気になったのは、最初に手紙が届いてから半月ほど経っていた。
「っ、?!」
ようやく、手紙を読んだ子爵夫人は、一つだけを読むつもりが、届いた手紙の全部をすぐに開封して読んだ。
「なんてことなの。こうしてはいられないわ」
チェレスティーナの母親は、ようやく動いた。
どこのパーティーにも呼ばれなくなって、暇を持て余していたというのに大したことではないだろうと娘の手紙を読みもせずに放置していたのは、彼女だ。
それが、放置していたのは自分だというのに物凄く焦っていた。チェレスティーナと同じく流行りの先駆けになりそうだと思ったのも大きかった。
「急を用するなら、もっとわかりやすい手紙を送ればいいのに」
チェレスティーナに文句を言いながら、すぐにでも行動しなければ、他の貴族に真似されかねないとそれまでが嘘のように必死になっていた。
似たようなのを作らせようとして、街で作ってもらえそうなところに駆け込んで話をしたが、どこも難色を示して請けおってもらえなかったことにイライラし始めたのは、最初に断られてからずっとだった。
それこそ、せっかくのチャンスなのにと思っていた。誰も彼も見る目がないとすら思っていた。そんなことを思うようなセンスなど、彼女には欠片もないというのに。
「お金ならいくらでも出すわ!」
もう、断れたくないと息巻いていた。すると面倒くさそうにその店の店主はこう言った。
「……金なんて、いくら積まれても受けるとこなんてないですよ」
「な、何でよ?!」
そんなことを言われて詰め寄った。他は、できないとしか言わなかったのだ。
「このアイディア、フォントネル国の証人つきで制作者がちゃんと認められているんですよ。それに比べるとこれは、似ても似つかないような粗悪品もいいとこですけど、明らかに模倣したものだとわかるものを作ったとしられたら、店の名に傷がつく。関わった者も同じく、あちらの国に目の敵にされたら、この店なんてひとたまりもない。というか、そんなこと、よそでも頼んでませんよね? 流石にそんなことしてたら、外をまともに歩けなくなりますよ。まぁわかっているでしょうけど。巻き込まれたくないので、二度と来ないでください」
「っ、」
子爵夫人は、そこにたどり着くまでに色んな店で騒いでいた。そのせいで、あそこの夫人がとんでもないことをしようとしていると噂されることになるのも、あっという間のことだった。
それでも、夫人は大袈裟だと思っていた。
「全く、騒ぎすぎよ」
だが、その日のうちに夫にまで知られて、仕事から帰宅した夫に怒鳴りつけられたのだ。
「なんてことをしてくれたんだ!」
「っ、」
まさか、夫が既に知っているとは思っておらず、たじろぐも謝罪することはなかった。
「し、知らなかったのよ。チェレスティーナが手紙を寄越して、あの子のアイディアだとばかり」
「チェレスティーナが? 大方、学園で見たのを手紙にしたんだろ」
大喧嘩となった子爵夫人は、夫に物凄く怒られて、更にこれまで以上に周りから白い目を向けられ、ひそひそと貴族だけではなくて、平民からも陰口を囁かれることになり、怒り心頭となった。
そんなことになったのも、紛らわしい手紙を寄越したチェレスティーナのせいだと思って、手紙で怒りを剥き出しにしたものを送った。
チェレスティーナの父親は、妻のしでかしたことのせいで、仕事をしていても笑い者にされて、家に引きこもることになって、夫婦の仲は最悪なものになっていった。
使用人たちは、質が落ちたとされて、一掃したかったようだが、新しく雇うことが難しくなって一斉に解雇できずにいた。
夫婦で顔を会わせれば喧嘩する二人に食事がまずいと言われ、掃除が行き届いていないと怒鳴られて使用人たちもイライラした日々を送っていた。
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