前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら

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第2章

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リュシアンは、フィオレンティーナから花の刺繍の入ったハンカチと交換することになった日に叔母であるクラリスに話したいことがあると叔父である隣国の理事長のオギュストに珍しくも個人的に連絡していた。

それは妖精の血が入っているものにしか使えない連絡手段だ。だが、オギュストにしても、その妻に話したいことがあると連絡したのは初めてだった。


「クラリスに?」
「素敵な花の刺繍の入ったハンカチと叔母上のお菓子のレシピを交換できそうなんです」
「……リュシアン」
「キャトリンヌとジョスランも、それぞれ交換することに決めています。勝手に交換することにしたことは謝ります。ですが、叔母上も喜ぶはずです。ここにそのハンカチもあります。見てくだされば、わかっていただけるかと……」
「……わかった。妻に話す。その時にそのハンカチを見せてくれ。お前が、妻にと選んだものを先に見るわけにいかない」
「いえ、刺繍はキャトリンヌが選んだんです」
「……そうか。それでも、妻に見せるのが先だ」


リュシアンは、それに頷いた。

オギュストは、そんな甥に珍しいと思っていたが、それでも喜ぶことをしようとしていることに嬉しくも思っていた。

それを伝えれば、妻が喜ぶのは明らかだ。








数時間後、オギュストから話を聞いたクラリスは甥のリュシアンの話とプレゼント用のケースに入ったハンカチを見て、感嘆していた。

ハンカチ程度なら、クラリスのところにすぐに届けられた。食べ物だと色々面倒になるが、そうはならなかったことで、それを手にしたクラリスは久しぶりに見るほどに喜びを爆発させていた。


「なんて素敵なのかしら! これと私のお菓子のレシピだなんて、そんな、釣り合わないわ」
「彼女も了承済みです。その、できれば、こちらの国で作れるレシピも添えてもらえませんか? 彼女が作れるものもあると喜ぶと思うので」
「わかったわ。私のとっておきとそちらでも手に入りやすい食材のものを選りすぐるわね。……それでも、足りないわ」
「クラリス」
「旦那様、どうしましょう。こんな素敵な交換は、生まれて初めてだわ。リュシアンが、私のためにしてくれたのも、とても嬉しいわ。この花の想いのこもった刺繍もそうよ」
「交換を頼んだのは私ですが、それを選んだのは、キャトリンヌです。彼女が、最初に自分の染めたハンカチをあげると言い出したことが、発端でした」


それを聞いて、オギュストたちは物凄く驚いた。


「あの子が……?」
「やっと綺麗に一人で染め上げられたと私にも見せてくれたわ。あれをあげたというの?」
「はい。彼女は、それを見て、一度はもらえないと断っていました。すると以前、キャトリンヌとジョスランが見せてもらって感激していた刺繍と交換をしないかと言ってくれたんです。後日、6枚のハンカチを持って来てくれて、キャトリンヌは選べないと困っていると全部あげると言い出したんです」


クラリスは、自分の手元のハンカチを見つめた。


「これ以外のハンカチをあげると……?」
「はい。でも、交換だからとキャトリンヌはそれを断って、ならばと染めに使える花と染め方を教えてくれと言って、その分を2枚とジョスランには、この国の料理のレシピと若者向けの料理を姉が得意だからとレシピをもらうと言って、姉へとプレゼントしたいと言ったんです。すると彼女は、母親の分も必要だろうと言ってくれて」
「そう。優しい方なのね」
「えぇ。ですが、キャトリンヌが1枚を母親にあげるとみんなと同じ1枚になってしまって、他の者がもらいにくいことになるとして、キャトリンヌが2枚にして、キャトリンヌの母に1枚となったんです。あと1枚。そのハンカチを交換したくて、何かないかと私が彼女に聞いたんです。……その、かなり困らせてしまいましたが、我々の国のお菓子にも興味があるようです。お菓子のことも言い出したのは、キャトリンヌでした」
「素敵な令嬢ね。これを作れるのだもの。……わかったわ。リュシアン、ありがとう。とても、嬉しいわ。そうだ。ここでしか食べられないお菓子も届けるわ。久しぶりだから、上手くできるかわからないけれど、みんなで食べてくれる?」
「っ、!? もちろんです!」
「クラリスのお菓子!」
「旦那様。久しぶりだから、味見をしてくださる?」
「もちろん! リュシアン、ありがとう。キャトリンヌにも、お礼を言ってくれ。その令嬢にもだ」
「そうね。よろしく伝えてね。必ず、交換分はお届けするわ」
「はい。それでは」


リュシアンは、一礼して連絡を終えた。

クラリスは、にこにことしていた。


「ふふっ、私が独り占めしたかと思ったら、留学生たちは良い出会いがあったようですね」
「あぁ、彼らだけが、私の言葉に動いてくれたからな」


オギュストは、妻がやる気になっているのににこにこしていた。花の刺繍入りのハンカチが羨ましいが、おかげで妻のお手製のお菓子を食べれることにうきうきしていた。愛してやまないクラリスが、また再びお菓子を作る日が来たことに感激していた。


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