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第2章
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しおりを挟むキャトリンヌは、ある日、こんなことを言った。
先程まで、フィオレンティーナもいたのだが、相変わらず忙しくしているようで、時間になると申し訳なさそうにいなくなった。
もっと一緒にいたいと思うことは、いつものことだが、また明日会えるとわかっている分、キャトリンヌが縋り付くことはなかったし、約束を毎日少しずつ果たしているため、それもキャトリンヌには丁度よかったようだ。
こんな状態で、留学期間が終わったら、どうなることやらと既にその辺に不安もあったが、ジョスランとリュシアンはその辺のことを考えないようにしていた。
彼女だけでなくて、男性二人も、フィオレンティーナと別れることになったら耐えられるかがわからなくなっていた。
そんな風に思うようになっていた時にキャトリンヌは、笑顔で他の留学生に言った。
「フィオレンティーナと王立植物園、行きたい!」
突拍子もないことを言うのは、キャトリンヌらしい。なぜいきなり?なんてことを思う面子ではなかった。
すぐにジョスランが、こんなことを言った。
「それこそ、泣いて喜ぶでしょうね」
「ん!」
「妖精たちも、喜ぶはずだ。今ですら、あんなに喜んでいるからな」
リュシアンも、キャトリンヌの言葉にそんなことを言った。
フィオレンティーナが、花の側に近づくとそこに住まう妖精が嬉しそうにするのだ。彼女はただの人間で聞こえていないし、見えていないとわかりながらも、必死になって妖精たちはフィオレンティーナに話しかけて、視界を飛び回っていた。
時折、花を見て嬉しそうに笑うのを見て妖精たちは狂喜乱舞していた。それは決してフィオレンティーナが妖精を見たからではない。ただ、花を見て微笑んでいるだけだったが、それでもフィオレンティーナが花を見て笑うだけでも喜んでいた。
リュシアンは、そんなことを見ていたのを思い出しながら、現実を口にした。
「だが、フィオレンティーナはただの人間だ。花に関していくら詳しくとも、庭師のような職人ではないから雇入れることもできない。ただ、王立植物園の見学だけでは申請しても難しいだろう。それに申請しただけでは、妖精の血が流れていない彼女には厳しいはずだ。血が少しでも流れていれば、多少は耐性があるだろうが、それがない者が申請だけで国に入れば、命が危ういことになりかねない」
「……そうですね」
「あぅ」
リュシアンの言葉にジョスランとキャトリンヌは、しょぼんとした。だが、すぐにジョスランは落ち込むのをやめて婚約者を見た。いつもなら、落ち込むなんてせずにキャトリンヌを気にしていたが、ジョスランは耐えられずに落ち込んでしまったのだ。それは、とても珍しいことだった。
キャトリンヌは、フィオレンティーナの命が危ういと聞いて、泣きそうになっていた。連れて行かなければ大丈夫なのだが、それを想像してしまったようだ。顔色を悪くして悲痛な顔をしていた。
そんなキャトリンヌをジョスランはすぐに抱きしめて慰めながら、フィオレンティーナの命が危うくなることに辛そうな顔を己自身もしていた。
それを見てリュシアンも、同じ思いをしていた。顔には出さないようにしていても、フィオレンティーナの命が危ういことになることだけは、絶対にできないと思っていた。
そんなことになれば、リュシアンだけではない。キャトリンヌとジョスランも、自分の心臓が止まりそうに思えてならなかった。
それは、冗談でもなければ、大げさでもない。
それだけ、フィオレンティーナの存在は大きなものになっていたが、そんな話をされていることもフィオレンティーナは知りもしなかった。
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