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第2章
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しおりを挟む他の庭師の奥様方は、ジェズアルドの妻からフィオレンティーナに教わっていると聞いて、自分も習いたいと言い出して集まって来た。
フィオレンティーナは手仕事を覚えるのもいいことだと思って、婦人会のように奥様方に刺繍を教えるようになった。それが、内職にもなればいいと思っていたが、それはまだ難しいようだ。
(いい出来だと思うけど、庭師の妻が作ったものでは貴族は持ちにくいみたいね。変なプライドがあるのよね)
授業が終わって、フィオレンティーナはぼんやりしていた。すると隣から声をかけられたことで、意識を戻した。
「フィオレンティーナ。それ、どこ、買った?」
「え?」
「おや? 素晴らしい刺繍ですね」
図案を考えていたフィオレンティーナは、自分のハンカチを見つめていた。それにキャトリンヌは目を留めたのだ。
キャトリンヌの声にジョスランも、素晴らしいと目を輝かせていた。
二人とも、花のモチーフのものを見ると嬉しくなるようだ。妖精の血を引く者たちは、大なり小なり花が好きなようだ。それが、よくわかった。
「えっと、自分で刺繍したものです」
「凄い!」
あまりにも無邪気に目を輝かせるキャトリンヌにフィオレンティーナは、ふと思ったことを聞いてみることにした。
「キャトリンヌ様の国では、刺繍の流行りとかってあるんですか?」
「ん? 刺繍より、お花、染める、多い」
「染め物。なるほど」
「うん! ほら!」
キャトリンヌは、国のことを聞かれて機嫌よく、フィオレンティーナにハンカチを見せた。綺麗に染められた可愛らしいピンクのハンカチだった。
フィオレンティーナの国では、白いハンカチが一般的だった。
フィオレンティーナは、ハンカチを見せてもらって、その柔らかな色合いに微笑んだのは、すくだった。
「糸を染めたりして、刺繍したら、もっと綺麗になるかも」
「もっと?」
「ここの花は光の加減でグラデーションに見えるので、糸の種類が多ければ、もっと本物みたいにできると思うんですよね」
「フィオレンティーナ、お花、よく見る!」
「え?」
キャトリンヌは、花に詳しいフィオレンティーナに目を輝かせていた。それに感激しているのに驚いてしまった。
「そういう風に刺繍するのが、こちらの流行りなんですか?」
「これは、単なる私の趣味です」
ジョスランの言葉にフィオレンティーナは、苦笑していた。
(ここの流行りなんて、知らないな。習えば器用な人は多いけど。流行り出したら、凄いことになりそうだけど、まだ、そこまでではないのよね)
ただ、恥をかくようなものはよくないと調べたくらいで、流行りと呼べるものはなかった。
「趣味ですか。凄いですね」
「フィオレンティーナ。私も、お花、刺繍、する!」
「キャトリンヌ」
「?」
「針仕事は、難しいと思いますよ」
「むぅ~」
キャトリンヌは、ぷくぅ~と頬を膨らませた。ジョスランは、指を血だらけにするだけだと思っていた。だが、キャトリンヌは不満な顔をしたままだった。
「指を指したら、かなり痛いと思います」
「っ、痛い、嫌い!」
ジョスランの言葉にキャトリンヌは震えあがって、彼に抱きついた。どうも短絡的な思考をしているようだ。
それにフィオレンティーナは苦笑してしまった。
(確かに向き不向きがあるわよね。血だらけになるのが目に見えているのに下手に教えるなんて言えないものね)
フィオレンティーナは、そんなことを思ってしまった。
「っと、すみません。もう行きますね」
フィオレンティーナは、次の移動教室に行かなければと立ち上がった。ここから、次の教室まで図書館で本を借りたかったのだ。
「うん。またね!」
しょんぼりとしていたかと思えば、キャトリンヌはフィオレンティーナに話しかけられて、パッと嬉しそうにして手を振った。
ジョスランは、苦笑しながら気にしなくても大丈夫ですよとフィオレンティーナに聞こえる声で言ってくれた。
(本当によくわかってらっしゃるわ)
そんな二人を見て、フィオレンティーナはそんなことを思っていた。
しょんぼりしていたのが嘘のようにキャトリンヌはぽつりと呟いた。
「フィオレンティーナ、聞いてくれた」
「そうですね。私たちの国のことに興味があるみたいでよかったですね」
「うん!」
キャトリンヌとジョスランは、にこにこしていた。
それこそ、フィオレンティーナのことで彼女たちが一喜一憂していることなど、フィオレンティーナは知る由もなかった。
そこまで、気に入られている理由に心当たりが全くなかった。ただ、花が好きな人たちなのだとしか思っていなかったが、フィオレンティーナだからこそだとは思いもしなかった。
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