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第2章
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しおりを挟む隣国からの留学生は、3人いた。
フィオレンティーナより1つ上のリュシアン・ラングラードという青年とキャトリンヌ・ドルブリューズとジョスラン・プランタジネットという婚約している二人だ。彼らは、仲睦まじくしていて、どこに行くにも一緒に行動していて、そこにリュシアンも時折まじっていた。
全員が、あちらから来ただけあって見目麗しかった。妖精の血を引く者は、見た目がいいと書いてあったのを見ていたフィオレンティーナは、確かにと思うほど、全員が整った顔立ちをしていた。
他の令嬢や子息は、その容姿に騒ぎとなっていたが、彼らはそれに慣れているようで、完全に無視していた。
キャトリンヌは美少女で天真爛漫で興味がわくとどこへなりとも気の赴くままに行ってしまうところがあった。それを婚約者のジョスランが、付き添って補助していた。
「あれ、見たい!」
「キャトリンヌ。後にしましょう。授業が始まりますよ」
「……」
授業と聞いても、キャトリンヌは不満な顔を隠すことはなかった。
「次は、合同ですよ? いいんですか?」
「っ、行かなきゃ!」
パァーと笑顔になって、キャトリンヌは駆け出していた。
「キャトリンヌ。走るのは危ないですよ」
「ん~」
ジョスランに注意されて速度は落ちて競歩のようになったが、それ以上咎めることはなかった。
そのおかげで授業に遅刻することはぎりぎりにはなったが、間に合った。合同授業だとジョスランに聞くとキャトリンヌは、特にやる気になって授業のある教室に向かった。
「フィオレンティーナ!」
「キャトリンヌ様、こんにちは」
「うん!」
フィオレンティーナの隣にキャトリンヌは、ご機嫌なまま座り、ジョスランも婚約者の隣に座りつつ、フィオレンティーナときちんと挨拶していた。それにも、フィオレンティーナは丁寧に返した。
フィオレンティーナの隣は、いつも誰も座りたがらない席にいた。何なら、前後も人がいなかったが、留学生が来てからは、それまでと違うところに座っていた。
ちらちらとキャトリンヌやジョスランに話しかけたそうにしているのが前後にいたが、留学生の二人は無視していた。
そんなことになっているのにも、フィオレンティーナは気づいていなかった。
フィオレンティーナの隣にいる時のキャトリンヌは、きらきらした目をしていた。見ているのは、黒板ではなくて、フィオレンティーナだった。彼女がそんな目をするのは、花や妖精に関することだけだったが、そこにフィオレンティーナが含まれるようになったのは、合同授業でキャトリンヌがフィオレンティーナを見つけた時からだった。
何をそんなに気に入ったのかは、他の生徒や先生にもわかっていないが、とにかく留学生はフィオレンティーナを物凄く気に入ったのだ。
それなのに当の本人は、それに欠片も気づいておらず、今日も真剣にフィオレンティーナは授業を聞いていて、隣からの熱視線にすら気づいていなかった。
それに嫉妬していたのは、チェレスティーナだった。妬ましい視線を向けていたが、それにもフィオレンティーナは全く気づいていなかった。
チェレスティーナは、すっかり周りから孤立していた。前までフィオレンティーナが座っていたところに追いやられていた。その周りに座る者はいなかった。
フィオレンティーナは、合同になるとキャトリンヌとジョスランが側に必ず陣取るため、それを見れるようにといい席をすすめられたのだが、その理由にすら気づいていなかった。
授業中にフィオレンティーナは、庭師たちに読み書きを教える段取りや敬語をわかりやすく教えることをよく考えていた。
たまにあてられても、フィオレンティーナは器用に答えていた。それこそ、同時進行で物事をこなすことが得意になっていたことが、ここで大いに役立っていた。
用があれば呼び止められるから、そうでない時は段取りやそれそれの進み具合でやる気になるものを作るのに頭を悩ませていた。
(やっぱり、自分の名前が書けるようになるって楽しいのよね。自分の興味あるものも、覚えるのは楽しいし。自分の名前の次に花の名前を書けることを喜んでたな。みんな、花が好きなのよね)
ジェズアルドの奥さんは、子供たちの名前を刺繍したいと言い出していた。夫には、名前を刺繍したものでは恥をかきかねないから、いざという時に持てるようなハンカチの刺繍を教えてほしいと頼まれていた。
(こっちの貴族って、刺繍も凝ってはいないのよね。持っててもイニシャルくらいだし。それなのに親方さんが、目を引くのを持っていると色々言われかねないから、悩みどころだったのよね)
フィオレンティーナは、花のモチーフの刺繍も前世で何かとやっていた。それを祖母にあげて、物凄く喜ばれたのを思い出して懐かしさに微笑んだ。
祖母は、針仕事がてんで駄目な人だった。
ここでも、フィオレンティーナの刺繍は好まれるようだ。ジェズアルドたちの妻だけでなくて、他の家族の妻たちとも仲良くなって、フィオレンティーナは益々忙しくしていた。
貴族が持っているようなものと同じものでは何か言われかねなくとも、誰も持ってはいないもので、それなりのものは目ざとい貴族たちの目を引くのも確かだ。
しかも、それが妻の手作りとなり、読み書きもできることで、それなりに扱われる者もちらほらと見受けられて、その報告をフィオレンティーナは共有して喜んでもいた。
最近は、喜ばしいことばかりが増えていた。それもこれも、留学生たちに庭を気に入られたことも大きく影響していたようだ。
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