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第2章
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しおりを挟む帰ろうとしていた一人の夫人が、そんな必死な子爵夫人を見て呆れ果てた顔をした。
食べ物をこのタイミングですすめることに眉を顰めたのは、招待されている貴族たち全員がしていた。この状態で食べたら、絶対に大変なことになる。
それ以前に平然と食べ物をすすめてくる夫人を冷めきった目で見ずにはいられなかった。
「ここの食べ物、以前と比べ物にならないほど酷いわよ。ご自分で試食なさっているの?」
「え?」
子爵夫人は、そんなことを言われるとは思ってもいなかったので、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。
それこそ、家の食事も以前と比べて酷いものとなっているのだからわかりそうなものだが、夫人は都合よく考えていた。
誰もが絶賛しているのだ。手作りではなくて、どこかしらから買って来ているとでも思っていたのかも知れない。
その辺のことは、これまで数え切れないほどのガーデンパーティーを開いて来たが、一度として問題がなかったため確認なんてしていなかった。いつも、使用人に言うだけで完璧だった。その頃から使用人たちに任せていることに変わりがないのだ。そこを気にする必要なんてないと思っていたのも大きかった。
そもそも誰が準備に携わっているかを聞き出していたら、フィオレンティーナを学園に通わせてはいなかった。使い道があったのだ。ただでこき使われ続けていたのかも知れない。
そう考えれば、台無しにしようとしていたとして離されたことは、ある意味よかったのかも知れない。
「大方、あなたは接客に忙しくしていて、普段から食べていないみたいだから、その辺のことに気づいていないんでしょうけど。とても食べれたものじゃないわよ」
「っ!?」
それを聞いて、子爵夫人はテーブルのお菓子を手に取り、それを食べた。そんなはずがないと思っていたから、思いっきり食べてその酷さに噎せたのは、すぐだった。
ごほっ、ごほっとなり、お茶で流し込もうとして、そのお茶も一気に飲むも、信じられないほど不味くて吐き出しそうになるのを必死に耐えた。
誰もいなければ、我慢などせずに吐き出していただろう。
「自分が食べれないものを出すなんて最低なもてなし方ね」
「っ、」
それを白けた目で見て、一人が帰るとぞろぞろとみんなも帰って行ってしまっていたが、子爵夫人はそれどころではなかった。
何とか口にしたものを飲み込んで、帰って行く人たちに目もくれず、子爵夫人が睨みつけたのは別の方角だった。
「な、何よ。これ!? こんな不味いものを出していたなんて、ちょっと! どうなっているのよ?!」
使用人たちは、それに震え上がった。彼女たちはフィオレンティーナが準備していたのを手伝うどころか。見てもいなかったことで、フィオレンティーナが学園に行っているのもあり、やらせるなんてことができなかったのだ。そのため、何とか真似ただけで味までは再現できていなかった。
それこそ、子爵夫人のように食べて試食する余裕もなく、家事をやって、ガーデンパーティーの準備をして、くたくたになっていたのだ。どうせ、作っても自分たちは食べれないこともあり、見た目だけで大丈夫だろうと誤魔化していた。
それにあったお茶を出すこともできていなかった。それどころか、お茶の淹れ方1つもろくにできていなかった。ただ、値の張るものを買っただけで、それを無駄にしているだけだった。
そもそも、まともな使用人が一人としていなかったのが原因だ。
ずっと使用人の仕事をフィオレンティーナにやらせていたせいで、そこから何でも完璧にこなすフィオレンティーナから教わろうとしなかったのだ。
そのツケが今、この状況になっているのに叱られている方は、反省などしていなかった。こんなことになったのですら、フィオレンティーナのせいだと思って腹の中でボロクソに思っていたのは、使用人みんなだった。
そんなことになっていることに子爵夫人は、全く気づいていなかった。
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