上 下
40 / 99
第2章

14

しおりを挟む

子爵家で、ダヴィードのあとで金で雇われた新しい庭師は、子爵夫人の言うなりに動いていた。

金にいとめはつけないと言うので、庭師の心得などまるっきりなかったが、庭師たちが誰もやりたがらないことを不思議に思いつつ、その男性は見様見真似で以前の庭師よりも更に酷い庭を作り上げていった。そんな庭師とも呼べない者しか雇えなかったのだ。

みんな元の庭を知っていて、あの庭を覚えている庭師たちは超えることなどできないと引き受ける者がいなかったのだが、夫人はそんなことに気づくことなく、金に靡いただけの庭師でもない男を雇ったに過ぎなかったが、夫人は庭師を募集していたから、その男のことも庭師だと思っていて、特に経歴などを調べて雇わなかったのだ。そのせいで、とんでもないことになるとは思ってもいなかった。

それでも、高い金を払って雇ったのだから、どうにかなると思っていて、夫人はガーデンパーティーを開く準備を進めることにした。進めると言っても、ガーデンパーティーに出される物は使用人たちに指示するだけで、あとは出席する人たちを夫人が集めるだけだったが、それでいつも成功していたせいで、十分だと思っていた。

その結果、元の面影など全くない。以前を知らずとも酷い庭となって仕上がったのも、すぐだった。以前を知っている者たちは、実に残念なんて言葉では言い表せないようなものになっていた。

フィオレンティーナが、それを見たら卒倒していただろう。

以前よりも華やかさに溢れているはずが、ガーデンパーティーに参加している者を喜ばせる配置でもなければ、花のために良い環境で植えられているわけでもない。ただ、ちぐはぐと言うべきか。単品なら見応えがあるかも知れないが、それが寄せ集まっていて、どんな風に成長して咲くのかを知らずに植えたせいで、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。

更に華やかさばかりを重視して、開花したら強い匂いを放つ花たちが増えたことで、それが咲き乱れて気持ち悪い悪臭となり始めたのも、すぐだった。

できあがる前にガーデンパーティーを開くと触れ回ったこともあり、中止にすることなどできないと子爵夫人は無理やり開いた。


「……今日のお庭は、残念というか。強烈ね」
「庭師を変えたようだな」
「そういえば、高いお金で雇ったとか。……本当に庭師を雇ったのかしらね」


しばらくぶりに子爵家のガーデンパーティーに呼ばれた面々は、あまりの酷さに眉を顰めていた。ある者は鼻をハンカチで押さえて、ある者は扇で必死になって扇ぎ続けていた。


「このお庭なら、もう見なくともいいわ」
「そうだな。こんな庭なら、我が家の庭の方がマシだ」
「気分が悪いから失礼するわ」
「私も、帰らせてもらう」
「ま、待って。ぜひ、お茶とお菓子を召し上がっていってください」


子爵夫人は、何とか帰らせまいとして必死になっていた。

こんな庭を見せるなら無理して開くこともなかったと思うが、子爵夫人は必死になりすぎていて、そこに気づいていなかった。

それこそ、元々センスがあったかというと流行りだからとちぐはぐだろうとも身にまとっていた夫人だ。その辺のセンスのなさにも、彼女自身が気づいていないのかもあったのかも知れない。

これでも、辛うじてできるレベルだと思っていたのなら、そのセンスのなさはわかるところだろう。何より、悪臭を放っているのに平然としていたのは、子爵夫人だけだ。

その辺も、彼女らしいとその場で馬鹿にされ、笑い者にする者がいなかったのは、そこに長居したくなかったからに他ならなかった。できることなら、息をしたくない。

それほど、酷い匂いがしている中で平然としていられるのは、ある意味では凄いことだったが、そんなことで凄いところが発揮されても、使い道なんてあるわけがない。

ただ単に鼻がつまっているだけなのか。匂いにも疎いだけなのかはわからないが、そんな中でお茶とお菓子を食べて行けと言えるのは、彼女くらいだろう。

何にしても、一刻も早く帰りたい者たちばかりなことにも気づかない時点で終わっているとしか言いようがない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の矜持〜世界が望む悪役令嬢を演じればよろしいのですわね〜

白雲八鈴
ファンタジー
「貴様との婚約は破棄だ!」 はい、なんだか予想通りの婚約破棄をいただきました。ありきたりですわ。もう少し頭を使えばよろしいのに。 ですが、なんと世界の強制力とは恐ろしいものなのでしょう。 いいでしょう!世界が望むならば、悪役令嬢という者を演じて見せましょう。 さて、悪役令嬢とはどういう者なのでしょうか? *作者の目が節穴のため誤字脱字は存在します。 *n番煎じの悪役令嬢物です。軽い感じで読んでいただければと思います。 *小説家になろう様でも投稿しております。

両親や妹に我慢を強いられ、心が疲弊しきっていましたが、前世で結ばれることが叶わなかった運命の人にやっと巡り会えたので幸せです

珠宮さくら
恋愛
ジスカールという国で、雑草の中の雑草と呼ばれる花が咲いていた。その国でしか咲くことがない花として有名だが、他国の者たちはその花を世界で一番美しい花と呼んでいた。それすらジスカールの多くの者は馬鹿にし続けていた。 その花にまつわる話がまことしやかに囁かれるようになったが、その真実を知っている者は殆どいなかった。 そんな花に囲まれながら、家族に冷遇されて育った女の子がいた。彼女の名前はリュシエンヌ・エヴル。伯爵家に生まれながらも、妹のわがままに振り回され、そんな妹ばかりを甘やかす両親。更には、婚約者や周りに誤解され、勘違いされ、味方になってくれる人が側にいなくなってしまったことで、散々な目にあい続けて心が壊れてしまう。 その頃には、花のことも、自分の好きな色も、何もかも思い出せなくなってしまっていたが、それに気づいた時には、リュシエンヌは養子先にいた。 そこからリュシエンヌの運命が大きく回り出すことになるとは、本人は思ってもみなかった。

辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです

くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は…… ※息抜きに書いてみたものです※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、トラウマ級の幼馴染を撃退したい。

夜乃トバリ
恋愛
 私こと佐藤 澪(さとう みお)は、ただの幼馴染である北小路 レイナ(きたこうじ れいな)に殺されて異世界に転生した――。  え?ここってレイナが好きだった乙女ゲームの世界??この顔って、もしかして悪役令嬢??? レイナから散々聞かされた悪役令嬢の末路は、婚約者の心を奪ったヒロインに嫉妬して闇の力に目覚めて魔王となり、ヒロインと婚約者に殺される運命――それも回避したいけど、それよりも気になる事が……レイナ、いるよね?この世界に……――。  攻略対象の王太子さまは殺され仲間のあの人で……私は決心した。アイツを撃退して今度こそ穏やかな日常を手に入れるのだと……。    ※    ※    ※  何番煎じな感じですが、悪役令嬢ものです。一応、ざまぁになる……はず。  短編設定から中編、長編には至らないと思っていたのですが、予想以上の文字数になってしまったので、長編へと変更させて頂きました。変更2021.02.14  当初不定期更新の予定でしたが、何とか安定的に更新出来ている状況です。今後更新『時間』は不定期になります。また更新のお休みが事前に分かっている時は、告知を入れる事にしています。  色々と申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。2021.02.14

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

母は、優秀な息子に家の中では自分だけを頼ってほしかったのかもしれませんが、世話ができない時のことを全く想像していなかった気がします

珠宮さくら
恋愛
オデット・エティエンヌは、色んな人たちから兄を羨ましがられ、そんな兄に国で一番の美人の婚約者ができて、更に凄い注目を浴びる2人にドン引きしていた。 だが、もっとドン引きしたのは、実の兄のことだった。外ではとても優秀な子息で将来を有望視されているイケメンだが、家の中では母が何から何までしていて、ダメ男になっていたのだ。 オデットは、母が食あたりをした時に代わりをすることになって、その酷さを知ることになったが、信じられないくらいダメさだった。 そんなところを直す気さえあればよかったのだが……。

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

処理中です...