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第2章
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しおりを挟む子爵家で、ダヴィードのあとで金で雇われた新しい庭師は、子爵夫人の言うなりに動いていた。
金にいとめはつけないと言うので、庭師の心得などまるっきりなかったが、庭師たちが誰もやりたがらないことを不思議に思いつつ、その男性は見様見真似で以前の庭師よりも更に酷い庭を作り上げていった。そんな庭師とも呼べない者しか雇えなかったのだ。
みんな元の庭を知っていて、あの庭を覚えている庭師たちは超えることなどできないと引き受ける者がいなかったのだが、夫人はそんなことに気づくことなく、金に靡いただけの庭師でもない男を雇ったに過ぎなかったが、夫人は庭師を募集していたから、その男のことも庭師だと思っていて、特に経歴などを調べて雇わなかったのだ。そのせいで、とんでもないことになるとは思ってもいなかった。
それでも、高い金を払って雇ったのだから、どうにかなると思っていて、夫人はガーデンパーティーを開く準備を進めることにした。進めると言っても、ガーデンパーティーに出される物は使用人たちに指示するだけで、あとは出席する人たちを夫人が集めるだけだったが、それでいつも成功していたせいで、十分だと思っていた。
その結果、元の面影など全くない。以前を知らずとも酷い庭となって仕上がったのも、すぐだった。以前を知っている者たちは、実に残念なんて言葉では言い表せないようなものになっていた。
フィオレンティーナが、それを見たら卒倒していただろう。
以前よりも華やかさに溢れているはずが、ガーデンパーティーに参加している者を喜ばせる配置でもなければ、花のために良い環境で植えられているわけでもない。ただ、ちぐはぐと言うべきか。単品なら見応えがあるかも知れないが、それが寄せ集まっていて、どんな風に成長して咲くのかを知らずに植えたせいで、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
更に華やかさばかりを重視して、開花したら強い匂いを放つ花たちが増えたことで、それが咲き乱れて気持ち悪い悪臭となり始めたのも、すぐだった。
できあがる前にガーデンパーティーを開くと触れ回ったこともあり、中止にすることなどできないと子爵夫人は無理やり開いた。
「……今日のお庭は、残念というか。強烈ね」
「庭師を変えたようだな」
「そういえば、高いお金で雇ったとか。……本当に庭師を雇ったのかしらね」
しばらくぶりに子爵家のガーデンパーティーに呼ばれた面々は、あまりの酷さに眉を顰めていた。ある者は鼻をハンカチで押さえて、ある者は扇で必死になって扇ぎ続けていた。
「このお庭なら、もう見なくともいいわ」
「そうだな。こんな庭なら、我が家の庭の方がマシだ」
「気分が悪いから失礼するわ」
「私も、帰らせてもらう」
「ま、待って。ぜひ、お茶とお菓子を召し上がっていってください」
子爵夫人は、何とか帰らせまいとして必死になっていた。
こんな庭を見せるなら無理して開くこともなかったと思うが、子爵夫人は必死になりすぎていて、そこに気づいていなかった。
それこそ、元々センスがあったかというと流行りだからとちぐはぐだろうとも身にまとっていた夫人だ。その辺のセンスのなさにも、彼女自身が気づいていないのかもあったのかも知れない。
これでも、辛うじてできるレベルだと思っていたのなら、そのセンスのなさはわかるところだろう。何より、悪臭を放っているのに平然としていたのは、子爵夫人だけだ。
その辺も、彼女らしいとその場で馬鹿にされ、笑い者にする者がいなかったのは、そこに長居したくなかったからに他ならなかった。できることなら、息をしたくない。
それほど、酷い匂いがしている中で平然としていられるのは、ある意味では凄いことだったが、そんなことで凄いところが発揮されても、使い道なんてあるわけがない。
ただ単に鼻がつまっているだけなのか。匂いにも疎いだけなのかはわからないが、そんな中でお茶とお菓子を食べて行けと言えるのは、彼女くらいだろう。
何にしても、一刻も早く帰りたい者たちばかりなことにも気づかない時点で終わっているとしか言いようがない。
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