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第2章
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しおりを挟む子爵家にもう一人令嬢がいたのかと驚いていた者は後を絶たなかった。
「双子なんて、初めて聞いたわ」
「私もよ」
「パーティーには、チェレスティーナ様しか出てなかったみたいだけど」
「あっちの方が、まともそうなのに。不思議ね」
平民と同じものでも気にもとめず、見知らぬ者でしかないせいで子爵家の令嬢だと思わずにそれを出したが彼女は全く怒らず、むしろ美味しかったと作った者に礼まで言ったのだ。
料理人は、子爵家の令嬢に平民と同じものを出したとわかって顔色を悪くさせて、貴族の食事を出すようにしたが、平民の食事の方が素朴で美味しかったと言い、わざわざそちらを食べ始めたことは、すぐに噂になった。
噂になっていても、フィオレンティーナはそんなことになっていることに全く気づいていなかった。本当に平民と同じものの方が、フィオレンティーナの口にあっただけのことなのだ。
作っている方は毎回美味しいやら、これはどうやって作るのかと聞かれ、それに答えるうちにフィオレンティーナが、アレンジをしても美味しそうだと言うようになり、そのアレンジを聞くうちに平民の食事の方のレパートリーが増えていくことになるとは、思ってもいなかった。
そのため、味見をしてくれとフィオレンティーナを見かけると1品や2品ほど、フィオレンティーナのトレーには品数が多く乗せられることになり、それにも気さくに答えるフィオレンティーナは食堂の料理を担当している人たちからは好かれることになるのだが、貴族らしからぬことに変わりはなかったため、いい顔されることはなかった。
それでも、平民たちは密かに喜んでいた。フィオレンティーナがあれこれ注文をつけていると初めは勘違いしていたが、明らかに平民専用の食事が美味しくなり、レパートリーも充実して、食べるのが楽しくなったのだ。
だが、そんなことで平民たちには密かに好かれていることにも、そのことで益々貴族から疎まれることになることも、フィオレンティーナは気づいていなかった。
学園の食堂のメニューが美味しくなっていくことを怒る者などいない。逆なら不満が爆発するだろうが、ハズレなく美味しいものが増えたのだ。怒るはずがない。そんなことして、元に戻ったら困るのは利用している者たちだ。
最初は、双子だと聞いて似てないとまで言われていて、異常なまでに痩せている姿に眉を顰める者が大半だった。
だが、それでフィオレンティーナにわざわざ声をかける者はいなかった。みんなチェレスティーナに嫌われたくない者たちばかりで、そうでない者は面倒ごとに関わりたくなくて、無視していた。
食堂の料理人は、フィオレンティーナに偏食があるのかと気にかけていたが、料理のアレンジやらを色々思いつくところから、何かしらあって食べられなかった時期があったようだと思うようになったのは、すぐだった。
だからといって、その辺のことを深く追求しようとした者は、料理人たちの中にもいなかった。
あの有名になっている子爵家で、双子だというのにその姿を見かけたこともないとまで言われているフィオレンティーナだ。その辺のことを聞いたら、面倒に巻き込まれると思ってもいた。それに面倒に巻き込ませないためにフィオレンティーナが、その辺の話をしないのだと思ってもいた。
そんな風に周りに気遣われていることにもフィオレンティーナは全くしていなかった。それどころか、本人は好きなことしかしていないに過ぎなかったのだが、いい具合に平民出身の者には、その辺りは勘違いされていた。
それに比べて、貴族たちはみんな子爵家のガーデンパーティーに呼ばれたことがある者ばかりだった。
パーティーの裏方ばかりしていたフィオレンティーナは会ったこともなかったため、誰が誰やらわからず、だからといって知りたいとも思っていなかったことを周りは全く気づいていなかった。
フィオレンティーナは、こんなことを思っていた。
(貴族の名前と家柄くらいは覚えているけど、顔と名前が一致しないのよね。……まぁ、話しかけられたりしないから、今のところは全く困らないけど)
ガーデンパーティーに呼ばれるために色々している面々がいることも、フィオレンティーナは知らずにいた。
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