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第1章
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しおりを挟むフォントネル国の学園の理事長のところで話題にのぼっているとも知らず、ましてやトゥスクルム国の子爵家のガーデンパーティーに彼がお忍びで来ていたことにも、フィオレンティーナの両親や妹、その時に参加していた者たちの誰も知らないままだった。
ただ、フィオレンティーナだけが、厨房でお菓子やお茶の準備をしながら、庭が気になって仕方がなかった。
(……変な感じ。前世で、おばあちゃんが世話していた憩いの場で感じていた感覚が、ここでもしてる。こんなの初めてだわ)
そんなことを思ってフィオレンティーナは、懐かしさに涙した。そんな風に泣いたのは、前世の夢を見た時だけだった。
転生してからのフィオレンティーナは、そんな風に泣いたことはなかった。それでも、その日のガーデンパーティーもちゃんとしていた。
でも、前世の祖母の世話していた憩いの場に自分が世話している庭が近づいた気がしたことで、フィオレンティーナは油断してしまったようだ。
そこから、数日して、今までひた隠しにしていたことがバレることになるとは、思ってもいなかった。
フィオレンティーナが、花の世話をしていることがバレてしまったのだ。いや、世話をしていたとバレたのとは少しどころか、かなり違っていた。
両親からも双子の妹のチェレスティーナからも、フィオレンティーナは散々なまでに怒鳴られることになった。
「何を考えているんだ!!」
「っ、」
「お前のような役立たずな娘が、あの庭をいじって台無しにしたら、どうするのよ!!」
「そうよ。せっかく評判になっているのに。それを壊そうなんて、どうかしているわ! どうせ、ガーデンパーティーにも出席させてもらえないから、妬んでいるんでしょうけど、あんまりだわ!」
フィオレンティーナが、ずっと庭を世話していたことを知らない家族に散々なことを言われてしまったのだ。何年も、ろくに顔をあわせなくとも気にもしていなかった人たちだったが、庭のことでちやほやされていることもあり、フィオレンティーナは見事なまでに変な誤解をされてしまったのは明らかだった。
(どうして、私が妬んでいると思うんだろ。そんな感情、この人たちに持ったことなんてないのに)
特に母親とチェレスティーナは、怒鳴りたりないとばかりに色々と言ってきて酷いなんてものではなかった。
フィオレンティーナは、花のことに無知で、花の世話なんてまともにできないと思っているようでもあった。以前、土いじりをするなんて貴族らしくないと色々と言っていたのにそれをすっかり忘れているようだった。
逆にあの庭を酷くできることを信じて疑わない辺りが、フィオレンティーナが家族にどう思われているかがよくわかるというものではないかと思えてならなかった。
(この人たちの私の評価は、そんな感じってことね。部屋で好き勝手させてやっているのにってこともあるんだろうけど。……真逆な勘違いをされるとは思わなかったわ)
フィオレンティーナは、無類の花好きだ。前世の祖母にその辺りは転生した今も同じで、そこだけは変わらず手放せなくて生まれ変わった気がしていた。
なのに転生した家族には、そんな風に誤解されて何とも言えない顔をしてしまった。
そんなことをしたことをフィオレンティーナの婚約者の伯爵子息のアンセルモ・オルシーニも耳にしたのも、すぐだった。
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