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第1章
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しおりを挟むそれが、突然、子爵夫人が庭を自慢し始めて、すぐに信じられるわけがなかったのだが、フィオレンティーナの母親は必死になっていた。
それこそ、センスの欠片もないはずなのに庭が素敵になったことはわかったのだから、そこは凄いと思うべきなのかも知れないが、それはそれで変なことになっていた。
「そこまで言うなら見てみたいわね」
「そうね。そんなに素晴らしいなら、ガーデンパーティーを開いてくださらないかしら? そうすれば、みんなで見れるわ」
「えぇ、もちろんよ!」
他の夫人から、そんなことを言われて、フィオレンティーナの母親はガーデンパーティーを開くことにした。
他の夫人たちは、どうせ大したことないと招待されても、あれやこれやと理由をつけて招待した半分も参加しないものになったが、それはいつも子爵家のガーデンパーティーと何ら変わることはない光景だった。
だが、その光景を見る前のことだ。その日、帰って来た子爵夫人は使用人たちにこう言った。
「ガーデンパーティーを開くわ。お菓子も、お茶も、誰にも文句を言われないものを用意しなさい!」
「かしこまりました」
使用人たちは、それをそのままフィオレンティーナに丸投げした。丸投げされることになったフィオレンティーナは、それに目を見開いて驚いてしまった。
その頃のフィオレンティーナの年齢は、10歳を過ぎたくらいの時だった。この世界では、12歳から、学園に通うようになる。それまでは、家庭教師や母親が勉強やマナーを見てくれるのだが、子爵家ではぎっちり勉強をさせるなんてことはなかった。
フィオレンティーナは、独自に自主勉強をしながら、使用人の仕事と庭師の仕事をして、花のことも研究していた。
それに比べて、フィオレンティーナの双子の妹のチェレスティーナは好き勝手なことをしていた。あちらの勉強やマナーなどをきちんとしているかなんて、フィオレンティーナは知りもしなかった。
学園に入るギリギリになって、詰め込む気なのかも知れない。チェレスティーナは、自分は姉よりも優秀だと思い込んでいるところがあった。特に母親が、姉よりもどこに行くにもチェレスティーナを連れていたこともあり、両親に期待されているのも自分だと思っているところもあった。
まぁ、そのせいでフィオレンティーナが部屋に閉じこもって勉強していても、そこまで必死にならなければならないと思って憐れんですらいたようだが、この頃の姉妹の会話なんてなかった。会っても、無視されていた。
フィオレンティーナの婚約者も、学園が始まれば否応なしに会うしかないと思っているようだが、フィオレンティーナが変わっていると思っているようで、チェレスティーナと会っていてもフィオレンティーナと会うことはなかった。
まぁ、双子の片割れも、婚約者のことも、フィオレンティーナは色々言われない距離感でいるなら、どうでも良かった。
この頃の問題は、別のところにあった。子爵家の使用人たちだ。また、フィオレンティーナに仕事を押し付けることにしたのだ。
「え?」
「何だい? 文句でもあるのかい?」
「いえ、あの、それを一人でやるのは、流石に……」
フィオレンティーナは、この世界のガーデンパーティーの準備どころか、前の世界でもしたことがなかった。
(それに参加したこともないのを知ってるくせに。私に丸投げするのね)
だが、子爵家の使用人たちはそれを知っていながら、フィオレンティーナにやらせたのだ。失敗しても、フィオレンティーナがやりたがったと言い逃れる気でいたようだ。やりたくない面倒ごとを押し付けるのにフィオレンティーナはうってつけになっていた。
(本当に最悪だわ。全部をまるっと私に押し付けるとは思わなかった。……まぁ、仕事を押し付けて、給料を平気でもらう人たちだから、ガーデンパーティーの準備を今更、必死になってやるのは、変か。でも、あの庭を人が見に来てくれるのは嬉しいな。そうなると失敗したくない)
フィオレンティーナは、そんなことを思った。前世の祖母が手掛けた場所は、生まれ変わる前に覚えている限り、ずっと憩いの場になっていた。そこに訪れる人たちは、みんな癒されていたのを覚えている。
(綺麗に咲いてる花を見て、みんなが笑顔になってくれたらいいな。招待されて来るのは、みんな貴族の人たちだろうけど。我が家みたいな人たちだけではないはず)
そんなことを思って、ガーデンパーティーの段取りをフィオレンティーナは、どうしたものかと頭を悩ませた。
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