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第1章
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しおりを挟む(使用人の仕事がお喋りだけになったのに。何がそんなに忙しいんだか。私のことを隠そうとしてくれる気遣いの欠片もない。おかげで、私1人で家族にバレないように動くことに長けてしまってるから、使用人たちにどうにかしてもらわなくても何とかなってるのよね)
フィオレンティーナがやっているのに子爵家の使用人たちは、自分たちがやっているかのようにして、しれっと嘘をついて給料をもらっていた。それだけではなかった。
「最近、仕事が丁寧になったな」
「ありがとうございます」
「食事も、随分と美味しいわ」
「前までは、食べれたものじゃないものが多かったけど」
「確かにそうね。最近は見違えるものがあるわ」
使用人たちは、子爵家のフィオレンティーナ以外に褒められて、嬉しそうにしていた。何もしてはいないのにさも、自分たちが日々懸命に仕事をこなしているからだとばかりにしたのだ。ただ、若干、食べれたものじゃなかったと言われて頬を引きつらせた使用人もいたが、他の使用人に肘で突かれて頬を引きつらせるのをやめた。
そんなやりとりをフィオレンティーナは黙って見ていた。
(よく平然としていられるものね。全く何もしていないのに。それで、給料を何食わぬ顔で手にできるんだもの。子爵家で雇われているだけはあるわ)
フィオレンティーナは、それを耳にするたび、そんなことを思っていた。バレて困るのは、フィオレンティーナだ。色んな思いが渦巻いても、顔に出すこともしなかった。
そこまでするのは、庭の手入れをして花の世話をしたいがために他ならなかった。
家族も、フィオレンティーナが貴族らしからぬ令嬢だと思っていても、部屋で大人しくしているものと思って放置していた。両親や妹の目の前で何かしているのを見ない限りは、勉強と読書に夢中になっていると信じて疑わなかった。
そのうち、まるで子爵家にはチェレスティーナしか令嬢がいないかのように周りから思われ始めることになった。
両親はフィオレンティーナを連れ回すことをしなくなったが、一緒にいても子爵家の令嬢だとフィオレンティーナのことを見ていなかったことで、周りに誤解されていくことになったが、フィオレンティーナはそんなことどうでもよかった。
むしろ、両親や妹と出かけたり、買い物したりする方がフィオレンティーナには拷問に等しかった。
それらがなくなって、家族に見つかって貴族らしくないと色々言われていたのも落ち着いて、バレないように動くようになって、それがいつしかフィオレンティーナの日常となっていた。
手は庭いじりで荒れたわけではない。家事全般をしているせいで、荒れに荒れていた。その手は、前世の祖母の手よりも荒れていた。だが、とても働き者の手をしていた。
(おばあちゃんの手に憧れてはいたけれど、今の私の手は土の香りより、血の匂いがしそうな手だわ。こんな手を見られたら、令嬢らしくないって怒られるでしょうけど、あの人たちは私が部屋で大人しくしていれば、それでいい人たちでよかったわ)
睡眠時間も、少なすぎて寝不足な日々を送っていたが、それも苦にはならなかった。手が痛くて眠れないこともあったが、それもフィオレンティーナにとっては大したことではなかった。
花の世話ができるなら他のことなど、どうでもよかったが、その日は別に良いことがあった。時折見る前世の夢だ。
(今日は、おばあちゃんの夢を見られて良かった。転生するなら、貴族とかじゃなくて良かったんだけど。そうしたら、貴族令嬢らしくないって色々言われることもなかったのよな。……まぁ、そんなことを言われる貴族令嬢らしくないことばっかりしてるけど。でも、子爵家の令嬢が家事全般を全部やるって、変よね? ……あー、でも、貧乏貴族なら普通なのかな? この家は見栄っ張りで、家族の誰とも全然、合わないのよね。使用人たちも、酷い人しかいないみたいだし、この世界の人たちって、みんなこんな感じだとしたら、勘弁してほしいわ)
おばあちゃんのことを思い出しながら、フィオレンティーナは洗濯と掃除をこなし家族と使用人たちの料理をして、庭で花たちの世話をしていた。
本当なら、家事なんてせずに花の世話を四六時中していたかった。それほど、フィオレンティーナは花が好きで好きでたまらなく好きだった。
ここでの唯一の癒しは、それだけだった。祖母が教えてくれた花に似たのもあったが、知らない花も多かった。
(図鑑なんて、買ってはもらえないから、自力で知るしかないのよね)
勉強をしたり、読書を自室でやることを好むフィオレンティーナは色んな本をたまに買ってくれていた。それでも、チェレスティーナの買う服の値段の半分のさらに半分。そのまた半分にも満たないものだった。
でも、その中に図鑑を忍ばせて買うのは至難の業でしかなかった。そんなものは何の役にも立たないものと家族には思われているせいで、図鑑を1冊買うだけでも大変だった。
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