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第1章
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しおりを挟む双子の姉妹を母が、2人とも連れ回していた時は、こんな感じだった。7歳くらいまでだったと思う。
「フィオレンティーナ。そんな格好をしないで、こっちの服にしなさい。あなたは、子爵家の長女なんだから、馬鹿にされるような格好をしないで。母親である私が、あなたと一緒にいるだけで笑われるわ」
「ごめんなさい。おかあさま」
「おかあさま。わたし、これにする!」
「あら、チェレスティーナ。よく似合っているわ」
フィオレンティーナは、買い物が好きではなかった。値段が張るものばかりが多かったが、ぼったくりもいいものばかりを母と双子の妹はよく買わされていた。
前世の記憶が鮮明になり始めていたフィオレンティーナは、それらが正規はどのくらいで買われるものかを把握するのも早かった。そのせいで、今世の母と双子の妹が買わされているものににこんなことを思っていた。
(良いものなのか。そうでないかの目利きもできないみたいね。……いいカモにされてる気がする。こんなのを買うのは、我が家だけでしょうね)
流行りものだと聞かされれば、2人はすぐに食いついていた。しかも、1点物と聞くと欲しくなるようだ。
更には自分たちに似合うかなんて二の次なのだ。そんな人たちとの買い物は、フィオレンティーナには苦痛でしかなかった。何をしても、しなくても怒られるのは、フィオレンティーナなのだ。
「ちょっと、さっきのはなしをきいていなかったの? はやりは、こっちよ」
「……でも、わたしには、こっちがにあうとおもうわ」
母や妹は、言われたままを鵜呑みにして買い物をしていた。チェレスティーナは、姉が店員の言った物と違うものを選ぶのにムッとしていた。
でも、フィオレンティーナは流行りものに目もくれず似合うものを選んでいた。手頃な値段だが、それなりのものを選んでいた。センスがあるのはフィオレンティーナの方だったが、店員は高いものを買わせたくて、フィオレンティーナにもあれこれと言ったが、決してそれを買うと言うことはなかった。
「そんなのきてたら、ばかにされるわ」
「そんなことはありませんよ」
「そう? なら、ここであなたにすすめられたって、おちゃかいでみんなにおしえるわ」
「ははっ、そんなことしても、誰も本気にしませんよ」
「……」
(つまり、子爵家の姉妹は母譲りのセンスを受け継いだってことにするつもりね。最悪。わかってやってるんだわ。こんなところをお抱えにしたままにしてるなんて、お母様の見る目は昔から欠片もないってことがよくわかるわね)
フィオレンティーナは、その店員だけでなくて、その店自体も好きではなかった。いや、その店だけでなくて、子爵家が利用しているところ、みんながそんな感じだった。それだけ、両親は馬鹿にされているのだ。
今現在も、厄介なものはとりあえず子爵家に売りつけようとしているようだ。フィオレンティーナはそんな買い物をするのが嫌で嫌で仕方がなかったが、そのうち連れ回されることもなくなって、それに正直ホッとしかしていない。
それで、未だに子爵家がいろなところで笑い者になっていてもフィオレンティーナは、仕方がないと放置するしかなかった。両親も、妹も、周りに笑われているとは欠片も思っていないし、贔屓にしている店で優遇されていると思っていて、フィオレンティーナがそんな話をしたところで信じるはずもなかった。
数年どころか。数回の付き合いでわかったが、両親たちはフィオレンティーナたちが生まれるずっと以前から、そうだったのだ。妹のチェレスティーナのようにコロッと騙されるのが、2人の娘としてまともなのかも知れないが、そんなことで親子の証明などしたくもなかった。
(センスどころか。店にいいカモだと思われているのに全く気づいていないことにもびっくりよ。それなのに意気揚々と買った物を着て出かけられるお母様と妹にはまいるわ。それを止めないお父様のセンスも、そう。この家族に欠片も似なくてよかったとしか思えないわ)
2人とも、本当にそっくりだった。真に受けて流行りの1点物だと信じ込んで、お茶会なり、パーティーなりとそれで出席するのだ。
それを見ることになるフィオレンティーナはいたたまれない気持ちになっていた。
「あら、おかしな格好をしているのがいると思えば、子爵家の親子が来てるようね」
「また、変な格好をしているわね」
「目立って注目を浴びるくらいしかないもの仕方がないわよ」
そんな風に馬鹿にされるのをフィオレンティーナは何度耳にしたことか。
「そういえば、子爵家は双子の姉妹だと聞いていたけど、いつも片方しか連れて来てないわね」
「あんな格好をさせられるのが嫌なんでしょ」
直ぐ側にフィオレンティーナがいたが、気づかれることはなかったのは、子爵家の令嬢としてまともな格好をしていたからのようだ。
それに双子の姉妹だから、そっくりだと勝手に思われていたが、並んでいても似てはいなかったし、母に似ているチェレスティーナとは違ってフィオレンティーナは家族の誰にも似てはいないせいで、子爵家の令嬢には見えなかったことが大きかったようだ。
(そんなことでバレないっていうのも、変な感じがするわ)
そこから、フィオレンティーナは流行りに疎すぎて子爵家の長女として恥ずかしいと思われるようになり、フィオレンティーナの方もそんな家族と一緒にいるのを見られたくなくて部屋で勉強と本を読んでいたいと言うようになるとすんなりそうしていればいいと言われた。
それにどれだけホッとしたことか。両親とチェレスティーナも同じくフィオレンティーナのようなのだが、家族だということに貴族として恥ずかしいと思うところがあったようだ。
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