上 下
4 / 99
第1章

しおりを挟む

使用人たちの服よりフィオレンティーナは、質素で地味な服を身にまとってばかりいた。厨房以外のところでも毎日、仕事をこなしていることもあり、汚れるようなことをしているのだから、綺麗な格好なんてしてはいられないが、ちょっとどころか。かなり質素で、そんな格好を見られたら、家族にどやされるのは間違いないが、今のところ見つかってはいない。

使用人の代わりをしているとはいえ、派手な服などフィオレンティーナには必要なかった。派手な格好や着飾る格好はあまりしないどころか。全く好きではない。だから、地味めな服が好みだと両親たちは思っていたが、あながち間違ってはいない。

それに婚約者とも出かけるわけでもないのだ。部屋で勉強なり、本を読んで過ごして、誰かに会うわけでもないのならいいと思って放置されていた。

フィオレンティーナを連れ回すと子爵家の令嬢にしてはあまりにも地味だと思われてしまうと思われて、両親が連れ回すのをいつしかフィオレンティーナの双子の妹であるチェレスティーナだけとなっていた。それは、フィオレンティーナには嬉しいことでしかなかった。

双子と言っても、姉妹は全く似ていない。性格は、正反対。何もかもが、双子とは思えないほど違っていた。

チェレスティーナは流行りものを好んだ。そこは、双子の姉妹の母に似て大好きで、フィオレンティーナと併せた2人分の代金をチェレスティーナは独り占めしては、好き勝手に使っていた。

そのため、フィオレンティーナが流行りものを着たがらないことを喜んでいても、どうにかしろとあまり強く言って、流行りの服装を着せようとすることはなかった。そんなことでとやかく言っていたら、2人分の衣装代をチェレスティーナは独り占めできなくなる。そうなったら、困るのはチェレスティーナだ。

そんな妹のことより、今は使用人たちのことだ。今日も今日とてフィオレンティーナを見つけて、真っ先にこう言った。


「ちょっと、私たちの朝食は?」
「こちらに用意してあります」


テーブルに並べたものをフィオレンティーナは見せた。いつの間にか、フィオレンティーナの方が使用人の使用人のようになっていて丁寧な口調で返すようになっていた。

それも、図に乗らせる一因になっていたのは明らかだったが、今更やめられなくなっていた。


「これだけ? もっと、いい物を用意してよ。こんなんじゃ、昼までもたないわ」
「本当よ。何、これ。うさぎの餌みたい」
「野菜ばっかりね。彩りよくして、誤魔化さないでほしいわ」
「……」


使用人たちは、自分たちの朝食までフィオレンティーナに作らせて、挙げ句はそれに文句まで言っていた。図々しいにも程があるが、フィオレンティーナはいつも言われっぱなしでいた。


(この間は、太ってきたって文句言っていたのに。本当に好き勝手なことばかり言う人たちね。使用人の仕事を全部私に押し付けておいて、よくそんなことが言えるわ。……こんな大人にはなりたくないものだわ)


給料を貰っておきながら、仕事なんてろくにしていないのにフィオレンティーナが、そのことに何も言わないのをいいことに図に乗りすぎていた。使用人たちも、何をしているのかの自覚がないようにすら思えた。

前世の母は、お金になるかを気にしていたが、お金分の仕事はきっちりしていた。こんな風にしているように見せかけて、しれっと給料をもらうような人ではなかった。


(そう考えると現実主義なだけだったのかも)


フィオレンティーナは、前世の夢を見たあとのせいで、そんな風についつい比べて使用人たちを見ていた。


「旦那様たちの食事は? 手を抜いていないだろうね?」
「それは、こちらにあります」
「ふん。私たちだけ手を抜いたんだね。全く、土いじりするのを黙ってやってるのに。言いつけてもいいんだよ?」
「っ、すみません。気をつけます」


土いじりというのは、子爵家の庭の花たちの世話をしているのを家族に知られては厄介なことになるため、それを黙ってもらっている。それをネタにして、アレヤコレヤと注文を付けられながらも、フィオレンティーナの方が必死に下げていた。それを見て使用人たちは、ニヤニヤとしていた。これが、いてものことになっていた。


(手を抜いてるのは、どっちなんだか。……でも、我慢するしかない。もう、この人たちの好みのメニュー考えるの面倒だな)


両親やチェレスティーナは、そんなことになっているとは思ってもいない。フィオレンティーナは部屋で勉強しているか、本を読んでいるものだと思っていた。

食事も、部屋で取りたがるほど、変わっていると信じ込んでいた。そのため、フィオレンティーナが部屋から出て働いているとは家族の誰も思っていない。フィオレンティーナが、使用人の仕事をしているのを見られないように上手く動いているからに他ならない。

もっとも、フィオレンティーナの生まれ変わった先の新しい家族は貴族らしくあれば、他なんてどうでもいい人たちだった。その辺は助かってもいたし、困ってもいた。


(お父様は仕事。お母様とチェレスティーナは出かけるから、隠れて掃除も洗濯もしなくていい。今日は早く休めそう)


すっかり隠密に家事をこなすスキルが上がっていた。

食事の準備の前に洗濯をするためつけ置きしたものを洗濯してから朝の水やりをした。家族がいなくなるから、フィオレンティーナは洗濯のあとにしたが、そうでなければ、先に水やりをしてから朝食を作っていた。井戸から何往復もして、水をあげることになるが、それでもどの花たちにも話しかけて、花が咲いたのを喜び。蕾がついたことを喜び。花が終わるとご苦労様と声をかけて、素敵な花を見せてくれたことに感謝して労うのが、いつものことになっていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の矜持〜世界が望む悪役令嬢を演じればよろしいのですわね〜

白雲八鈴
ファンタジー
「貴様との婚約は破棄だ!」 はい、なんだか予想通りの婚約破棄をいただきました。ありきたりですわ。もう少し頭を使えばよろしいのに。 ですが、なんと世界の強制力とは恐ろしいものなのでしょう。 いいでしょう!世界が望むならば、悪役令嬢という者を演じて見せましょう。 さて、悪役令嬢とはどういう者なのでしょうか? *作者の目が節穴のため誤字脱字は存在します。 *n番煎じの悪役令嬢物です。軽い感じで読んでいただければと思います。 *小説家になろう様でも投稿しております。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

王国冒険者の生活(修正版)

雪月透
ファンタジー
配達から薬草採取、はたまたモンスターの討伐と貼りだされる依頼。 雑用から戦いまでこなす冒険者業は、他の職に就けなかった、就かなかった者達の受け皿となっている。 そんな冒険者業に就き、王都での生活のため、いろんな依頼を受け、世界の流れの中を生きていく二人が中心の物語。 ※以前に上げた話の誤字脱字をかなり修正し、話を追加した物になります。

両親や妹に我慢を強いられ、心が疲弊しきっていましたが、前世で結ばれることが叶わなかった運命の人にやっと巡り会えたので幸せです

珠宮さくら
恋愛
ジスカールという国で、雑草の中の雑草と呼ばれる花が咲いていた。その国でしか咲くことがない花として有名だが、他国の者たちはその花を世界で一番美しい花と呼んでいた。それすらジスカールの多くの者は馬鹿にし続けていた。 その花にまつわる話がまことしやかに囁かれるようになったが、その真実を知っている者は殆どいなかった。 そんな花に囲まれながら、家族に冷遇されて育った女の子がいた。彼女の名前はリュシエンヌ・エヴル。伯爵家に生まれながらも、妹のわがままに振り回され、そんな妹ばかりを甘やかす両親。更には、婚約者や周りに誤解され、勘違いされ、味方になってくれる人が側にいなくなってしまったことで、散々な目にあい続けて心が壊れてしまう。 その頃には、花のことも、自分の好きな色も、何もかも思い出せなくなってしまっていたが、それに気づいた時には、リュシエンヌは養子先にいた。 そこからリュシエンヌの運命が大きく回り出すことになるとは、本人は思ってもみなかった。

辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです

くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は…… ※息抜きに書いてみたものです※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

処理中です...