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第1章
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しおりを挟む使用人たちの服よりフィオレンティーナは、質素で地味な服を身にまとってばかりいた。厨房以外のところでも毎日、仕事をこなしていることもあり、汚れるようなことをしているのだから、綺麗な格好なんてしてはいられないが、ちょっとどころか。かなり質素で、そんな格好を見られたら、家族にどやされるのは間違いないが、今のところ見つかってはいない。
使用人の代わりをしているとはいえ、派手な服などフィオレンティーナには必要なかった。派手な格好や着飾る格好はあまりしないどころか。全く好きではない。だから、地味めな服が好みだと両親たちは思っていたが、あながち間違ってはいない。
それに婚約者とも出かけるわけでもないのだ。部屋で勉強なり、本を読んで過ごして、誰かに会うわけでもないのならいいと思って放置されていた。
フィオレンティーナを連れ回すと子爵家の令嬢にしてはあまりにも地味だと思われてしまうと思われて、両親が連れ回すのをいつしかフィオレンティーナの双子の妹であるチェレスティーナだけとなっていた。それは、フィオレンティーナには嬉しいことでしかなかった。
双子と言っても、姉妹は全く似ていない。性格は、正反対。何もかもが、双子とは思えないほど違っていた。
チェレスティーナは流行りものを好んだ。そこは、双子の姉妹の母に似て大好きで、フィオレンティーナと併せた2人分の代金をチェレスティーナは独り占めしては、好き勝手に使っていた。
そのため、フィオレンティーナが流行りものを着たがらないことを喜んでいても、どうにかしろとあまり強く言って、流行りの服装を着せようとすることはなかった。そんなことでとやかく言っていたら、2人分の衣装代をチェレスティーナは独り占めできなくなる。そうなったら、困るのはチェレスティーナだ。
そんな妹のことより、今は使用人たちのことだ。今日も今日とてフィオレンティーナを見つけて、真っ先にこう言った。
「ちょっと、私たちの朝食は?」
「こちらに用意してあります」
テーブルに並べたものをフィオレンティーナは見せた。いつの間にか、フィオレンティーナの方が使用人の使用人のようになっていて丁寧な口調で返すようになっていた。
それも、図に乗らせる一因になっていたのは明らかだったが、今更やめられなくなっていた。
「これだけ? もっと、いい物を用意してよ。こんなんじゃ、昼までもたないわ」
「本当よ。何、これ。うさぎの餌みたい」
「野菜ばっかりね。彩りよくして、誤魔化さないでほしいわ」
「……」
使用人たちは、自分たちの朝食までフィオレンティーナに作らせて、挙げ句はそれに文句まで言っていた。図々しいにも程があるが、フィオレンティーナはいつも言われっぱなしでいた。
(この間は、太ってきたって文句言っていたのに。本当に好き勝手なことばかり言う人たちね。使用人の仕事を全部私に押し付けておいて、よくそんなことが言えるわ。……こんな大人にはなりたくないものだわ)
給料を貰っておきながら、仕事なんてろくにしていないのにフィオレンティーナが、そのことに何も言わないのをいいことに図に乗りすぎていた。使用人たちも、何をしているのかの自覚がないようにすら思えた。
前世の母は、お金になるかを気にしていたが、お金分の仕事はきっちりしていた。こんな風にしているように見せかけて、しれっと給料をもらうような人ではなかった。
(そう考えると現実主義なだけだったのかも)
フィオレンティーナは、前世の夢を見たあとのせいで、そんな風についつい比べて使用人たちを見ていた。
「旦那様たちの食事は? 手を抜いていないだろうね?」
「それは、こちらにあります」
「ふん。私たちだけ手を抜いたんだね。全く、土いじりするのを黙ってやってるのに。言いつけてもいいんだよ?」
「っ、すみません。気をつけます」
土いじりというのは、子爵家の庭の花たちの世話をしているのを家族に知られては厄介なことになるため、それを黙ってもらっている。それをネタにして、アレヤコレヤと注文を付けられながらも、フィオレンティーナの方が必死に下げていた。それを見て使用人たちは、ニヤニヤとしていた。これが、いてものことになっていた。
(手を抜いてるのは、どっちなんだか。……でも、我慢するしかない。もう、この人たちの好みのメニュー考えるの面倒だな)
両親やチェレスティーナは、そんなことになっているとは思ってもいない。フィオレンティーナは部屋で勉強しているか、本を読んでいるものだと思っていた。
食事も、部屋で取りたがるほど、変わっていると信じ込んでいた。そのため、フィオレンティーナが部屋から出て働いているとは家族の誰も思っていない。フィオレンティーナが、使用人の仕事をしているのを見られないように上手く動いているからに他ならない。
もっとも、フィオレンティーナの生まれ変わった先の新しい家族は貴族らしくあれば、他なんてどうでもいい人たちだった。その辺は助かってもいたし、困ってもいた。
(お父様は仕事。お母様とチェレスティーナは出かけるから、隠れて掃除も洗濯もしなくていい。今日は早く休めそう)
すっかり隠密に家事をこなすスキルが上がっていた。
食事の準備の前に洗濯をするためつけ置きしたものを洗濯してから朝の水やりをした。家族がいなくなるから、フィオレンティーナは洗濯のあとにしたが、そうでなければ、先に水やりをしてから朝食を作っていた。井戸から何往復もして、水をあげることになるが、それでもどの花たちにも話しかけて、花が咲いたのを喜び。蕾がついたことを喜び。花が終わるとご苦労様と声をかけて、素敵な花を見せてくれたことに感謝して労うのが、いつものことになっていた。
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