母は、優秀な息子に家の中では自分だけを頼ってほしかったのかもしれませんが、世話ができない時のことを全く想像していなかった気がします

珠宮さくら

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エルマンガルドが、キルデリクの服のコーディネートをするようになった。


「キルデリク様。今日の服装は……?」
「ん? あぁ、婚約者が選んでくれたんだ」
「……エルマンガルド様が?」


キルデリクに好みもなければ、センスもなかった。いつも母が用意したものを着ていたが、それを自分が選んで着ているかのようにしていたが、母親が入院を余儀なくされたことで、婚約者に代わりをやらせることにした。

だが、エルマンガルドは本気で選んだものではなかった。彼女は、それどころではなかった。宿題をブランシュの代わりにオデットにやらせたら、とんでもないことをしてくれたのだ。

先生方をすっかり怒らせてしまっていて、エルマンガルドは必死になって宿題をこなしていた。それに忙しくしているというのにコーディネートをしてくれと言われて、そんな余裕はないと言わんばかりに適当なものをコーディネートした。エルマンガルドは、そんなものを着るとは思っていなかった。

ちょっと疲れていて、コーディネートに失敗したとあとで誤魔化そうと思っていたのだが……。


「え?」


エルマンガルドは、まさか、それで出かけているとは思っていなかった。


「嘘でしょ。何で、あれを着て外にいるの?!」


色んなパターンでのコーディネートを言われて、そんなパターンに合わせてコーディネートしろなんて面倒でしかなかったエルマンガルドは、聞き間違えていたところもあったようだ。

だとしても、普通なら出かける用だとは思わないはずだが、キルデリクは平然と着て出かけていることにゾッとしてしまった。


「あの、これまでは、キルデリク様が選んでいたのでは?」
「そうだが?」
「……」


エルマンガルドに選んでもらったからとそれを着てこんなところにいるのは、何かしらのメッセージなのではないかと思われた。

だが、キルデリクはエルマンガルドが選んだコーディネートを他でも着て現れたが、いくら婚約者が選んでくれたとは言え、信じられない格好をしていた。


「キルデリク。お前、何を考えているんだ?!」
「え?」


エティエンヌ公爵は、息子がとんでもない格好をして出かけていると聞きつけて、そんな馬鹿なと思っていたが、その通りだったことにぎょっとしていた。


「そんな格好で、外を出歩くなんて、どうかしているぞ!」
「え?? でも、エルマンガルドが……」
「婚約者が選んだからといって、常識的におかしいことくらいわからないのか?」
「え?」


父に色々言われて、キルデリクは周りをきょろきょろした。ひそひそと信じられない者を見る目をして、頭の心配をされていることにようやく気づいた。


「そ、その、エルマンガルドが選んでくれたので、着なくてはと思って、その」
「だとしても、婚約者のために着て、外を出歩くことはないだろ」
「っ、」


とりあえず、エティエンヌ公爵は息子をすぐさま連れ帰った。


「あの方、これまで誰かにコーディネートしたのを着ていたみたいね」
「あそこまでとは思わなかったわ。これを着ろって言われたのを何も考えずに着られるなんて……」
「なんか、一気に冷めたわ」
「私も」
「エルマンガルド様も、酷い方ね。婚約者にあんな恥をかかせるなんて」
「本当よね。いくら、自分が馬鹿にされているからって、婚約者まで馬鹿にされるようなことをさせることないのに」


キルデリクは、頭の心配をされることになった。勉強はできても、常識が欠落していることがわかった。

そう、服を選んでもらう以前だと思われたのだ。

母親は、自分なしでは困るようにしたかっただけかもしれないが、困る以上のことになってしまったのだ。

それに気づいた公爵であるキルデリクの父親は……。


「あいつ、そこまでだったのか」
「あの、父上」
「服くらい自分で選べるようになれ」
「そんな、やったことないです」


やったことないと言う息子に父親は、眉を顰めずにはいられなかった。


「やったことなければ、今から覚えろ!」
「っ、」


そう怒鳴られることになったが、キルデリクは本気で覚える気はなかった。母が、退院して来るまでだと思っていた。


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