母は、優秀な息子に家の中では自分だけを頼ってほしかったのかもしれませんが、世話ができない時のことを全く想像していなかった気がします

珠宮さくら

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エルマンガルドと婚約したキルデリクはというと母にあれこれコーディネートしてもらっていたが、そんな母が好物の生モノに当たって、やっとよくなった。

なのに今年は、好物を思う存分、満喫できずに旬が終わってしまうと思った母は、これだけ酷く当たってしまったのだから、もうやめようと思うような人ではなかった。今年はやめようとは思うような人ではなかった。

逆にエティエンヌ公爵夫人は、これだけ当たってしまえば、もう当たることはないだろうと勝手に思い込んでいた。好物の生モノを食べた。普通なら、どんなに好物でも、こんな風には思わないはずだ。

医者からは、数年は控えた方がいいと言われていたが、それも都合よくスルーして母は食べた。そんな数年も、食べるななんてことを覚えていたくなかったのだろう。そういう人だ。

満喫できたと思うほど、母は食べた。思う存分、食べまくった。元々、好物を食べる前はたくさん食べようとして、お腹を空かせてから食べる人たちで、それも医者からやめるように言われていたが、それも都合よく忘れたようだ。

その結果、前回以上の酷い腹痛にあうことになり、エティエンヌ公爵夫人は入院をすることになった。父は、そんな報告を使用人から聞いて、ため息しかつかなかったらしい。

それこそ、なぜ、止めなかったと使用人たちを怒ることはしなかった。自分にすらできなかったことだ。使用人たちにできるわけがないと思っていたことも大きかった。

怒る相手は、息子の方だった。


「お前が側にいて、なぜ止めなかっただ!」
「そんな、母上の好物なのを知っているのに我慢させたら、可哀想ではありませんか」
「可哀想だから、止めなかったと?」
「それに本人も、医者に言われたことを聞いていたんです。それでも、食べたいのですから仕方がないじゃないですか」
「……」
「どうせ、この間のように自宅療養でしょ?」
「入院だ」
「え? にゅ、入院!?」


それに慌てたのは、キルデリクだ。父親も、入院と聞いてことの深刻さがやっとわかったかと思っていたが、彼が心配したのは別のことだ。

周りもエティエンヌ公爵のように母親が入院することになり取り乱していると思う者が、殆どだった。でも、そうではなかった。コーディネートをしてもらえなくなることへの焦りしか彼にはなかった。

そこに母を心配する気持ちなんて欠片もなかった。彼にあるのは、自分のことのみだ。


「オデットを呼び戻すか……? いや、駄目だ。そんなことをさせられない。いくら、母上が心配だろうとも、ここは兄として大丈夫だと言ってやらなければ……」


兄としてのプライドがあり、妹を呼び戻すことはしなかった。キルデリクの頼れる相手は、婚約者しかいないと彼は思った。

そう、頼れるとこの時のキルデリクはなぜか思っていた。学園の中で、先生方を怒らせて酷いことになっているのに。頼れると未だに思っている。

というか。そう、思いたかったのだろう。じゃないと彼は、外に出られなくなってしまう。


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