母は、優秀な息子に家の中では自分だけを頼ってほしかったのかもしれませんが、世話ができない時のことを全く想像していなかった気がします

珠宮さくら

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エルマンガルドは、この国で一番素晴らしい令嬢だと言われていたはずなのに。こんなのが、一番だったのかと言う顔をし始めていた。


「どこにいるか知らない?」
「……どこって、エルマンガルド様。聞いていらっしゃらないの?」
「? 何のこと?」


エルマンガルドは、オデットから留学するとは聞かされていなかった。もっとも、本人からされずとも、みんな知っていることだった。

そもそも、何の理由で探しているかは知らないが、あれだけ恥ずかしいことをしたのだ。やり直しになったことを大人しくしているべきだと思うが、彼女は全然そんなことをする気はないようだ。


「エルマンガルド。ここにいたのか」
「キルデリク様」


そこに婚約者が現れ、令嬢たちは丸投げしようとした。わざわざ、答えを言って教えてやる気がなくなっていた。


「エルマンガルド様は、ずっとオデット様を探しておられたそうですよ」
「は? オデットを? 何を言っているんだ? 妹なら、留学している。聞いていなかったのか?」
「留学?!」


エルマンガルドは、留学していることに物凄く驚いていた。その驚きようにキルデリクは、怪訝な顔をした。

令嬢たちは、呆れた顔をしていた。


「まさか、聞いてなかったのか?」
「そんな、まさか。みんな知っているのにエルマンガルド様がご存じないなんてありえませんよ」
「そうですわ。お忙しそうにしていらして、きっと混乱されたのね」
「確かに。最近、随分とお忙しそうですものね」
「っ、!?」


それは、令嬢たちの言葉には皮肉がまじっていた。この調子では、先生に提出するものを書かせたのは、これだけ必死に探しているオデットではないかと思う者もいたが、筆跡が違うとなり首を傾げるばかりだった。

慌てふためくことになったのは、エルマンガルドだ。片割れに押し付けることもできずに再提出するものに追われることになった。2人以外で、そんなことを任せられる者がいなかったのだ。まぁ、そんなにたくさんいても困るが。

見栄を張って生きてきたため、他にはいい顔してきたこともあり、他に代わりをさせられる令嬢がいなかったのだ。

そのため、初めて宿題を自分でやることになった。誤字脱字のオンパレードで、何が書いてあるか読めないと突き返されたこともあった。

今まで彼女が提出していたものとは雲泥の差になった。だが、彼女は誤字脱字だらけで突き返されておるのも、先生方の機嫌を損ねた仕返しだと思っていた。誤字脱字のみならず、己の字が汚いことすら気づいていなかった。

その評価が気に入らないエルマンガルドがあれこれと周りにぼやいていた。


「どんなものを提出されたんですか?」
「え?」
「ぜひ参考にしたいですわ」
「そ、そう? これよ」
「……」


令嬢たちは、それを覗き込んで固まった。読めなかったのだ。


「信じられない」
「でしょ? 絶対に嫌がらせよね」
「……」


エルマンガルドは、自分をわかってくれた言葉だと思って、あれこれ益々愚痴ったが、あまりの字の汚さにそう言ったことにすら気づくことはなかった。


「……あの方、あぁ言う方だったみたいね」
「本当ね」


令嬢たちは、次々とエルマンガルドと付き合うのをやめて行ったが、彼女は距離を置かれるようになったとは思っていなかった。

みんなも、先生方に自分のように色々言われて忙しくしていると勝手に勘違いしていて、エルマンガルドがいないところで、ボロクソに悪く言われていることを知ることはなかった。

そんなことになってもなお、自分のような令嬢がこれまでのように素晴らしい令嬢なのだと本気で思っていた。

だが、その頃になると何でも卒なくできる令嬢は、見せかけで騙されていただけと思う者しかいなかった。


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