12 / 20
12
しおりを挟むエルマンガルドは、この国で一番素晴らしい令嬢だと言われていたはずなのに。こんなのが、一番だったのかと言う顔をし始めていた。
「どこにいるか知らない?」
「……どこって、エルマンガルド様。聞いていらっしゃらないの?」
「? 何のこと?」
エルマンガルドは、オデットから留学するとは聞かされていなかった。もっとも、本人からされずとも、みんな知っていることだった。
そもそも、何の理由で探しているかは知らないが、あれだけ恥ずかしいことをしたのだ。やり直しになったことを大人しくしているべきだと思うが、彼女は全然そんなことをする気はないようだ。
「エルマンガルド。ここにいたのか」
「キルデリク様」
そこに婚約者が現れ、令嬢たちは丸投げしようとした。わざわざ、答えを言って教えてやる気がなくなっていた。
「エルマンガルド様は、ずっとオデット様を探しておられたそうですよ」
「は? オデットを? 何を言っているんだ? 妹なら、留学している。聞いていなかったのか?」
「留学?!」
エルマンガルドは、留学していることに物凄く驚いていた。その驚きようにキルデリクは、怪訝な顔をした。
令嬢たちは、呆れた顔をしていた。
「まさか、聞いてなかったのか?」
「そんな、まさか。みんな知っているのにエルマンガルド様がご存じないなんてありえませんよ」
「そうですわ。お忙しそうにしていらして、きっと混乱されたのね」
「確かに。最近、随分とお忙しそうですものね」
「っ、!?」
それは、令嬢たちの言葉には皮肉がまじっていた。この調子では、先生に提出するものを書かせたのは、これだけ必死に探しているオデットではないかと思う者もいたが、筆跡が違うとなり首を傾げるばかりだった。
慌てふためくことになったのは、エルマンガルドだ。片割れに押し付けることもできずに再提出するものに追われることになった。2人以外で、そんなことを任せられる者がいなかったのだ。まぁ、そんなにたくさんいても困るが。
見栄を張って生きてきたため、他にはいい顔してきたこともあり、他に代わりをさせられる令嬢がいなかったのだ。
そのため、初めて宿題を自分でやることになった。誤字脱字のオンパレードで、何が書いてあるか読めないと突き返されたこともあった。
今まで彼女が提出していたものとは雲泥の差になった。だが、彼女は誤字脱字だらけで突き返されておるのも、先生方の機嫌を損ねた仕返しだと思っていた。誤字脱字のみならず、己の字が汚いことすら気づいていなかった。
その評価が気に入らないエルマンガルドがあれこれと周りにぼやいていた。
「どんなものを提出されたんですか?」
「え?」
「ぜひ参考にしたいですわ」
「そ、そう? これよ」
「……」
令嬢たちは、それを覗き込んで固まった。読めなかったのだ。
「信じられない」
「でしょ? 絶対に嫌がらせよね」
「……」
エルマンガルドは、自分をわかってくれた言葉だと思って、あれこれ益々愚痴ったが、あまりの字の汚さにそう言ったことにすら気づくことはなかった。
「……あの方、あぁ言う方だったみたいね」
「本当ね」
令嬢たちは、次々とエルマンガルドと付き合うのをやめて行ったが、彼女は距離を置かれるようになったとは思っていなかった。
みんなも、先生方に自分のように色々言われて忙しくしていると勝手に勘違いしていて、エルマンガルドがいないところで、ボロクソに悪く言われていることを知ることはなかった。
そんなことになってもなお、自分のような令嬢がこれまでのように素晴らしい令嬢なのだと本気で思っていた。
だが、その頃になると何でも卒なくできる令嬢は、見せかけで騙されていただけと思う者しかいなかった。
60
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説

【完結】サポートキャラって勝手に決めないで!
里音
恋愛
私、リリアナ・モントン。伯爵令嬢やってます。で、私はサポートキャラ?らしい。
幼馴染で自称親友でヒロインのアデリーナ・トリカエッティ伯爵令嬢がいうには…
この世界はアデリーナの前世での乙女ゲームとやらの世界と同じで、その世界ではアデリーナはヒロイン。彼女の親友の私リリアナはサポートキャラ。そして悪役令嬢にはこの国の第二王子のサリントン王子の婚約者のマリエッタ・マキナイル侯爵令嬢。
攻略対象は第二王子のサリントン・エンペスト、側近候補のマイケル・ラライバス伯爵家三男、親友のジュード・マキナイル侯爵家嫡男、護衛のカイル・パラサリス伯爵家次男。
ハーレムエンドを目指すと言う自称ヒロインに振り回されるリリアナの日常。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
多人数の視点があり、くどく感じるかもしれません。
文字数もばらつきが多いです。
私は《悪役令嬢》の役を降りさせて頂きます
めぐめぐ
恋愛
公爵令嬢であるアンティローゼは、婚約者エリオットの想い人であるルシア伯爵令嬢に嫌がらせをしていたことが原因で婚約破棄され、彼に突き飛ばされた拍子に頭をぶつけて死んでしまった。
気が付くと闇の世界にいた。
そこで彼女は、不思議な男の声によってこの世界の真実を知る。
この世界が恋愛小説であり《読者》という存在の影響下にあることを。
そしてアンティローゼが《悪役令嬢》であり、彼女が《悪役令嬢》である限り、断罪され死ぬ運命から逃れることができないことを――
全てを知った彼女は決意した。
「……もう、あなたたちの思惑には乗らない。私は、《悪役令嬢》の役を降りさせて頂くわ」
※全12話 約15,000字。完結してるのでエタりません♪
※よくある悪役令嬢設定です。
※頭空っぽにして読んでね!
※ご都合主義です。
※息抜きと勢いで書いた作品なので、生暖かく見守って頂けると嬉しいです(笑)
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より

悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

(完結)無能なふりを強要された公爵令嬢の私、その訳は?(全3話)
青空一夏
恋愛
私は公爵家の長女で幼い頃から優秀だった。けれどもお母様はそんな私をいつも窘めた。
「いいですか? フローレンス。男性より優れたところを見せてはなりませんよ。女性は一歩、いいえ三歩後ろを下がって男性の背中を見て歩きなさい」
ですって!!
そんなのこれからの時代にはそぐわないと思う。だから、お母様のおっしゃることは貴族学園では無視していた。そうしたら家柄と才覚を見込まれて王太子妃になることに決まってしまい・・・・・・
これは、男勝りの公爵令嬢が、愚か者と有名な王太子と愛?を育む話です。(多分、あまり甘々ではない)
前編・中編・後編の3話。お話の長さは均一ではありません。異世界のお話で、言葉遣いやところどころ現代的部分あり。コメディー調。

完 これが何か、お分かりになりますか?〜リスカ令嬢の華麗なる復讐劇〜
水鳥楓椛
恋愛
バージンロード、それは花嫁が通る美しき華道。
しかし、本日行われる王太子夫妻の結婚式は、どうやら少し異なっている様子。
「ジュリアンヌ・ネモフィエラ!王太子妃にあるまじき陰湿な女め!今この瞬間を以て、僕、いいや、王太子レアンドル・ハイリーの名に誓い、貴様との婚約を破棄する!!」
不穏な言葉から始まる結婚式の行き着く先は———?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる