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しおりを挟むブランシュの伯父の方は、ケロッとしていた。
「そうか? 我が家では、割と普通だぞ。そんなことで、泣いていたら目が溶けるぞ。嬉しいなら、笑ってくれ。その方がいい。流石に若い娘を泣かせていると噂されると困るからな」
それが本音のように聞こえて、オデットは笑ってはいけないのに笑ってしまった。ブランシュも、笑っていた。
そこから、せっかくだからとみんなでケーキを食べながら、オデットの兄と母の話に男性陣は……。
「私も、駄目か?」
「どれがいいかと聞いてくださるのと丸投げされて全部決めるのは違いますよ。旦那様は、候補を絞ってから、聞いてくださるので、駄目ではありません」
それにホッとしていた。顔色悪くしているのは、息子の方だ。
「……」
「わかってるわよね?」
「……はい」
どうやら、この家の子息も、たまに丸投げすることがあるようだ。流石に下着まで姉にどれがいいかなんて聞くことはないようだが。
オデットは、素敵な人たちがブランシュの味方となっているのが羨ましく思われたが、そんな人たちはオデットが母のことでも苦労したのだとわかると身内のように優しくしてくれた。
この家族は、ブランシュを家に帰す気はないようだ。養子に迎える気でいた。オデットも、エルマンガルドの酷さはよくわかっているため、あの家に戻るよりもいいと思っていた。
「戻るのは、おすすめできないかな」
「え? オデット様まで、反対なさるのですね」
ブランシュは、オデットにまで言われて俯いてしまった。この際だからと全てを話すことにした。
「その、私、やり返してしまったのよ」
「え……? やり返す??」
やり返しと聞いて、ブランシュはきょとんとした。彼女には縁のないもののようだ。オデットは、それがわかっていたが、こうも真っ白い心の持ち主と自分が全く違うことを知りたくなかった。
自分がとんでもない嫌な令嬢に思えてしまってならない。
だが、すぐにピンと来たのは、ブランシュの従姉だった。ここの人たちみんなが、ブランシュのようだったら流石に言えなかった。
「やり返すって、エルマンガルドに?」
「そうなんです。その、あまりにも当たり前に宿題をやらせて、お礼の1つもないので。それとこっちに来るので、当たり散らされることはないと思って……」
任されたもの全部をやり返した。それほどまでに頭にきてしまったのだ。ブランシュは、どうしてそうやらなかったのかが不思議でならないが、こうしているとオデットとは真逆な本当に心優しい人間のようだ。
伯父の家族がブランシュの心配をするのも無理はない。
「でも、あなたが書いたって、字体を見たら先生にバレるんじゃない?」
「それは、大丈夫です。私、両利きなんですけど、今までそれで提出したことないので」
「両利きって、凄いな」
「使うことない特技だと思ってましたが、役に立ちました」
「それで、筆跡はバレないとして、具体的に何をしたんだ?」
「えっと……」
ブランシュをチラッと見ると何とも言えない顔をしていた。必死に姉のメンツを保ってきたのだ。だが、オデットがしたことで、自分の実家の迷惑になるのは明らかだ。
怒るかもしれないと思いながら、白状した。ほぼ、エルマンガルドが先生に対して愚痴っていたり、ボロクソに言っていたのを誇張して書いたに過ぎない。そのため、全部が嘘ではない。
それは、ブランシュも聞いたことがあるはずだ。オデットの前で平然と息をするようにするのだ。聞いたことがないはずがない。
「ふふっ」
「ブランシュ様?」
「そんなこと、私、思いつきませんでした」
どうやら、怒るどころか。おかしそうに笑っていた。必死になって、姉の機嫌や両親が姉を褒める手伝いをしていたことになぜ、そこまで頑張っていたのかと思い始めたようだ。
そんな風におかしそうに笑うのも、珍しいようだ。伯父夫妻と従姉弟たちも、きょとんとしたあとで笑っていた。
「でも、そんなことしたとバレたら……」
「バレたら、益々怒られるのは、エルマンガルドよ。筆跡では、オデット様が書いたとはわからないのだもの。そもそも、誰かにやらせていたとなっても、自分で書いたと言っても、怒られるのはエルマンガルドよ」
「あぁ、そうか。どっちしにしろ、詰んでるのか」
そう、できるはずなのに誰かにわざわざやらせたとか。やりたがったからなんて言えるわけがないのだ。
そんなことを言うのを聞いて、益々ブランシュは笑っていた。そんなところに戻ったら、ブランシュがエルマンガルドにしていたことに感謝するかと改めて考えたのだろう。
するわけがない。地に落ちるはずのところから、また以前のようになるように更にいいものを書けと言われることになるだけだ。
オデットでも、エルマンガルドがどう考えるかがわかってしまっていた。
ブランシュは、あの家に戻ることをせずに伯父夫妻の養子になることにしたのは、それからすぐだった。
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