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しおりを挟む「……それで、お母様が回復するまで、お兄様のコーディネートをオデット様がなさったの?」
「そうなんです」
あちらでは、誰にもそのことを話せなかった。忙しくしている父にも言えなかった。馬鹿馬鹿しくて言えなかったのもある。
「私服から、普段着の全身を……?」
「はい。果ては、婚約者と出かける予定だからと服を見立ててくれと言われたりしてました。しかも、下着まで選ばされもしました」
「っ!?」
「……何、それ」
「信じられないわ」
服のみならず、そんなこともかと女性陣は凄い顔をした。
流石に着せてもらおうとまでしていたことは言えなかった。思い出しただけで、オデットは気分悪くなっていた。子供ではないのだ。そのくらい、自分でしてほしい。
使用人は、母に言われて仕事としてやっているようで、それが申し訳なくて仕方がなかった。でも、そんなことまで暴露したくなかった。
そこにブランシュの伯父と従兄が現れた。
何とも言えない微妙な空気にいたたまれなくなったのは、オデットとブランシュだ。何より言えない部分の葛藤のあるオデットは、ブランシュの伯父と従兄に戦々恐々だった。
身内が残念すぎるせいだ。父に似ている人たちであることを願うばかりだ。多分、大丈夫なはずだ。
ブランシュの伯母と従姉は、現れた2人をじーっと見た。それに何かまずいところに来た気がしたのだろう。
「……どうした?」
「いえ、旦那様たちは、そこまでではないなと思っておりました」
「?」
「ち、父上。タイミングが、悪かったのでは?」
息子の方が、出直そうとしていた。普段から、こうなようだ。
だが、父親の方は遅れたせいだと思ったようだ。
「あー、すまん。ブランシュの世話になった令嬢が来ると聞いて、街で有名な菓子屋に行っていたんだが、思いの外並んでいてな。遅くなったが、みんなで、どうだ?」
「あら、遅いと思えば、並んでいらしたの?」
「お父様が、並んだのですか?」
「私も、並んで来ましたよ。限定品でしたので、どちらが好みかわからなくて」
先程まで、逃げ出そうとしていた方も加わった。
オデットは、それに目を丸くさせてしまった。そういうのは、使用人がするものと思っていたが、この家ではもてなし方にも心がこもっているようだ。
これはオデットの父すらやらないことだ。評判を聞いて使用人に買ってきて食べることはあったが、ずっと前のことだ。今は、それすら忙しくしていて一緒に食事すらしていない。
「伯父様、お従兄様。並ぶのでしたら、私が行きましたのに」
「いや、それじゃ、意味がなくなるだろ。お前が世話になった人なんだから」
「そうだぞ。並ぶくらい、大したことない。私が並び慣れていないからか。みんな、先を譲ろうとしてくれたが、きちんと並んできた」
「我が家に大事な客人が来るからって、譲られると困ると言ったら、あれだけ並んでいるのに限定品が買えたんだ」
そう言うのを聞いて息子の方が、何とも言えない顔をしてしまった。色々とあったようだ。体格からして、目立つはずだ。
だが、何を言われようとも堂々としている方のようで、そのため息子の方が色々と説明していたようで、疲れが見える。
それを聞いて、オデットの方が泣いてしまった。
「す、すまない。甘いものが嫌いだったか?」
「いえ、嬉しくて」
息子の方は、嬉しくて泣くのかと言う顔をしていた。ブランシュも、よく泣いているようで、姉とは違う生き物のように見えているようだ。
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