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しおりを挟むおかしい。やっぱり何かの呪いがかかっているのかもしれない。
ジョヴァンナは、幼なじみの鼻血を本気で心配していただけで、見物してるなら、どっか行けと言われて本気でいなくなった1人の王太子は……。
「君のような心優しい令嬢を見たことがない。私の理想とする女性だ」と猛アタックを開始したのは、ヴァレリアを医務室へと送り届けた後だったらしい。
それこそ、やはりヴァレリアが心配だと医務室まで来たのなら、まだわかるが。違うのだ。ヴァレリアなんて、眼中になく、彼はジョヴァンナにそれを伝えて婚約してほしいと伝えたくて、そこにいたのだ。
逆にジョヴァンナは、益々絶好調にこう言った。
「令嬢が鼻血出してるのを放置して、心配もせずに私を口説くなんて、論外よ。1番ありえないわ」
王太子の婚約する気は、幼なじみにはなかった。むしろ、王太子のことを全力で気持ち悪がっていた。
何なら、その話を数日、自室で安静にしていたヴァレリアはジョヴァンナが見舞いに来てくれた時に聞いて、本気でドン引きした。
「なにそれ、気持ち悪い」
「そうよね!?」
「う、うん。そう思う」
なぜか、気持ち悪いと呟いたヴァレリアにジョヴァンナは嬉しそうにしていた。
「周りは、あなたみたいに言わないのよ」
「え……?」
「王太子に婚約してほしいと言われて、嫌がっている私がおかしいみたいに言うのよ」
「え、何それ」
ヴァレリアは、目をパチクリさせた。通りで、ジョヴァンナの方が疲れた顔をしているわけだ。
何なら安静にしろと言われたヴァレリアの方が元気いっぱいだ。鼻をぶつけたことで、ガーゼがあてられているが、それ以外は睡眠時間もちゃんと取れていて、元気すぎた。
まぁ、鼻のガーゼやら学園でのことを耳にした姉のロザリアには、散々笑われた。何なら、わざわざ帰宅して、ヴァレリアを見て笑うほどだ。本当に酷い姉がいたものだ。
そんなヴァレリアに妹だと言うので、自分まで笑われると言い出して、笑わなくなって怒られるようになったのは、昨日からだ。
多分、これまで自慢していることが賞味期限切れのようになっていて、新しいものが何もないから、今回のヴァレリアのことでなくて、本人のことで笑われているのも、ヴァレリアのせいだと思っているのではなかろうか。
ロザリアは、都合の悪いことになると妹のせいだと押し付けて来るのだ。とんでもない姉がいたものだ。
まぁ、姉だけでなくて、その婚約者の公爵子息も、よく似ていて……。
「笑われるようなことは控えてくれ」
「……」
なんてことをちょっと前に言われた。あれもまた、ロザリアと同じように勘違いしているようだ。
自分が笑われていることを婚約者の妹が、毎回やらかすドジのせいで、被害を被っているかのように思っているのだ。
あの時はわからなかったが、ピンときた。
まぁ、笑われている中に全くヴァレリアが含まれて居ないとは思えないが、ヴァレリアとてそんな2人のせいでよく馬鹿にされている。
「あんなお姉さんと婚約者が義兄になる上、とんでもないドジなんだもの。あなたも大変よね」
「私なら、あんな姉とその婚約者がいるだけでも、物凄く嫌だわ」
それだけ、目に余りすぎてきたのだろうが、本人たちにその自覚が残念ながら全くないせいで、ロザリアたちはヴァレリアのドジのせいにしたのだ。
そもそも、ロザリアがわざとしたことから始まっているのに。もう、自分が何をしたかも忘れているようだった。
「ヴァレリア? 大丈夫?」
「っ、えぇ、何でもないわ」
「そんなことないわ。ごめんなさいね。安静にしてなきゃいけないのに。お見舞いに来てるのに変なことを言ったわ」
そんなことを言って、早く良くなってと言って帰って行った。
「やっぱり、幼なじみは別格だわ。なんて優しいんだろう」
ヴァレリアは、本当にそう思った。ヴァレリアを利用するだけして、すっかり忘れてる面々とは違う。
更には、利用したりせずに馬鹿にして来る連中とも違う。本気で、自分が面倒に巻き込まれる原因となっているというのにヴァレリアの心配をしてくれているのだ。
心優しいと王太子が熱烈に口説くのも無理はない。そんなようなことをヴァレリアですら考えてしまったが、それはヴァレリアが思っているよりもっと深刻だったことをこの時のヴァレリアは知りもしなかった。
ジョヴァンナがわざわざお見舞いに来てくれた日。伯爵家では、こんなことになっていた。
もう全身で絶対に無理だと物語って、それまでも散々婚約したくないとジョヴァンナは両親に伝えているのだが、ジョヴァンナの両親は毎回同じようなことしか言わなかった。
「婚約しないなんてありえないわ!」
「そうだぞ。あんなに婚約してくれと言われているのに断るなんて、どうかしている」
「っ、」
おかしいのは、どっちだとジョヴァンナは両親に言ってやりたかったがやめた。
王太子に熱烈に口説かれて以来、学園で追いかけ回されていて疲れているのに家に帰れば、同じようなことを両親が言い続けるのだ。
ずっと断ってほしいとジョヴァンナは言っているのに。初めて聞いたかのように両親は怒って、説教を始めるのだ。そんなのおかしすぎる。
だが、両親は前日のことなどなかったことにして、どうにかこうにかジョヴァンナの気を変えようとしているのだとしたら、気が変わる前に娘の気が変になる。
こんなのに付き合いきれるはずがない。ジョヴァンナは、言いたいことははっきり言うタイプだが、昨日も聞いたと言って、更におかしなこと言うなとばかりに説教が長引いたのもあり、下手なことを言わないで黙ってやり過ごすことにしているが、それが物凄いストレスとなっていた。
ジョヴァンナは、両親にそんなことを言われ続けた。そんなことになっていることをジョヴァンナは、ヴァレリアにも話さなかった。話したところで、この熱量だ。断ってくれる気はないだろう。
娘が玉の輿に乗れることに浮かれた伯爵夫妻は、娘が本気で嫌がっているというのに婚約させるまで、そんなに日数をかけていたつもりがないようだ。
「これで、安心ね」
「そうだな。よかったな、ジョヴァンナ」
両親は、婚約したことに我が家は安泰だと喜び、これまで娘と散々口論をしていたこともなかったかのようにした。
「どうなってるの?」
ジョヴァンナは、そういう風に追い詰めて婚約させる腹づもりかと思っていたのだが、そうではなさそうな両親にゾッとし始めた。
あまりにも気持ち悪くて、これはまずいと思って、ヴァレリアに相談に乗ってもらおうとしたが、それは叶わなかった。
なぜか、気づくと1日が終わっているのだ。
「何で??」
ヴァレリアに相談をしようと朝を迎えて気づいたら、色んなことにかまけて終わってしまうのだ。
最初、ジョヴァンナはわけがわからなかった。でも、そのうち、そういうものであがらえない呪いのようなものだと受け入れるしかないと思うと楽になれた。
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