上 下
3 / 13

しおりを挟む

おかしい。やっぱり何かの呪いがかかっているのかもしれない。

ジョヴァンナは、幼なじみの鼻血を本気で心配していただけで、見物してるなら、どっか行けと言われて本気でいなくなった1人の王太子は……。


「君のような心優しい令嬢を見たことがない。私の理想とする女性だ」と猛アタックを開始したのは、ヴァレリアを医務室へと送り届けた後だったらしい。

それこそ、やはりヴァレリアが心配だと医務室まで来たのなら、まだわかるが。違うのだ。ヴァレリアなんて、眼中になく、彼はジョヴァンナにそれを伝えて婚約してほしいと伝えたくて、そこにいたのだ。

逆にジョヴァンナは、益々絶好調にこう言った。


「令嬢が鼻血出してるのを放置して、心配もせずに私を口説くなんて、論外よ。1番ありえないわ」


王太子の婚約する気は、幼なじみにはなかった。むしろ、王太子のことを全力で気持ち悪がっていた。

何なら、その話を数日、自室で安静にしていたヴァレリアはジョヴァンナが見舞いに来てくれた時に聞いて、本気でドン引きした。


「なにそれ、気持ち悪い」
「そうよね!?」
「う、うん。そう思う」


なぜか、気持ち悪いと呟いたヴァレリアにジョヴァンナは嬉しそうにしていた。


「周りは、あなたみたいに言わないのよ」
「え……?」
「王太子に婚約してほしいと言われて、嫌がっている私がおかしいみたいに言うのよ」
「え、何それ」


ヴァレリアは、目をパチクリさせた。通りで、ジョヴァンナの方が疲れた顔をしているわけだ。

何なら安静にしろと言われたヴァレリアの方が元気いっぱいだ。鼻をぶつけたことで、ガーゼがあてられているが、それ以外は睡眠時間もちゃんと取れていて、元気すぎた。

まぁ、鼻のガーゼやら学園でのことを耳にした姉のロザリアには、散々笑われた。何なら、わざわざ帰宅して、ヴァレリアを見て笑うほどだ。本当に酷い姉がいたものだ。

そんなヴァレリアに妹だと言うので、自分まで笑われると言い出して、笑わなくなって怒られるようになったのは、昨日からだ。

多分、これまで自慢していることが賞味期限切れのようになっていて、新しいものが何もないから、今回のヴァレリアのことでなくて、本人のことで笑われているのも、ヴァレリアのせいだと思っているのではなかろうか。

ロザリアは、都合の悪いことになると妹のせいだと押し付けて来るのだ。とんでもない姉がいたものだ。

まぁ、姉だけでなくて、その婚約者の公爵子息も、よく似ていて……。


「笑われるようなことは控えてくれ」
「……」


なんてことをちょっと前に言われた。あれもまた、ロザリアと同じように勘違いしているようだ。

自分が笑われていることを婚約者の妹が、毎回やらかすドジのせいで、被害を被っているかのように思っているのだ。

あの時はわからなかったが、ピンときた。

まぁ、笑われている中に全くヴァレリアが含まれて居ないとは思えないが、ヴァレリアとてそんな2人のせいでよく馬鹿にされている。


「あんなお姉さんと婚約者が義兄になる上、とんでもないドジなんだもの。あなたも大変よね」
「私なら、あんな姉とその婚約者がいるだけでも、物凄く嫌だわ」


それだけ、目に余りすぎてきたのだろうが、本人たちにその自覚が残念ながら全くないせいで、ロザリアたちはヴァレリアのドジのせいにしたのだ。

そもそも、ロザリアがわざとしたことから始まっているのに。もう、自分が何をしたかも忘れているようだった。


「ヴァレリア? 大丈夫?」
「っ、えぇ、何でもないわ」
「そんなことないわ。ごめんなさいね。安静にしてなきゃいけないのに。お見舞いに来てるのに変なことを言ったわ」


そんなことを言って、早く良くなってと言って帰って行った。


「やっぱり、幼なじみは別格だわ。なんて優しいんだろう」


ヴァレリアは、本当にそう思った。ヴァレリアを利用するだけして、すっかり忘れてる面々とは違う。

更には、利用したりせずに馬鹿にして来る連中とも違う。本気で、自分が面倒に巻き込まれる原因となっているというのにヴァレリアの心配をしてくれているのだ。

心優しいと王太子が熱烈に口説くのも無理はない。そんなようなことをヴァレリアですら考えてしまったが、それはヴァレリアが思っているよりもっと深刻だったことをこの時のヴァレリアは知りもしなかった。

ジョヴァンナがわざわざお見舞いに来てくれた日。伯爵家では、こんなことになっていた。

もう全身で絶対に無理だと物語って、それまでも散々婚約したくないとジョヴァンナは両親に伝えているのだが、ジョヴァンナの両親は毎回同じようなことしか言わなかった。


「婚約しないなんてありえないわ!」
「そうだぞ。あんなに婚約してくれと言われているのに断るなんて、どうかしている」
「っ、」


おかしいのは、どっちだとジョヴァンナは両親に言ってやりたかったがやめた。

王太子に熱烈に口説かれて以来、学園で追いかけ回されていて疲れているのに家に帰れば、同じようなことを両親が言い続けるのだ。

ずっと断ってほしいとジョヴァンナは言っているのに。初めて聞いたかのように両親は怒って、説教を始めるのだ。そんなのおかしすぎる。

だが、両親は前日のことなどなかったことにして、どうにかこうにかジョヴァンナの気を変えようとしているのだとしたら、気が変わる前に娘の気が変になる。

こんなのに付き合いきれるはずがない。ジョヴァンナは、言いたいことははっきり言うタイプだが、昨日も聞いたと言って、更におかしなこと言うなとばかりに説教が長引いたのもあり、下手なことを言わないで黙ってやり過ごすことにしているが、それが物凄いストレスとなっていた。

ジョヴァンナは、両親にそんなことを言われ続けた。そんなことになっていることをジョヴァンナは、ヴァレリアにも話さなかった。話したところで、この熱量だ。断ってくれる気はないだろう。

娘が玉の輿に乗れることに浮かれた伯爵夫妻は、娘が本気で嫌がっているというのに婚約させるまで、そんなに日数をかけていたつもりがないようだ。


「これで、安心ね」
「そうだな。よかったな、ジョヴァンナ」


両親は、婚約したことに我が家は安泰だと喜び、これまで娘と散々口論をしていたこともなかったかのようにした。


「どうなってるの?」


ジョヴァンナは、そういう風に追い詰めて婚約させる腹づもりかと思っていたのだが、そうではなさそうな両親にゾッとし始めた。

あまりにも気持ち悪くて、これはまずいと思って、ヴァレリアに相談に乗ってもらおうとしたが、それは叶わなかった。

なぜか、気づくと1日が終わっているのだ。


「何で??」


ヴァレリアに相談をしようと朝を迎えて気づいたら、色んなことにかまけて終わってしまうのだ。

最初、ジョヴァンナはわけがわからなかった。でも、そのうち、そういうものであがらえない呪いのようなものだと受け入れるしかないと思うと楽になれた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

殿下をくださいな、お姉さま~欲しがり過ぎた妹に、姉が最後に贈ったのは死の呪いだった~

和泉鷹央
恋愛
 忌み子と呼ばれ、幼い頃から実家のなかに閉じ込められたいた少女――コンラッド伯爵の長女オリビア。  彼女は生まれながらにして、ある呪いを受け継いだ魔女だった。  本当ならば死ぬまで屋敷から出ることを許されないオリビアだったが、欲深い国王はその呪いを利用して更に国を豊かにしようと考え、第四王子との婚約を命じる。    この頃からだ。  姉のオリビアに婚約者が出来た頃から、妹のサンドラの様子がおかしくなった。  あれが欲しい、これが欲しいとわがままを言い出したのだ。  それまではとても物わかりのよい子だったのに。  半年後――。  オリビアと婚約者、王太子ジョシュアの結婚式が間近に迫ったある日。  サンドラは呆れたことに、王太子が欲しいと言い出した。  オリビアの我慢はとうとう限界に達してしまい……  最後はハッピーエンドです。  別の投稿サイトでも掲載しています。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

かわりに王妃になってくれる優しい妹を育てた戦略家の姉

菜っぱ
恋愛
貴族学校卒業の日に第一王子から婚約破棄を言い渡されたエンブレンは、何も言わずに会場を去った。 気品高い貴族の娘であるエンブレンが、なんの文句も言わずに去っていく姿はあまりにも清々しく、その姿に違和感を覚える第一王子だが、早く愛する人と婚姻を結ぼうと急いで王が婚姻時に使う契約の間へ向かう。 姉から婚約者の座を奪った妹のアンジュッテは、嫌な予感を覚えるが……。 全てが計画通り。賢い姉による、生贄仕立て上げ逃亡劇。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

婚約者にざまぁしない話(ざまぁ有り)

しぎ
恋愛
「ガブリエーレ・グラオ!前に出てこい!」 卒業パーティーでの王子の突然の暴挙。 集められる三人の令嬢と婚約破棄。 「えぇ、喜んで婚約破棄いたしますわ。」 「ずっとこの日を待っていました。」 そして、最後に一人の令嬢は・・・ 基本隔日更新予定です。

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

処理中です...