上 下
10 / 12

10

しおりを挟む

アグニュー侯爵夫人は、ジャクリーンと息子を婚約させられないかと思って動き出そうとしていたが、それより先にジャクリーンは婚約していた。

それをしばらく悔しそうにしていたが、ジャクリーンに嫌味を言って来ることはなかった。

アグニュー侯爵夫人のことをヴァージルに話をしたことで、すぐにそれを両親に話してくれたのだ。


「ジャクリーン」
「はい」
「そういうのは、早く言ってくれ」
「っ、申し訳ありません」


父に言われて、ジャクリーンはまた迷惑をかけると思って身を小さくした。


「謝るな。アイリーンの方で不甲斐ないところを見せていたからな。あー、ジャクリーンには解消してから、婚約したいと言われているんだ」
「え?」
「すまん。ジャクリーンが、元婚約者のことをそれなりに好きだったのではないかと思って、すぐに婚約の打診が来ているというと困らせるかと思って待ってもらっていたんだ」
「あなた、それはどなたなんですか?」
「あー、それがな」


父が、その後、お相手のことを教えてくれて、オールストン子爵家で驚くことになったのは、ジャクリーンだけだった。


「まぁ、ジャクリーンなら、そのくらいの相手から見初められていても無理はないな」
「そうね。あなたったら、ジャクリーンに決めてもらえば良かったのに」
「そうだな。頭が回っていなかった」
「……」
「ジャクリーン?」
「……あの、お会いしてみてから決めたりしたら、やはり駄目ですよね?」
「いや、身分で婚約を決められるより、会ってから決めてもらえた方がいいとおっしゃっていたから、大丈夫だ」
「父さん。それも重要なことだと思いますよ」
「あ、そ、そうだな。すまん」


ヴァージルにそう言われて、母も同じような目で見ていてアグニュー侯爵は縮こまっていたが、ジャクリーンは気にもしなかった。

そこから、忙しいだろうに何度か会ってくれて、婚約が決まったのだ。


「ジャクリーン。おめでとう!」
「ありがとう」


親しい令嬢が嬉しそうに祝福してくれて、他の令嬢も笑顔で祝福してくれたが、中には不満たらたらにしているのもいた。

ジャクリーンが婚約したのは、この国の王太子だった。どうやら、ジャクリーンは王太子に一目惚れされていたようだ。エグバートと婚約した時に見初められていたようだが、婚約していると知って諦めようとしたが、できずに解消となってから父に打診していたようだ。

それを父がジャクリーンに話さずにとどめているとは知らずに王太子は、ジャクリーンに何とも思われていないのではないかと思っていたようだ。


「オールストン子爵が言ってなかったとは思わなかった」
「すみません。父は、私を思って黙っていてくれたんです」
「そうだな。ジャクリーンは、色々大変な目にあっていたからな」


王太子も、学園でのアイリーンたちの騒ぎを知っていたので、すぐに納得してくれた。

アグニュー侯爵夫人の誘いを断るためとは、ジャクリーンは言うことはなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私の婚約者はもう死んだので

miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」 結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。 そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。 彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。 これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。

【完結】さよなら、大好きだった

miniko
恋愛
「私に恋を教えてくれませんか?」 学園内で堅物と呼ばれている優等生のルルーシアが、遊び人の侯爵令息ローレンスにそんな提案をしたのは、絶望的な未来に対するささやかな反抗だった。 提示された魅力的な対価に惹かれた彼はその契約を了承し、半年の期間限定の恋人ごっこが始まる。 共に過ごす内にいつの間にか近付いた互いの想いも、それぞれが抱えていた事情も知らぬまま、契約期間の終了よりも少し早く、突然訪れた別れに二人は───。 恋を知る事になったのは、どっち? ※両者の想いや事情を描く為に、視点の切り替えが多めです。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね

祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」 婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。 ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。 その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。 「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」  ***** 全18話。 過剰なざまぁはありません。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?

Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とクラレット・メイズ伯爵令嬢は困惑していた。 最近何故か良く目にする平民の生徒──エボニーがいる。 とても可愛らしい女子生徒であるが視界の隅をウロウロしていたりジッと見られたりするため嫌でも目に入る。立場的に視線を集めることも多いため、わざわざ声をかけることでも無いと放置していた。 クラレットから自分に任せて欲しいと言われたことも理由のひとつだ。 しかし一度だけ声をかけたことを皮切りに身に覚えの無い噂が学園内を駆け巡る。 次期フロスティ公爵夫人として日頃から所作にも気を付けているキャナリィはそのような噂を信じられてしまうなんてと反省するが、それはキャナリィが婚約者であるフロスティ公爵令息のジェードと仲の良いエボニーに嫉妬しての所業だと言われ── 「私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 そう問うたキャナリィは 「それはこちらの台詞だ。どうしてエボニーを執拗に苛めるのだ」 逆にジェードに問い返されたのだった。 ★★★ 覗いて頂きありがとうございます 全11話、10時、19時更新で完結まで投稿済みです ★★★ 2025/1/19 沢山の方に読んでいただけて嬉しかったので、今続きを書こうかと考えています(*^^*)

【完結】え? いえ殿下、それは私ではないのですが。本当ですよ…?

にがりの少なかった豆腐
恋愛
毎年、年末の王城のホールで行われる夜会 この場は、出会いや一部の貴族の婚約を発表する場として使われている夜会で、今年も去年と同じように何事もなく終えられると思ったのですけれど、今年はどうやら違うようです ふんわり設定です。 ※この作品は過去に公開していた作品を加筆・修正した物です。

【完結】愛人を作るのですか?!

紫崎 藍華
恋愛
マリエルはダスティンと婚約し愛され大切にされた。 それはまるで夢のような日々だった。 しかし夢は唐突に終わりを迎えた。 ダスティンが愛人を作ると宣言したのだ。

処理中です...