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「残念ね」
「え?」


母がポツリと呟いたのを耳にしたのは、アリーチェだけしかいない時だった。


「王女とはお似合いだと思っていたのだけど」
「それって、お兄様とですか?」
「そうよ」
「お母様も、そう思われてたんですね」
「あら、アリーチェも?」
「はい。美男美女なんですけど、なんかしっくりこなくて。お兄様との方が、よかったとずっと思っていました」


そう言うと母は、にっこりと笑った。週1で医者が来ていたのも落ち着いて、月1に変わっただけはあって顔色もよくなっていた。


「あなたは、やっぱり私に似ているのね」
「え?」


(やっぱりって、何??)


アリーチェは、母が何をもって似ていると言うのかがわからなかった。

でも、しっくりこないと思っている2人を見ていても疲れるだけだった。そのため、アリーチェも留学することにした。

それは、兄が留学していた国にはしなかった。アリーチェは直感で別の国にした。ロベルタのことで、王太子が兄に相談していたとレティツィアが言っていたのをふと思い出したのだ。


(兄に何かと相談していたのなら、意気投合したってことよね)


そう考えるとその王太子に会いたくなかったのだ。


「アリーチェが、そうしたいなら、思うままにしてみるといいわ」


母が、すぐに賛成してくれたことで、父もすぐに了承してくれた。この家では、母が味方してくれるともれなく父もついてくることが多い。

すぐに納得しなかったのは、兄だけだった。


(自分の時は、私に対してあんなにサラッとしていたのに)


アリーチェが、別の国に留学することに対して色々と言って来たのは、兄だけだった。そのしつこさにうんざりしてしまった。


(何だか、いつの間にか、理想の兄がエルネスト様の方になってしまっているわ。……凄く面倒くさい。お姉様どころじゃないわ)


兄は、もしかすると王太子とアリーチェを婚約させたかったのかもしれない。そのため、王女の一目惚れした相手とくっつけることに奔走したとしたら、アリーチェは残念でならなかった。

お似合いなのは、兄と王女だと母とアリーチェは思っているのだ。

そこから、何とか留学をしたのだが、思い返しても疲れるだけだった。何ならしつこく手紙が来ていて、今からでも兄が留学していた国にしないかというような内容で、げんなりしていた。


「浮かない顔ばかりしているね」
「え?」
「ここに来てから、ずっとそんな顔をしているよ。ここは、そんなに退屈?」
「……」


アリーチェは、留学先でエルネストにそっくりな子息に突然話しかけられて驚きすぎた。


(何で、ここに……? ううん。この人、あの方じゃないわ)


じっとアリーチェがそっくりな子息を見て、別人だとわかった。似過ぎてるが、違う人だ。


「すまない。突然すぎたな」
「いえ。あの、エルネスト様の血縁者だったりします?」
「あれ、エルネストのこと知ってるの? あれの双子の弟のフィリベルト・オルランディというんだ。ずいぶん昔に養子になってるから、兄とは会ってないんだけど、そっくりなままみたいだね」
「えぇ、でも、口調や雰囲気が違います」


そこから、フィリベルトはアリーチェの兄のことも覚えていた。


「あー、あの人昔から、僕らのことよく叩いていたんだよね」
「……昔からなんですね」
「ん? まだ、やってるの?」


それにフィリベルトの方が、信じられないという顔をしていた。

昔からというのにアリーチェは、何とも言えない顔をしてしまった。


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