8 / 13
8
しおりを挟む「美味しい」
「……」
エルネストからのお見舞いの品のプリンは、とても美味しかった。ただ、それを口にすると兄の顔が無になっていくのに気づいて、アリーチェが感想を言葉にするのをやめたのは早かった。
(複雑というか。お兄様って、エルネスト様に関してだけ面倒くさいところがあるのかも)
「……全部、食べたのか」
「……」
(き、気まずい)
兄は複雑そうな顔をしていた。更に複雑な顔をアリーチェはしていたはずだが、兄はそれに気づいていないようだ。
「あ、そうだ」
「?」
兄は、ふと思い出したかのようにサラッとこう告げた。
「マッダレーナが勘当された」
「え?」
兄は、何でもないようにそんなことを言った。それにアリーチェは……。
(お姉様が、勘当された……? 勘当って、言ったわよね?)
暴れる音がしなくなったとは思っていた。それに使用人たちも穏やかな顔をし始めているのには気づいていた。
でも、兄のそれだけで普通ならわからないところだが、アリーチェは……。
(詳しく聞かなくてもわかるかも。そうなるとステルヴィオの方も……)
兄が、次に何を言うのかが、アリーチェにはわかってしまった。
「それとステルヴィオも、勘当された」
「……」
(やっぱり)
アリーチェは、そんなことだろうと思った。
兄は、それだけしか言わなかったが、姉は謹慎がとけてから学園でステルヴィオと口論になったようだ。
学園では……。
「え、あの2人、婚約の手続きすらしてないの?」
「信じられない」
「婚約パーティーを中々開かないと思っていたら、それ以前だったみたいだな」
あの調子で言い争ったせいで、みんなに何があったかを知られることになったようだ。自分たちで広めたようなものだ。
それで、散々言われるようになり、ステルヴィオの両親は息子が婚約破棄をしたのも知らなかったらしく、ステルヴィオはめちゃくちゃ怒られたようだ。
「はぁ?! 婚約破棄すると勢いで言って、姉の方と婚約すると言っておいて、私たちに何も言わなかったのか!?」
「いえ、あの、」
この時、ステルヴィオの姉が嫁ぎ先で子供を産むと、彼の母親は嫁ぎ先に手伝いに行っていたが、生まれたと連絡が来て父親も、そちらに行っていてようやく戻って来たところだった。
アリーチェとの婚約破棄の手続きも、アリーチェの父親がやっていたのも、ステルヴィオの両親は知らなかったようだ。
そんな状況で、色々やらかしたことを聞いたが、それすら……。
「あいつのせいだ」
なぜか、ステルヴィオはそれらを全部アリーチェのせいにした。
そして、それはマッダレーナも一緒だった。
「アリーチェのせいで、散々な目にあっているわ」
そう、全てはアリーチェが寝違えたことから始まったと思ったようだ。
残念ながら問題は、そこからではないし、アリーチェのせいだと思っているのは、2人だけだ。寝違えたのは、きっかけであって原因ではない。
だが、マッダレーナとステルヴィオは、アリーチェのことを悪く言うのを熱弁して罵詈雑言を言いまくって、それによって2人は勘当が確定した。
アリーチェに謝るという選択肢が2人から出て来なかったことで、そうなったのだ。
それをざっくり話してくれたのは、親友のレティツィアだった。
兄は、何があったかを話す気はまるでなく、元より妹はアリーチェしかいなかったかのようにしていて、聞ける雰囲気ではなかった。
まぁ、何にせよ。学園でも、兄のようにいなくなってホッとしている面々ばかりで、姉と幼なじみのことをあれこれとアリーチェに言って来る人はいなかった。
117
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
私は《悪役令嬢》の役を降りさせて頂きます
めぐめぐ
恋愛
公爵令嬢であるアンティローゼは、婚約者エリオットの想い人であるルシア伯爵令嬢に嫌がらせをしていたことが原因で婚約破棄され、彼に突き飛ばされた拍子に頭をぶつけて死んでしまった。
気が付くと闇の世界にいた。
そこで彼女は、不思議な男の声によってこの世界の真実を知る。
この世界が恋愛小説であり《読者》という存在の影響下にあることを。
そしてアンティローゼが《悪役令嬢》であり、彼女が《悪役令嬢》である限り、断罪され死ぬ運命から逃れることができないことを――
全てを知った彼女は決意した。
「……もう、あなたたちの思惑には乗らない。私は、《悪役令嬢》の役を降りさせて頂くわ」
※全12話 約15,000字。完結してるのでエタりません♪
※よくある悪役令嬢設定です。
※頭空っぽにして読んでね!
※ご都合主義です。
※息抜きと勢いで書いた作品なので、生暖かく見守って頂けると嬉しいです(笑)

お前との婚約は、ここで破棄する!
ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。


悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい
みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。
切ない話が書きたくて書きました。
転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました
21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。
理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。
(……ええ、そうでしょうね。私もそう思います)
王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。
当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。
「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」
貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。
だけど――
「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」
突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!?
彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。
そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。
「……あの、何かご用でしょうか?」
「決まっている。お前を迎えに来た」
――え? どういうこと?
「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」
「……?」
「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」
(いや、意味がわかりません!!)
婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、
なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる