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久しぶりに学園に来たアリーチェは、みんなに心配されて温かく迎えられた。


「色々と大変でしたわね」
「もう、大丈夫ですか?」
「えぇ、皆さん、お見舞いをありがとうございます」


だが、寝違えた話題よりも、別のことを気にかけてくれた方が大きかったのは間違いではなかった。

あの2人、どこからも招待されないとこれ見よがしに言っているのが聞こえた。


「……もしかして、ずっとあぁなの?」
「えぇ、暇だから招待してほしいとアピールなさってます」


それが聞こえたアリーチェは遠い目をしていた。


(招待してもらう以前に婚約破棄して、速攻で婚約したんだから、婚約パーティーを自分たちでやろうとしないところが、あの2人よね)


姉と婚約していた時は、エルネストが主に動いて婚約パーティーをした。

ステルヴィオと婚約していた時は、アリーチェが全部を采配して婚約パーティーをした。

あの2人は、どちらも婚約パーティーを取り仕切る力量がないのだ。そこに気づいていないどころか。婚約パーティーをやるところまで至っていないのだ。


(まぁ、気づいていないのなら、わざわざ指摘する気はないけど。……言ったらやらされるに決まっているし)


「アリーチェ様。あの、お兄様も留学から戻られたようですね」


目ざとく戻って来たことを知った令嬢たちが、アリーチェと一緒に兄をお茶会やらパーティーに招待して来たのは、それからすぐだった。


「何で、お兄様とアリーチェばかりに招待状が来るのよ!!」


案の定、マッダレーナが目ざとくそれを見つけて怒ったのは、すぐだった。


(うわぁ、また面倒くさいことが始まった)


「来るに決まっているだろ。2人共、婚約者がいないんだ」
「だからって、私のところにも、ステルヴィオのところにも何も来てないなんておかしいわ!」
「……何を言ってるんだ? そんなもの来るわけないだろ」


父は、マッダレーナの言い分に呆れた声を出した。それにマッダレーナは戸惑った。


「え?? な、何で、そんなことを言うんですか?」
「婚約破棄をしたことについては私がしたが、普通はそこもお前たちがどうにかするところなんだぞ。それはしたが婚約したのは、お前たちがしたと広めているだけで、婚約パーティーの日程どころか。ステルヴィオの家からも、何の話もきていないんだ。そんなのをどうやって招待すると言うんだ?」
「え? それって、つまり……」
「婚約したと言いふらしているだけで、手続きが完了していないと言っているんだ」
「はぁ!?」


マッダレーナは、肝心なことが済んでいないことをようやく知ることになった。

兄は、しれっとして何も反応しないままでいて、母は……。


「アリーチェ。このシリーズの新作が出たの知ってる?」


ぬいぐるみのことを振られて、アリーチェは……。


(このタイミングで!?)


母は、色んな人たちをくっつけてきたが、マッダレーナとステルヴィオのことに感心がまるでないことが、よくわかった。


「母上。それは?」
「触り心地の良いぬいぐるみよ。アリーチェが、お見舞いで貰ったのだけど、可愛いし、和むのよ」
「……確かに触り心地がいいですね」
「でしょ?」


すると兄が、アリーチェをじっと見た。


「えっと、その、新作のお話は知ってます」
「そうなの。私、とても楽しみにしているのだけど、お買い物に行くのは、まだ難しくて……」
「なら、私が……」


買って来ると言おうとしたところだった。


「アリーチェ!!」


バチーン!!


(へ?)


アリーチェが母の方を向いて話をしていたはずが、気づけば倒れていた。


(何が起きたの?? なんか、ほっぺたが物凄く痛い)


「マッダレーナ! 何をするんだ!?」
「だって、アリーチェが」


どうやら、アリーチェは姉にビンタされて椅子から転げ落ちたようだ。


(何で、ビンタ??)


アリーチェは、父と話していた姉のことを見ていなかったので、避けることもできなかった。

ただ、姉以外の家族と使用人がアリーチェを心配するのに返事すらできなかった。


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