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しおりを挟む数日ぶりに姉のマッダレーナを見たかと思えば、アリーチェの部屋を見るなり……。
「ふん。これ見よがしね」
「……」
そんなことを言うのが聞こえた。部屋に溢れ返るお見舞いの品々。見舞いに来ていたのは、この時はレティツィアではなくて、別の友達がいたが全く見えていなかったようだ。
「……何、あれ?」
「仮病だと思っているみたい」
「は? 何、それ。最悪すぎでしょ」
「元婚約者も、全く同じよ」
「あー、確かに。学園で色々言っているみたいね。何を言ってるかまでは知らないけど、くだらないことでしょ」
「そうね」
レティツィアほどではないが、友達の令嬢とも長い付き合いなこともあり、ステルヴィオが何をするかなんてアリーチェはよくわかっていた。友達は、早く良くなってと言っていいのか。この際だから、ゆっくりしてと言うのがいいのかがわからないと素直すぎる言葉をくれた。
そして、レティツィアと同じく触り心地の良いぬいぐるみを抱っこして、離さなくなった。
「これ、人気で売り切れ続出しているのよ」
「……うん。たぶん、我が家に集結しちゃったんだと思う」
我が家の2部屋ほど、そのぬいぐるみの部屋になっている。何気に母も、気に入ったらしく、全種類が母の部屋に置かれている。
(あんな目で見られたら、譲らないわけにはいかないわよね)
何気に父が、それを知ってプレゼントしたかったようだが、買えなかったらしく酷く落ち込んでいた。
それを知らない母は、うきうきと嬉しそうに父にぬいぐるみのことを語っているようだ。母らしいし、それを黙って聞いているのも、父らしい。
(それが、姉やあの幼なじみだったら、今頃はボロクソに言われているところでしょうね)
そんなことをあれこれ考えているとその友達も、ぬいぐるみの触り心地の良さに取り憑かれたようになっていた。
(……そうなるかなとは思っていたけど)
「アリーチェ。あの……」
「妹さんたちも、必要よね。同じのがいい? それとも、違うのにする?」
「喧嘩になるから同じので、お願い」
友達は、食い気味でそう言った。この友達は、妹をこよなく愛していた。多分だが、ぬいぐるみのことを聞いて妹たちにプレゼントしたくて探したが、売り切れていてアリーチェのところに様子見がてら来たら、自分もハマったのだろう。
「妹さんたちにも、お見舞いの品、ありがとうって伝えてね。それとご両親からも、お見舞いの花をもらってるのよ。これ、皆さんで食べて。ぬいぐるみは、たくさん同じものが被ってしまっているから、申し訳ないけど、私の代わりに大事に」
「ありがとう」
あまりにも大量に来ているお見舞いにアリーチェは、お礼のメッセージカードとお菓子を返すのに必死になっていた。
普通は完治してから贈るのだろうが、ただの寝違えなのだ。大事になりすぎているのもあって、収束させるのに大したことないと書き添えておいた。
友達は、ぬいぐるみと菓子折りを持って、お大事にと言って帰って行った。
家でアリーチェは、ずっと姉の相手をしているのだ。学園で、何か言われていても、アリーチェはどうでもよかったのが、本音だったりする。夢の中でまで相手しているアリーチェには、学園でのことまで面倒見きれなくなっていた。
勢いのまま婚約した姉とステルヴィオは、アリーチェのせいで台無しになった婚約パーティーの仕切り直しのように出かける気でいたようだが、2人のことを招待する人たちは皆無だった。
まぁ、数日でパーティーに招待しようとする者は少ないはずだ。その前に自分たちの勢いのままで婚約したパーティーをするのが先だと思うが、そう思うことはなかったようだ。
「アリーチェ! あなたでしょ!!」
「何のこと?」
「私が、ステルヴィオと婚約したのが気に入らないからって、あんまりよ!」
「そうだぞ! 元婚約者であり、実の姉にこんなことするなんて、お前、最悪もいいところだ」
姉とステルヴィオに突然、怒鳴られた。わけがわからず眉を顰めた。
そもそも、アリーチェは見舞いの品の返礼に追われていて、サインするのが辛くなっていて、イライラして全く余裕がない時にやめてほしい。
「……だから、何のことを言っているのよ。全くわからないんだけど」
ギャーギャーと怒鳴られているところに見舞いに来てくれた人がいた。
また、ぬいぐるみ目当ての友達だろうかとアリーチェは思っていた。何故なら、そのぬいぐるみを販売している店からお礼状のような見舞いの品が届いていたからだ。
そこには、新作が出るから、そちらもよろしく的な事が書いてあったが。
そんなことを考えて、誰が来たのかと見ていたら、考えている人とは違う人だった。
「何をしているんだ?」
「エルネスト様」
「アリーチェ嬢によってたかって何をしているんだ?」
「あ、いや、これは……」
マッダレーナは、流石にまずいと思ったのか。誤魔化そうとしていたが、ステルヴィオはそんな空気を読むような男ではなかった。
「こいつが、私たちに意地の悪い仕返しをしているのが悪いんだ!」
「意地の悪い仕返し?」
エルネストが現れて、姉は言い淀んでいたが、ステルヴィオは未だにこいつとアリーチェのことを言って来ていて、仕返しとやらを意気揚々と口にしていた。
それを聞いていたアリーチェは、目をパチクリさせた。
(この幼なじみは、全く変わってないわね)
エルネストも、それを黙って聞いていたが、眉を顰めていた。
「……それをアリーチェ嬢がしていると?」
「そうです。こいつ以外にありえません!」
こいつ、こいつと言わないでほしい。それとドヤ顔で、指をささないでほしい。へし折りたくなる。
アリーチェは、そんなことを内心ではもっと凄いことを思いながら、ステルヴィオを見た。その目は、つまらないものを見ている目をしていたはずだ。
「何を言っているんだ? それは、君が学園で、今回のことを喚き散らしたからだろ」
「へ?」
「喚き散らした??」
エルネストは呆れながら、そんなことを言うとステルヴィオは間抜けな顔と声を出し、マッダレーナは知らなかったのか首を傾げた。
(なんか、これだけでわかったかも。こいつのせいで、見舞いの品が大量に届いてたんだわ。あれには、見舞い以上に婚約破棄になったことや元婚約者への同情的なものもあったに違いない)
元気を出してとあったのも、寝違えたことに対してより、とんでもないないのと婚約破棄になったことに対してだったのだろう。
アリーチェは、それだけでよくわかったが、喚き散らした2人だけが理解できなかったようだが。
それを説明するのにエルネストは何とも言えない顔をして頑張っていたが、頑張りが実ることはなかった。
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