上 下
3 / 13

しおりを挟む

数日ぶりに姉のマッダレーナを見たかと思えば、アリーチェの部屋を見るなり……。


「ふん。これ見よがしね」
「……」


そんなことを言うのが聞こえた。部屋に溢れ返るお見舞いの品々。見舞いに来ていたのは、この時はレティツィアではなくて、別の友達がいたが全く見えていなかったようだ。


「……何、あれ?」
「仮病だと思っているみたい」
「は? 何、それ。最悪すぎでしょ」
「元婚約者も、全く同じよ」
「あー、確かに。学園で色々言っているみたいね。何を言ってるかまでは知らないけど、くだらないことでしょ」
「そうね」


レティツィアほどではないが、友達の令嬢とも長い付き合いなこともあり、ステルヴィオが何をするかなんてアリーチェはよくわかっていた。友達は、早く良くなってと言っていいのか。この際だから、ゆっくりしてと言うのがいいのかがわからないと素直すぎる言葉をくれた。

そして、レティツィアと同じく触り心地の良いぬいぐるみを抱っこして、離さなくなった。


「これ、人気で売り切れ続出しているのよ」
「……うん。たぶん、我が家に集結しちゃったんだと思う」


我が家の2部屋ほど、そのぬいぐるみの部屋になっている。何気に母も、気に入ったらしく、全種類が母の部屋に置かれている。


(あんな目で見られたら、譲らないわけにはいかないわよね)


何気に父が、それを知ってプレゼントしたかったようだが、買えなかったらしく酷く落ち込んでいた。

それを知らない母は、うきうきと嬉しそうに父にぬいぐるみのことを語っているようだ。母らしいし、それを黙って聞いているのも、父らしい。


(それが、姉やあの幼なじみだったら、今頃はボロクソに言われているところでしょうね)


そんなことをあれこれ考えているとその友達も、ぬいぐるみの触り心地の良さに取り憑かれたようになっていた。


(……そうなるかなとは思っていたけど)


「アリーチェ。あの……」
「妹さんたちも、必要よね。同じのがいい? それとも、違うのにする?」
「喧嘩になるから同じので、お願い」


友達は、食い気味でそう言った。この友達は、妹をこよなく愛していた。多分だが、ぬいぐるみのことを聞いて妹たちにプレゼントしたくて探したが、売り切れていてアリーチェのところに様子見がてら来たら、自分もハマったのだろう。


「妹さんたちにも、お見舞いの品、ありがとうって伝えてね。それとご両親からも、お見舞いの花をもらってるのよ。これ、皆さんで食べて。ぬいぐるみは、たくさん同じものが被ってしまっているから、申し訳ないけど、私の代わりに大事に」
「ありがとう」


あまりにも大量に来ているお見舞いにアリーチェは、お礼のメッセージカードとお菓子を返すのに必死になっていた。

普通は完治してから贈るのだろうが、ただの寝違えなのだ。大事になりすぎているのもあって、収束させるのに大したことないと書き添えておいた。

友達は、ぬいぐるみと菓子折りを持って、お大事にと言って帰って行った。

家でアリーチェは、ずっと姉の相手をしているのだ。学園で、何か言われていても、アリーチェはどうでもよかったのが、本音だったりする。夢の中でまで相手しているアリーチェには、学園でのことまで面倒見きれなくなっていた。

勢いのまま婚約した姉とステルヴィオは、アリーチェのせいで台無しになった婚約パーティーの仕切り直しのように出かける気でいたようだが、2人のことを招待する人たちは皆無だった。

まぁ、数日でパーティーに招待しようとする者は少ないはずだ。その前に自分たちの勢いのままで婚約したパーティーをするのが先だと思うが、そう思うことはなかったようだ。


「アリーチェ! あなたでしょ!!」
「何のこと?」
「私が、ステルヴィオと婚約したのが気に入らないからって、あんまりよ!」
「そうだぞ! 元婚約者であり、実の姉にこんなことするなんて、お前、最悪もいいところだ」


姉とステルヴィオに突然、怒鳴られた。わけがわからず眉を顰めた。

そもそも、アリーチェは見舞いの品の返礼に追われていて、サインするのが辛くなっていて、イライラして全く余裕がない時にやめてほしい。


「……だから、何のことを言っているのよ。全くわからないんだけど」


ギャーギャーと怒鳴られているところに見舞いに来てくれた人がいた。

また、ぬいぐるみ目当ての友達だろうかとアリーチェは思っていた。何故なら、そのぬいぐるみを販売している店からお礼状のような見舞いの品が届いていたからだ。

そこには、新作が出るから、そちらもよろしく的な事が書いてあったが。

そんなことを考えて、誰が来たのかと見ていたら、考えている人とは違う人だった。


「何をしているんだ?」
「エルネスト様」
「アリーチェ嬢によってたかって何をしているんだ?」
「あ、いや、これは……」


マッダレーナは、流石にまずいと思ったのか。誤魔化そうとしていたが、ステルヴィオはそんな空気を読むような男ではなかった。


「こいつが、私たちに意地の悪い仕返しをしているのが悪いんだ!」
「意地の悪い仕返し?」


エルネストが現れて、姉は言い淀んでいたが、ステルヴィオは未だにこいつとアリーチェのことを言って来ていて、仕返しとやらを意気揚々と口にしていた。

それを聞いていたアリーチェは、目をパチクリさせた。


(この幼なじみは、全く変わってないわね)


エルネストも、それを黙って聞いていたが、眉を顰めていた。


「……それをアリーチェ嬢がしていると?」
「そうです。こいつ以外にありえません!」


こいつ、こいつと言わないでほしい。それとドヤ顔で、指をささないでほしい。へし折りたくなる。

アリーチェは、そんなことを内心ではもっと凄いことを思いながら、ステルヴィオを見た。その目は、つまらないものを見ている目をしていたはずだ。


「何を言っているんだ? それは、君が学園で、今回のことを喚き散らしたからだろ」
「へ?」
「喚き散らした??」


エルネストは呆れながら、そんなことを言うとステルヴィオは間抜けな顔と声を出し、マッダレーナは知らなかったのか首を傾げた。


(なんか、これだけでわかったかも。こいつのせいで、見舞いの品が大量に届いてたんだわ。あれには、見舞い以上に婚約破棄になったことや元婚約者への同情的なものもあったに違いない)


元気を出してとあったのも、寝違えたことに対してより、とんでもないないのと婚約破棄になったことに対してだったのだろう。

アリーチェは、それだけでよくわかったが、喚き散らした2人だけが理解できなかったようだが。

それを説明するのにエルネストは何とも言えない顔をして頑張っていたが、頑張りが実ることはなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

公爵令嬢の立場を捨てたお姫様

羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ 舞踏会 お茶会 正妃になるための勉強 …何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる! 王子なんか知りませんわ! 田舎でのんびり暮らします!

悪役令嬢の私が転校生をイジメたといわれて断罪されそうです

白雨あめ
恋愛
「君との婚約を破棄する! この学園から去れ!」 国の第一王子であるシルヴァの婚約者である伯爵令嬢アリン。彼女は転校生をイジメたという理由から、突然王子に婚約破棄を告げられてしまう。 目の前が真っ暗になり、立ち尽くす彼女の傍に歩み寄ってきたのは王子の側近、公爵令息クリスだった。 ※2話完結。

【完結】王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!

五月ふう
恋愛
「どういうことですか・・・?私は、ウルブス様の婚約者としてここに来たはずで・・・。その女性は・・・?」 城に来た初日、婚約者ウルブス王子の部屋には彼の愛人がいた。 デンバー国有数の名家の一人娘シエリ・ウォルターンは呆然と王子ウルブスを見つめる。幸せな未来を夢見ていた彼女は、動揺を隠せなかった。 なぜ婚約者を愛人と一緒に部屋で待っているの? 「よく来てくれたね。シエリ。  "婚約者"として君を歓迎するよ。」 爽やかな笑顔を浮かべて、ウルブスが言う。 「えっと、その方は・・・?」 「彼女はマリィ。僕の愛する人だよ。」 ちょっと待ってくださいな。 私、今から貴方と結婚するはずでは? 「あ、あの・・・?それではこの婚約は・・・?」 「ああ、安心してくれ。婚約破棄してくれ、なんて言うつもりはないよ。」 大人しいシエリならば、自分の浮気に文句はつけないだろう。 ウルブスがシエリを婚約者に選んだのはそれだけの理由だった。 これからどうしたらいいのかと途方にくれるシエリだったがーー。

婚約者は幼馴染みを選ぶようです。

香取鞠里
恋愛
婚約者のハクトには過去に怪我を負わせたことで体が不自由になってしまった幼馴染がいる。 結婚式が近づいたある日、ハクトはエリーに土下座して婚約破棄を申し出た。 ショックではあったが、ハクトの事情を聞いて婚約破棄を受け入れるエリー。 空元気で過ごす中、エリーはハクトの弟のジャックと出会う。 ジャックは遊び人として有名だったが、ハクトのことで親身に話を聞いて慰めてくれる。 ジャックと良い雰囲気になってきたところで、幼馴染みに騙されていたとハクトにエリーは復縁を迫られるが……。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた-- 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は-- ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

処理中です...