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第3章 第3章:呪われ(てない)男装騎士は拳で運命を切り拓く
第18話 サラシがちぎれた男装騎士の私の顛末
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震える声で言う。
脈絡のない突然の申し出に、フェルナン陛下は少し戸惑った表情を浮かべた――が、彼は首を縦に振った。
「かまわない」
(あぁ……。やっぱり陛下にとっての私なんて、その程度の従者なんだ)
ほっとした気持ちと寂しい気持ちが入混じり、私の瞳に涙がじわりと溜まる。
泣くな、アルヴァロ男だろ! などと思っても、こぼれる涙を止めることはできなかった。
「あ……。すみませ……、陛下。私……」
「なぜ泣く? 再就職先は決まっているから安心しろ」
震える手で涙を拭おうとすると、先に陛下の人差し指がついと私の目元に触れた。
(再就職先? こんな時まで無駄に優しいなんて、この人は……)
口を開いたら泣き声が漏れてしまいそうなので、私が俯いてぎゅっと唇を噛んでいると――。
「俺は十年前、日課の町の視察で、とある修道女を見かけたんだ」
唐突に過去の話を始めた陛下。
私はその内容に引っかかりを感じ、ハッと顔を上げた。
「彼女は毎日のように町の子どもに喧嘩を吹っ掛けられていたが、何度殴られても立ち上がり、拳一つで己の意志を貫いていた。それは温室育ちだった俺にはない獣のような強さ。そんな彼女に俺は憧れたんだ」
「え……」
「ある日、喧嘩で劣勢に陥っていた彼女を助けたことをきっかけに、俺はついに彼女と話すことができた。嬉しかったよ。かっこつけることもできたし。……で、俺は自分の正体を明かし、ずっと渡したかった騎士学校の推薦状を彼女に贈った。貴族の身分を持たない彼女と俺が将来接点を持つとしたら、この方法に賭けるしかなかったんだ」
「それってもしかして……」
私は、十年前のあの日に握らされた推薦状のことを思い出す。
あの時から、陛下はずっと――。
「私、男だと思われてるとばかり……っ」
「とんでもない。俺はいつかお前に、騎士として隣に来てくれたら……。そして貴族の身分を与えた後に、妻として迎えたいと思っていたんだ。だが、俺は愚かにもお前の名を聞きそびれてしまい、今の今まで見つけることができなかった」
以前、騎士学校を男女共学にしたのは、フェルナン陛下の熱心な提案によるものだと聞いたことがある。もしやそれは、自身が見初めた修道女に騎士の道を歩ませようとしたからではないか。
私はそう思い、ハッとフェルナン陛下の顔を見上げた。
「陛下……」
「どれほど捜しても女騎士一人見つけられず、彼女は騎士にならなかったのではないかと落ち込むこともあったが……。まさか男のフリをして、隣で守っていてくれたとはな」
フェルナン陛下の甘い眼差しが、私の全身に熱を巡らせる。自分と彼が十年前から両想いだったことが信じられず、うまく言葉が出て来ない。
「うぅ……。私、何がなんだか……」
フェルナン陛下と見つめ合うことが恥ずかしくなった私が、おろおろと目を泳がせていると。
「迷ったら俺の命令を聞いたらいい。お前は俺のものなのだから」
ふわりとフェルナン陛下の逞しい体が私に覆い被さり、大好きな大きな手が私の頭を優しく撫でる。温かくて気持ちいい。従者と主君の関係では有り得なかったぬくもりが、私に惜しげも無く注がれるのが嬉しくてたまらない。
「お前の再就職先は俺の妃だ」
「え……っ」
「教えてくれ。愛しい人の本当の名を」
フェルナン陛下の低くよく響く声が耳元で囁かれ、私は身悶えしながら口を開く。
「アルヴァローズ……です……」
「アルヴァローズ。いい名だ」
「女っぽくて恥ずかしいので、呼ばないで――」
「断る。愛しのアルヴァローズ」
もう我慢ならないと言わんばかりに、フェルナン陛下は私の唇を自身の唇で塞いでしまった。
十年間思い続けた相手との始めての口付けは、甘く力強く、そしてとろけるようだった……が。
「ふぎゃっ!」
私は人生初の大人キッスに目を剥いた。
驚いた私は思わず彼を突き飛ばし、彼は「どぅはっ!」という呻き声をあげて茂みの中を転がっていき、しばらくして地面に伏した。
(やってしまったーー!)
「陛下ぁぁっ! 申し訳ありません! でもいきなりベロチューするから! こんな公園の茂みで一国の王がヒートアップしちゃダメですから!」
私が大慌でフェルナン陛下を助け起こすと、彼は怒り一つ見せず、「すまん。つい」と小さく頭を下げた。
「お前が【女体化の呪い】を受けたと思ってから、ずっと我慢していたんだ。俺には心に決めた人がいるのに、どうにもこうにもお前が魅力的だから……」
「へ?!」
「お前とあの子が同一人物と分かった今、もう何も我慢する必要はないと思うと……、歯止めが……」
決まりが悪そうに話すフェルナン陛下が可愛くて、私だってつらい。
「十年分――。私、これからは妻としてあなたを守って、愛していきますから。お城では我慢はしませんよ?」
がばっとフェルナン陛下に抱き着くと、勢い余って私たちは地面に倒れ込んでしまった。
まさか【女体化の呪い】が、こんな結果《ハッピーエンド》を生むなんて。
私は「じゃあ、城ではミニスカとニーハイブーツのレパートリーを増やそう!」と意気込むフェルナン陛下にやれやれと笑いかけながら、返事がわりに熱い口付けを差し上げたのだった。
【オシマイ】
脈絡のない突然の申し出に、フェルナン陛下は少し戸惑った表情を浮かべた――が、彼は首を縦に振った。
「かまわない」
(あぁ……。やっぱり陛下にとっての私なんて、その程度の従者なんだ)
ほっとした気持ちと寂しい気持ちが入混じり、私の瞳に涙がじわりと溜まる。
泣くな、アルヴァロ男だろ! などと思っても、こぼれる涙を止めることはできなかった。
「あ……。すみませ……、陛下。私……」
「なぜ泣く? 再就職先は決まっているから安心しろ」
震える手で涙を拭おうとすると、先に陛下の人差し指がついと私の目元に触れた。
(再就職先? こんな時まで無駄に優しいなんて、この人は……)
口を開いたら泣き声が漏れてしまいそうなので、私が俯いてぎゅっと唇を噛んでいると――。
「俺は十年前、日課の町の視察で、とある修道女を見かけたんだ」
唐突に過去の話を始めた陛下。
私はその内容に引っかかりを感じ、ハッと顔を上げた。
「彼女は毎日のように町の子どもに喧嘩を吹っ掛けられていたが、何度殴られても立ち上がり、拳一つで己の意志を貫いていた。それは温室育ちだった俺にはない獣のような強さ。そんな彼女に俺は憧れたんだ」
「え……」
「ある日、喧嘩で劣勢に陥っていた彼女を助けたことをきっかけに、俺はついに彼女と話すことができた。嬉しかったよ。かっこつけることもできたし。……で、俺は自分の正体を明かし、ずっと渡したかった騎士学校の推薦状を彼女に贈った。貴族の身分を持たない彼女と俺が将来接点を持つとしたら、この方法に賭けるしかなかったんだ」
「それってもしかして……」
私は、十年前のあの日に握らされた推薦状のことを思い出す。
あの時から、陛下はずっと――。
「私、男だと思われてるとばかり……っ」
「とんでもない。俺はいつかお前に、騎士として隣に来てくれたら……。そして貴族の身分を与えた後に、妻として迎えたいと思っていたんだ。だが、俺は愚かにもお前の名を聞きそびれてしまい、今の今まで見つけることができなかった」
以前、騎士学校を男女共学にしたのは、フェルナン陛下の熱心な提案によるものだと聞いたことがある。もしやそれは、自身が見初めた修道女に騎士の道を歩ませようとしたからではないか。
私はそう思い、ハッとフェルナン陛下の顔を見上げた。
「陛下……」
「どれほど捜しても女騎士一人見つけられず、彼女は騎士にならなかったのではないかと落ち込むこともあったが……。まさか男のフリをして、隣で守っていてくれたとはな」
フェルナン陛下の甘い眼差しが、私の全身に熱を巡らせる。自分と彼が十年前から両想いだったことが信じられず、うまく言葉が出て来ない。
「うぅ……。私、何がなんだか……」
フェルナン陛下と見つめ合うことが恥ずかしくなった私が、おろおろと目を泳がせていると。
「迷ったら俺の命令を聞いたらいい。お前は俺のものなのだから」
ふわりとフェルナン陛下の逞しい体が私に覆い被さり、大好きな大きな手が私の頭を優しく撫でる。温かくて気持ちいい。従者と主君の関係では有り得なかったぬくもりが、私に惜しげも無く注がれるのが嬉しくてたまらない。
「お前の再就職先は俺の妃だ」
「え……っ」
「教えてくれ。愛しい人の本当の名を」
フェルナン陛下の低くよく響く声が耳元で囁かれ、私は身悶えしながら口を開く。
「アルヴァローズ……です……」
「アルヴァローズ。いい名だ」
「女っぽくて恥ずかしいので、呼ばないで――」
「断る。愛しのアルヴァローズ」
もう我慢ならないと言わんばかりに、フェルナン陛下は私の唇を自身の唇で塞いでしまった。
十年間思い続けた相手との始めての口付けは、甘く力強く、そしてとろけるようだった……が。
「ふぎゃっ!」
私は人生初の大人キッスに目を剥いた。
驚いた私は思わず彼を突き飛ばし、彼は「どぅはっ!」という呻き声をあげて茂みの中を転がっていき、しばらくして地面に伏した。
(やってしまったーー!)
「陛下ぁぁっ! 申し訳ありません! でもいきなりベロチューするから! こんな公園の茂みで一国の王がヒートアップしちゃダメですから!」
私が大慌でフェルナン陛下を助け起こすと、彼は怒り一つ見せず、「すまん。つい」と小さく頭を下げた。
「お前が【女体化の呪い】を受けたと思ってから、ずっと我慢していたんだ。俺には心に決めた人がいるのに、どうにもこうにもお前が魅力的だから……」
「へ?!」
「お前とあの子が同一人物と分かった今、もう何も我慢する必要はないと思うと……、歯止めが……」
決まりが悪そうに話すフェルナン陛下が可愛くて、私だってつらい。
「十年分――。私、これからは妻としてあなたを守って、愛していきますから。お城では我慢はしませんよ?」
がばっとフェルナン陛下に抱き着くと、勢い余って私たちは地面に倒れ込んでしまった。
まさか【女体化の呪い】が、こんな結果《ハッピーエンド》を生むなんて。
私は「じゃあ、城ではミニスカとニーハイブーツのレパートリーを増やそう!」と意気込むフェルナン陛下にやれやれと笑いかけながら、返事がわりに熱い口付けを差し上げたのだった。
【オシマイ】
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