15 / 18
第3章 第3章:呪われ(てない)男装騎士は拳で運命を切り拓く
第15話 惚れてまうやろ!
しおりを挟む
「ふんんんんんッ‼」
俺、フェルナン・フォン・イフリートは、森林公園のど真ん中で気合の雄叫びと共に握り締めた拳を強く胸に打ち付けた。
周囲の目? そんなものは気にしている場合ではない。
(危なかった。正気を取り戻せたぞ)
胸の痛みで頭が冷静になり、俺はほっと息を吐き出す。
その理由は、うっかり従者に惚れてしまうところだったからだ。
(デートが楽しくて我を忘れてしまいかけた。アルヴァロは、どこかあの子に似ていて困る……)
公園に来ている民たちが遠巻きにこちらを見つめる中、俺はレモネードを二つ購入し、いそいそと従者アルヴァロのもとを目指す。そのアルヴァロが問題だった。
金色の柔らかそうな髪に宝石のような翠眼を持つその従者は、あどけない少年のような顔をしている癖に、体の主張はえらく激しい。
そんなアンバランスさは【女体化の呪い】によるためだろうが、むしろそこがイイと思ってしまうなんて、俺はなんて酷い主なんだろう。まるで変態じゃないか。
一刻も早く呪いを解いてやらなければならない。
いつも傍で支えてくれて、時に従者として、時に友人のように接してくれるアルヴァロ――想い人がいるという彼のために。
(アルヴァロ。お前もきっと仲良くなれると思うんだ。あの子――十年前修道院で出会ったあの少女は、お前に似て強くてかっこいいから……)
そんなことを考えながら、俺はアルヴァロの待っている池のほとりに戻って来た。
しかし、そこにアルヴァロの姿はなく、残されていたのはへし折られた婦人物の日傘だけ。
それは、女性の装いをしてくれたアルヴァロが差していたはずの日傘だった。
「アルヴァロ! どこだ、アルヴァロ!」
血の気が引き、嫌な汗が流れる。
(俺はなんて馬鹿なことを……!)
男の聖騎士アルヴァロならば、単独行動だって隠密行動だって任せられる。
だが、今彼は女体化しているし、貴族令嬢の装いをしている。その上剣も持たず丸腰だ。
美しく可憐で、一人で留守番中のアルヴァロを皆が優しく見守ってくれるような世の中であれば、警官はいらないのだ。
何者かに連れさらわれたであろうアルヴァロを探すため、俺はレモネードを放り出して走り出す。
まだそう遠くには行っていないはずと願いながら、100m走2秒の足で必死に森林公園を駆け回り――。
「……いやぁぁぁッ!」
(この声は!)
聞き覚えのある声がした方へと走ると、暗く人気のない茂みから何かが飛んできた。
「ぐえっ!」
何か――素行の悪そうなチンピラ男が、潰れた蛙のように地面に叩きつけられた瞬間だった。
「せいやぁぁぁッ!」
気合の怒号と共に、さらに「ぐえっ!」、「ぐえっ!」と2名様が追加される。
俺は目を丸くしながら、チンピラ男たちをぶっ飛ばした声の主を見つめた。
「はーっ! 胸、ジャマ!」
そう言いながら指をバキバキ鳴らしていたのは、アルヴァロだった。
美しいご令嬢でもなく、優秀な聖騎士でもなく、荒々しい強さと気高さを隠さないその姿はまるで――。
俺、フェルナン・フォン・イフリートは、森林公園のど真ん中で気合の雄叫びと共に握り締めた拳を強く胸に打ち付けた。
周囲の目? そんなものは気にしている場合ではない。
(危なかった。正気を取り戻せたぞ)
胸の痛みで頭が冷静になり、俺はほっと息を吐き出す。
その理由は、うっかり従者に惚れてしまうところだったからだ。
(デートが楽しくて我を忘れてしまいかけた。アルヴァロは、どこかあの子に似ていて困る……)
公園に来ている民たちが遠巻きにこちらを見つめる中、俺はレモネードを二つ購入し、いそいそと従者アルヴァロのもとを目指す。そのアルヴァロが問題だった。
金色の柔らかそうな髪に宝石のような翠眼を持つその従者は、あどけない少年のような顔をしている癖に、体の主張はえらく激しい。
そんなアンバランスさは【女体化の呪い】によるためだろうが、むしろそこがイイと思ってしまうなんて、俺はなんて酷い主なんだろう。まるで変態じゃないか。
一刻も早く呪いを解いてやらなければならない。
いつも傍で支えてくれて、時に従者として、時に友人のように接してくれるアルヴァロ――想い人がいるという彼のために。
(アルヴァロ。お前もきっと仲良くなれると思うんだ。あの子――十年前修道院で出会ったあの少女は、お前に似て強くてかっこいいから……)
そんなことを考えながら、俺はアルヴァロの待っている池のほとりに戻って来た。
しかし、そこにアルヴァロの姿はなく、残されていたのはへし折られた婦人物の日傘だけ。
それは、女性の装いをしてくれたアルヴァロが差していたはずの日傘だった。
「アルヴァロ! どこだ、アルヴァロ!」
血の気が引き、嫌な汗が流れる。
(俺はなんて馬鹿なことを……!)
男の聖騎士アルヴァロならば、単独行動だって隠密行動だって任せられる。
だが、今彼は女体化しているし、貴族令嬢の装いをしている。その上剣も持たず丸腰だ。
美しく可憐で、一人で留守番中のアルヴァロを皆が優しく見守ってくれるような世の中であれば、警官はいらないのだ。
何者かに連れさらわれたであろうアルヴァロを探すため、俺はレモネードを放り出して走り出す。
まだそう遠くには行っていないはずと願いながら、100m走2秒の足で必死に森林公園を駆け回り――。
「……いやぁぁぁッ!」
(この声は!)
聞き覚えのある声がした方へと走ると、暗く人気のない茂みから何かが飛んできた。
「ぐえっ!」
何か――素行の悪そうなチンピラ男が、潰れた蛙のように地面に叩きつけられた瞬間だった。
「せいやぁぁぁッ!」
気合の怒号と共に、さらに「ぐえっ!」、「ぐえっ!」と2名様が追加される。
俺は目を丸くしながら、チンピラ男たちをぶっ飛ばした声の主を見つめた。
「はーっ! 胸、ジャマ!」
そう言いながら指をバキバキ鳴らしていたのは、アルヴァロだった。
美しいご令嬢でもなく、優秀な聖騎士でもなく、荒々しい強さと気高さを隠さないその姿はまるで――。
66
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
みんなが嫌がる公爵と婚約させられましたが、結果イケメンに溺愛されています
中津田あこら
恋愛
家族にいじめられているサリーンは、勝手に婚約者を決められる。相手は動物実験をおこなっているだとか、冷徹で殺されそうになった人もいるとウワサのファウスト公爵だった。しかしファウストは人間よりも動物が好きな人で、同じく動物好きのサリーンを慕うようになる。動物から好かれるサリーンはファウスト公爵から信用も得て溺愛されるようになるのだった。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
婚約破棄された悪役令嬢は男装騎士になって推しを護ります!―女嫌いの王太子が溺愛してくるのは気のせいでしょうか―
イトカワジンカイ
恋愛
「私が王都までお守りいたします!殿下は私を男だと思ってますからバレなきゃ大丈夫ですよ」
スカーレットは唖然とする父と義弟にそう言い放った。
事の経緯としては、先日婚約者デニスに婚約破棄された際にテンプレながら乙女ゲー「マジらぶプリンセス」の悪役令嬢に転生したことをスカーレットは思い出す。
騎士の家系に生まれたスカーレットは並みの騎士よりも強いため
「もうお嫁に行けないし、こうなったら騎士にでもなろうかしらハハハハハ…」
と思いながら、実家の屋敷で過ごしていた。
そんなある日、偶然賊に襲われていた前世の推しキャラである王太子レインフォードを助ける。
ゲーム内でレインフォードの死亡イベントを知っているスカーレットは、それを回避するため護衛を引き受けようとするのだが、
レインフォードはゲームの設定とは違い大の女嫌いになっていた。
推しを守りたい。だが女であることがバレたら嫌われてしまう。
そこでスカーレットは女であることを隠し、男装して護衛をすることに…。
スカーレットは女であることを隠し、レインフォードの死亡イベントを回避することができるのか!?
※世界観はゆるゆる設定ですのでご了承ください
※たぶん不定期更新です
※小説家になろうでも掲載
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
波間柏
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる