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第12話 異世界面接官のリスタート

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『誰だ⁈ 誰が仕組んだんだ⁈ 言え! 言えよっ!』

 耳元で、誰かが死に物狂いで叫んでいる。ジャラジャラと重たげな鉄の鎖の音が煩く、耳障りで仕方がない。

 わたしの視界に多数の人間の姿が映る。ある者はざまぁみろと笑い、ある者は泣きながら首を振り、またある者は黙って俯いている。

『わたしを裏切ったのは誰だ⁈ ……許さない! 絶対に暴いてやる! ──いや。自ら罪をさせてやる! 待っていろ、必ずだ!』

 グイと背後から強引に引っ張られ、息苦しくなると同時に、鎖の軋む音が聞こえた。


 そこで、わたしはハッとした。
 これは、わたしの記憶──走馬灯ではないかと。

 走馬灯の中のわたし──生まれた世界で命を落とす間際のわたしは、かつて仲間と呼んでいた者たちに向かって獣のように吠え、噛みつく勢いで手を伸ばす。だが、彼らには何も届かない。

 今なら分かる。あの中の「誰かが」ではなく、あそこにいた「全員」がわたしを裏切っていたことくらい。

 でも、もう、それはいいんだ。裏切りを許すとか、そういう話じゃなくて……。

 わたしは、目を閉じたまま力を抜く。

 生まれた世界での憎悪に満ちた最期の回想なんて、一瞬のことだった。
 初めて見た日本の青空、感動したテレビゲーム、緊張しながら腕を通したリクルートスーツ、社長との出会い、張り詰めた面接室の匂い、古川と行った居酒屋、灰原や白峰、部下たちとのなんてことない会話……。

「第二の人生は、得難いものだった」

 気がつくと、声が出ていた。どうやら走馬灯が終わったらしく、ぼんやりと夜空のように果てしなく広がる濃紺の世界に、わたしは包まれていた。

 わたしがここに来るのは、二度目だった。ここは、転生の間だ。

「わたし、古川を庇って死んでしまったみたいですね。まさか、自分がトラックに轢かれるなんて思っていなかったですよ」

「そうね。安村さんもびっくりするわよ」

 わたしの言葉に応えたのは、グレーのパンツスーツに高いハイヒールを履いた若い女性──女神サヴリナだった。
 彼女とは、昔通勤バスで出会って以来。わたしも、まさか彼女と再会することになるとは思っていなかったため、思わず場違いな笑みを浮かべてしまった。

「前に死んだ時は、サヴリナさんじゃない女神様だったのに。またお会いできて嬉しいですよ。ブラック企業は退社されて、女神業に戻られたんですか?」

「転生の女神って、当番制なのよ。秘密の副業」

 なるほど、女神様も大変らしい。

 そして再会の余韻に浸る間も無く、女神サヴリナは淡々とわたしに手続き説明をし始める。

「第二の人生、お疲れ様。もう間も無く、あなたの日本ライフは幕を閉じるわ。でも、落ち込まないで。ハズレスキルである【暴露】を上手く使いこなしていたボーナスで、次の生ではアタリスキルを授けてあげるから。何か、希望はあるかしら?」

【暴露】は、わたしの死ぬ間際に抱いた強い願望を具現化したスキルだった。
 わたしは、人間の本性を暴きたかった。心根を吐露させたかった。何もかもを疑い、恨んでいたから。

「新しいスキルは要りません」

 わたしは、青い闇に消えてしまわないように、はっきりとした口調で言い放った。
 だが、サヴリナにとっては予想外の回答だったようで、彼女は聞こえているはずなのに「今なんて?」と聞き返してきた。

「うそでしょ? 継続希望? そんなに【暴露】が気に入ってたの? まぁ、便利といえば便利かしらね」

「いえ。【暴露】は、もう使えなくなったので、継続申請もしません」

「えっ、なんで⁈ スキルが消滅するとか有り得ないわよ!」

 サヴリナは、マニュアル通りにいかないわたしという存在に戸惑っていた。臨機応変さがまだまだ足りない女神様だが、仕方がない。時には答えを教えてあげるのも、年長者の務めだろう。

 わたしは、すでに理解していた。

「きっと、【暴露】のスキルが必要なくなったから、消えて無くなったんです。全てを疑い、暴こうとしていたわたしは、もういませんから」

 わたしは、スタートイというゲーム会社が好きだ。わたし自身は、直接的にゲーム開発に関わることはないのだが、新しい社員を迎え入れ、育てることで、めぐりめぐって会社が発展していく様を見守ることが、何よりの喜びだった。

 楽しかった。スタートイのみんなとする仕事は、わたしの生きがいだった。

 上司に同僚、部下──、信じることができる仲間を得たわたしの心には、チートスキルも無双展開もいらない。積み重ね築いてきた信頼や自信があれば、それでいい。

 わたしは、そのことをこの日本という名の異世界で学んできたんだ。

「サヴリナさん。新しいスキルに充てるはずだったボーナスというやつを別のモノに変換していただくことは可能ですか?」

「なぁに? 赤ん坊まで若返る? それとも最強装備? あ、まさかこのサヴリナ様とか言わないでよね! そんな、どこかの素晴らしい世界の真似したらダメよ!」

「いえ、わたしが欲しいモノは──」

 わたしは、怪訝そうに綺麗な眉を歪めるサヴリナに笑いかけた。
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