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「気持ちよかったぞ、アウリス。体調のほうはどうじゃ?」

アウリスの背を優しく撫でながら、最後の仕事を終えたセリシティアンは労わるように問う。

好きな女を抱くという幸せに浸っていたアウリスは、唐突に現実に引き戻された。
これで彼女との仲は終わりなのか――

離れたくないとばかりにアウリスはセリシティアンを抱く腕に力を籠める。

「ぐっ……苦しいではないか。それだけ元気なら問題なさそうじゃの」

ふふふと笑いながらセリシティアンは髪を乱すようにアウリスの頭を撫でた。

「セリ、これで最後なんて嫌だ……」

「困った子じゃのう。これはあくまでも治療だと何度も申したであろう。もうそなたにかけられた呪は消えた故、今頃術者に還ってるじゃろうな」

そうだ、これから血なまぐさい粛清がはじまるのかもしれない。
でも、そんなことはどうだっていい。誰が自分を害そうとしたかなど興味もない。
欲しいなら王太子の座だってくれてやる。

だから――

「決めたよセリ」

「ん? 何をじゃ?」

「どんな形であれ、あなたを手に入れる」

「またそのようなことを……駄々っ子の様じゃのう」

「ああ、良い子で生きてきた僕の最初で最後の我儘だ」

アウリスは身を起こすと、セリシティアンの瞳を真っ直ぐに覗き込んだ。

「嫌なら、全力で避けて」

止める間もなく、アウリスはセリシティアンに口付けた。はじめは啄むように、徐々に角度を変えて深く貪るように。
咄嗟の事に驚きつつも、セリシティアンは拒まなかった。

長く生きながらも、セリシティアンは男女の色恋に疎い。
仕事が仕事なだけに、かもしれないけれど、異性に惹かれる感情が良く分からなかった。

どんな患者であっても心を尽くして癒すので、これまでだって求愛を受けることは沢山あった。でもそれは一時の錯覚と心得ていたし、流されることはなかった。体を触れさせたことだってない。

では、何故流されたのだ?

少なくとも心を動かされたから身体を許した。ダメだと拒んだ口付けまで許してしまった。
何故? どうして?
人生初めての口付けを受けながら、セリシティアンの頭はこれまでにない速度で空回っていた。

分からない。
難しいことは分からないけれど、アウリスはとんでもなく可愛い。それは間違いない。
まあいいかと開き直って、セリシティアンはアウリスの口付けに応えた。応えているうちに夢中になって、いつの間にか治療ではない、今度は完全なる性交まで致してしまった。

アウリスの真っ直ぐな情熱に流されたのか、はたまた自身の中に芽生えた何某かの情故なのか、弟子曰くクソ鈍感なセリシティアンにはこの時良く分からなかった。
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