恋愛捕食者

瀬文奥六

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第2部

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「晴海、今日のテストどうだった?」
 学校からの帰り道、駅への坂道を下りながら隣を歩く富田千佳が訊いてきた。
「まあまあかな。千佳は?」
「私はあんまり自信ないかな」
 首をかしげながら千佳が答える。そんなことを言ってはいるがきっと私より点数はいいだろう。私は小学校から千佳と一緒だが、一度も勉強で勝てたことはない。私も勉強は苦手なほうではないが、彼女はそれ以上だった。
「やっと今日でテストも終わったし、これからは遊び放題だね」
 千佳は満面の笑みで嬉しそうに言う。
 千佳はぽっちゃりした体形に黒縁の眼鏡をかけている。正直容姿では千佳より勝っている自信はあった。もし千佳が私よりかわいく、私よりスタイルがよかったらこれほどまでに仲良くなっていなかっただろう。千佳は勉強が私よりできる分、見た目は私のほうがいい。天が人に二物を与えず、ちょうどよく分配してくれたおかげで私と千佳は親友になれたのだ。その部分において神様に感謝している。勉強が得意な千佳と、容姿がきれいな私。いいコンビだと思った。
「でも遊ぶって言っても部活もあるし、出かけるとかはあまりできないかもよ」
「二人でたくさん絵を描けばいいじゃない」
「それはいつもやってるでしょ」
 私と千佳は美術部に所属している。二人とも絵を描くのが好きで小学生の時からよく絵を描いていた。
「もっとこう、リア充みたいな遊びがしたいな。彼氏とかと一緒にさ」
「彼氏かあ……」
 千佳は真っ青に晴れた空を見上げながら、まだ見ぬ彼氏に思いを馳せているように見えた。
「でも晴海と違って、私は彼氏なんかできないよ」
 少ししょんぼりしたように千佳が言った。
「そんなことないと思うよ」
「お世辞はいいって」
 千佳は自虐気味に言ったがあながちお世辞でもなかった。そう言おうとすると千佳は話題を変えた。
「彼氏といえば、佐々木君とはどうなの? 最近一緒にいないみたいだけど」
 千佳が先週別れた元カレの話題を出してきた。そういえば言ってなかった。
「もう別れちゃった」
「そう……」
 千佳は気まずそうに黙ってしまった。
「亮君とはあんまり合わなかったな。彼、自分勝手っていうか子供っぽいっていうか、とにかく性格がね……」
「美男美女カップルだったけどね」
 千佳の言う通り亮君は顔はかっこよかった。学年でも一二を争うくらいモテていた。そんな彼から、二年の一学期が始まってすぐに告白されたときは舞い上がってしまった。私は自分の容姿に自信はあったが恋愛経験はゼロだった。高校に入ったら彼氏とかできるかなと思っていたがそんなことはなく、彼氏持ちの子をうらやましく思っていた。そんなときにイケメンで人気者の亮君と付き合えたのだ。私は有頂天になった。でも性格が合わなかった。付き合ってすぐに家に呼ばれキスをされそうになったし、自分の気に食わないことはすぐに否定し、価値観を押し付けてきた。結局二か月ちょっとで私のほうから別れを申し出た。あこがれていた恋愛とは意外にあっけないなと思った。
「やっぱ男は性格が大事ってことよ」
 私はそう言ってこの話を終わりにした。

 駅のホームで電車を待っていると後ろから肩をたたかれた。驚いて振り向くと、さっきまで噂をしていた佐々木亮だった。
「よう、晴海」
 軽々しく喋ってくる。
「なに?」
「いや……」
 隣にいる千佳を気にしている様子だったが、私のほうに向き直った。
「俺とやり直せない? 俺反省したからさ。やっぱり俺には晴海が必要なんだ」
 彼は私の目を見て言った。彼は真剣なようだ。
 私はどうしようかと迷った。彼が性格を直してくれるなら見た目は申し分ない。でも性格なんてすぐに変えられるものでもない。彼への熱も正直冷めてしまっていた。彼氏は欲しいけど、これから亮君のことを本気で愛せる自信はなかった。
 隣にいる千佳が気まずそうに下を向いた、
 私はしばらく考えたが、自分の気持ちを正直に言うことにした。
「ごめん」
「そうか、わかった……」
 亮君は何回も自分に言い聞かせるようにうなずき、「悪かった」と謝って去っていった。
 前までの亮君だったらもっとしつこく復縁を迫ってきただろう。本当に改心したのか、それとも千佳に聞かれていたからなのかはわからないが、素直に帰ってくれたのは好感が持てた。
「本当にいいの?」
 千佳が訊いてきた。
 私はなんだか吹っ切れた感じがした。胸につかえていた何かがスッとなくなるような感覚だった。
「うん」
 私はそれだけ言うと、千佳に笑顔を向けた。

 電車の中は涼しかった。もうすでに真夏のような感覚だった。テスト終わりで昼過ぎだったので余計に暑さを感じていた。いつもより早い時間の電車なので、N高校の生徒以外は見知った顔はなかった。
 窓の外を見ながら電車に揺られていると、ゆっくりと停車し次の駅に着いた。ここはたしかT大学がある駅だ。私も再来年は大学生なので、自宅から通えるT大学も候補の一つだった。
 Tシャツを着たラフな格好の大学生が数人乗り込んできた。大学生になるとこんな昼間から自由に出歩けるのかとうらやましく思った。私も早く大学生になりたかった。
 そんなことを考えながら大学生の集団を見ていると、その中の一人に目がいった。スマートな体系に優しそうな顔、そして高校生とは違う大人のオーラがあった。顔は特別イケメンではないが、その独特な雰囲気がなぜか印象に残った。
「どうしたの?」
 私が大学生のほうを見つめていたのが気になったのか、隣に座っていた千佳が不思議そうな顔で尋ねた。
「何でもない」
 私はそう言って誤魔化した。
 その後千佳となんでもない話をしていると、どこかから視線を感じたような気がした。私は直感的に彼だと思った。彼がもし私に視線を送っていたのなら私に気があるのだろうかと思い、目が合うといいなと彼のほうを振り返ったが別にそんなことはなく残念に思った。でもどうして自分が残念に思ったのかはわからなかった。
 結局私と千佳の家があるS駅に着くまで彼と視線が合うことはなかった。
 私は電車を降り千佳と一緒に帰っていたが、その途中彼のことが頭から離れなかった。どうしてこんなに一度見ただけの彼のことが気になるのかは私自身もよくわからなかった。
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