Rasanz‼︎ーラザンツー

池代智美

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町のお医者さん side

町のお医者さん side:大福

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 朝寝坊をした。
 よもぎに起こされて、いつもより遅い時間にリビングに行くと、シェルアさんとサンくんが朝食を食べている所だった。
 起こしてくれてもいいのにと言いたくなったけど、それよりも先にご飯を食べたくて飛び付いた。
 食べている途中でサンくんと目が合って、僕は食べるスピードを速める。
 いくら友達でも自分のご飯をあげるのは無理だ。
 僕は夢中になってドッグフードを食べ進めた。
 シェルアさんとサンくんは人間同士で会話を続けている。
 散歩についての話をしていたけど、サンくんは僕達が単独行動するのを何故か不安がっていた。
 
 ご飯を食べ終わると、僕は真っ先にサンくんの所に行って挨拶をした。
 サンくんはもうちょっとで食べ終わるらしい。 
 待っててと言われると僕はすぐにうんと頷いた。
 よもぎはシェルアさんの散歩に一緒に行ってもいいかという問いに、しばらく考え込んで返事を渋っていたけど、シェルアさんの眼差しに負けたみたいだった。
 サンくんはよもぎにありがとうと言っている。でもよもぎは無視して水を飲んでいた。
 僕はサンくんを励まそうと前足を動かしたけど、シェルアさんには僕が邪魔しているように見えたのか注意されてしまった。
 サンくんも困ってないと言って僕の無実を訴える。
それでもシェルアさんは僕がサンくんにまだご飯を貰おうとしていると思っているのか、駄目な時は駄目と言うんだよと言った。

…….そんなに食いしん坊だと思われていたなんてショックだ。

 確かに僕は食べる事が大好きだけど、人のご飯に手を出すほど意地汚くはない。
それに今は不本意ながらダイエット中である。
 シェルアさんがご飯を食べ終わったから抗議しに行くと、シェルアさんは何故か自分が怒ってない事を話した。
 そんな事知ってるよと言い返すと、ごめんと謝られて僕は複雑な気持ちになった。
 謝ってほしかったけど、そっちじゃないのだ。
 違う言語はこれだから難しい。でも撫でる手は優しくて僕はおかわりを所望した。
 シェルアさんとサンくんは片付けを始めて暇になった。
 僕はお水を飲みに行くと、よもぎに呆れた目を向けられた。

『どうしたの?』
『……別に。あんたは能天気でいいわね』

 どうもよもぎは僕達の散歩にサンくんがついてくるのが嫌らしい。
 二階を上がるサンくんの背中を見送ると、シェルアさんは僕達の食器を片付けに行った。
 僕は久しぶりにレネーさんに会えるのにワクワクしていた。

 
 外に出ると快晴で、足取りがどんどん軽くなった。
 レネーさんの診療所に向かうと薬品の色んな匂いがして、よもぎは顔を顰めていた。
 裏口から入って二階に上がると、レネーさんはまったりコーヒーを飲んでいる所だった。
 前と違う匂いが混ざっているのはコーヒーの種類を変えたせいだろうか。
 ネーさんはシェルアさんを見ると、シェルアさんの顔をガッと掴んで怒っていた。
 僕はちょっぴり怖かったけど、レネーさんがああして怒るのはシェルアさんを心配しているからだと知っている。
だから僕達は何もせずに二人を見守る事に徹した。
 レネーさんはサンくんがいるのに気付くと、我に返ってシェルアさんを掴んでいた手を離した。
 シェルアさんは痛そうに頬を擦っている。
そうしてレネーさんとサンくんは自己紹介をして二、三話をすると、二人とも部屋を出ていってしまった。

『えー。みんなで遊びたかったのに』
『此処で暴れたらあの人怒るでしょ。それに今日はあの人間の診察に来たんだから遊ぶ暇なんてないわよ』

 よもぎの言っている事はわかるけど、それでも僕は人間の検査は時間がかかりすぎだと思った。だって僕達の倍の時間がかかっているのだ。
 暇だとシェルアさんに訴えると、やわやわとマッサージされた。

『あ~幸せだ~』
『ちょっとあっちズレてよ』
『はーい』

 横にズレるとよもぎが間に入ってきた。
 シェルアさんは僕もよもぎもまとめて撫でている。
 撫でる手の心地良さは変わらなかった。

『人間の診察が長いのって面積の問題なのかな? 僕達は早く終わるのに』
『知らないわよそんなの』
『ええー』

 残念そうに言うとよもぎに小さく睨まれてしまった。悲しい。
 シェルアさんの手が疲れた頃に移動して、部屋の隅で丸くなっていると、サンくんの診察が終わって二人が戻ってきた。
そしたらすぐにレネーさんはシェルアさんを連れて行ってしまった。

——お医者さんは大変だ。

 僕は今度はよもぎとサンくんと一緒に、二人が戻ってくるのを待った。
 待ってる間サンくんに構って貰おうかなとちょっと考えたけど、よもぎが拗ねちゃいそうだからあんまり動かない事にした。僕は気遣いの出来るオトナなのだ。
 テーブルの下で伏せているよもぎに寄り添うと、体温が伝わってきてポカポカした。

 テーブルの下で夢うつつになっていると、ようやくシェルアさんとレネーさんが戻ってきた。
 僕はレネーさんに駆け寄ると、久しぶりとレネーさんの膝目掛けて飛び跳ねた。
するとレネーさんは大きな手で僕の頭をわしわしと撫でてくれた。
 よもぎは羨ましそうに僕を見ている。
僕が目配せすると、よもぎはこっちに近付いてきた。
 レネーさんは僕達に大きくなったかと聞いてきた。
 よもぎは変わらないと答えたけど、僕は心の成長は続いているよと答えた。
でもシェルアさんは僕が太り気味でダイエットしていると余計な情報を与えていた。
 レネーさんが僕を持ち上げてまじまじとお腹を見つめる。
 丸くなったと言われて僕は思わず目を覆った。
 犬の僕にだって羞恥心はある。
そりゃドーベルマンみたいにシュッとした体型に憧れる事はあったけど、僕はこのもふもふさと丸さがいいと言われたのだ。
 僕は床に下ろされると、サンくんに僕は可愛いよねと聞きにいった。
 サンくんは僕の顎下を撫でて僕を可愛がってくれた。
 よもぎに報告しに行くと、そっぽを向いていたからグイグイいったら太っちょとシンプルな悪口を言われた。ぽっちゃりだもん。

『太っても痩せても健康に害があるんだからちゃんとダイエットしなさいよ』
『……』

 正論すぎて僕は何も言えなかった。
 ちょっと落ち込んだのは秘密である。
 レネーさんはシェルアさんに薬を渡すと、飲み忘れないように何度も念を押していた。

 僕は人間同士の話が終わると、次は散歩の時間だからドアの方へと走った。
 早く行こうと急かすと、レネーさんが気を付けて行けよと僕達を見送る。
 またねの挨拶をレネーさんにして、シェルアさんの後ろをついて歩いたけど、サンくんが後ろにいなかった。
どうもこの短い距離で迷子になったようで、僕はシェルアさんにサンくんを迎えに行く事を伝えると、すぐに走って飛んでいった。
 サンくんはレネーさんと何か話していたらしい。
 こっちだと膝の裏を頭で押して裏口への道を教えると、サンくんは謝ってきた。
 僕が先頭を歩いて、サンくんを案内する。
 時々後ろを振り向いてついて来ているか確認すると、今度はちゃんとついて来ていてホッとした。
 ずんずん歩いて裏口を目指すと、よもぎとシェルアさんが僕達を待っていた。
 シェルアさんはサンくんがレネーさんに何を言われたか気にしているみたいだったけど、励まされたと聞いて安心していた。
 ちょっと嬉しそうな顔をするサンくんを見て、僕もちょっと嬉しくなった。
 
 外に出ると僕は最後尾を歩いた。サンくんを迷子にさせないためである。
 大通りを歩いていつもの公園に向かう。
 この公園は僕達のお気に入りの場所の内の一つだ。
 自然が多くて広いのと、たまにキッチンカーが停まっていて美味しそうな匂いがする所が僕は気に入っている。
 ひとまず一周しようと、僕はよもぎと駆け出した。
 公園内には家族で来ている人や僕達のように散歩で来ている犬達がいた。
 一応挨拶だけしてよもぎと気持ち良く走っていたら、よもぎがふと足を止めた。
 よもぎの視線の先にはシロツメクサがあった。
 僕達と一緒で“幸せ”の意味を持つものだ。
 僕は前にシェルアさんに四つ葉のクローバーをあげた時、すごく喜んでいた事を思い出した。

『ねえよもぎ! 四つ葉のクローバーあげたらサンくん喜んでくれるかな? どう思う?』
『そんなの知らないわよ。私、あの人間の好きな物知らないし』

 よもぎはぶつくさ言いながらも四つ葉のクローバーを探すのを手伝ってくれた。
 いっぱいある中から二つでも三つでもない四つの葉を探すのは大変だ。
 ぐるぐる回っているとよもぎが体当たりしてきた。

『ちょっと! そこにあるんだから踏まないで!』
『え!? あったの!? ありがとう!!」

 よもぎに擦り寄って全身でありがとうを伝えると、見つけたのは偶然だと難しい顔をしていた。
でも僕は偶然でも必然でも嬉しかったから、もう一度よもぎにありがとうを伝えた。

 僕達は二人の所に戻ると、こっちに来てと四つ葉のクローバーがある場所に案内した。
 此処だよと教えるために多めに回ると、サンくんは四つ葉のクローバーを見つけてくれた。
 僕はよもぎが見つけたんだよと言ったけど、よもぎはあんまり触れてほしくないみたいだった。
 サンくんは僕を撫でると足元の四つ葉のクローバーを摘んで、僕に差し出した。
 訳がわからなくてなんでと首を傾げる。
 よもぎはシェルアさんに撫でられて嬉しそうにしていたけど、サンくんに四つ葉のクローバーを差し出されると渋い顔をしていた。
 サンくんは困った顔をして、シェルアさんに四つ葉のクローバーを差し出した。自分にくれた物とは思わなかったらしい。
 シェルアさんに言われて、サンくんはやっと自分にくれた物だとわかったようだ。
 サンくんの手に鼻を突っ込んでサンくんのために見つけたんだからねと言うと、僕は頭を撫でられた。
 御礼を言うサンくんにどういたしましてと返事をする。
 サンくんはいっぱい僕を撫でてくれた。
 僕は原っぱに転がると、優しい手に身を任せた。
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