狐火の市 ぼくとばぁちゃん編

はなまる

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其ノ五 狐火の市

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  狐火の市にはなぁ、太一。いろんな面を被っとるもんがおったで。

 猿や狸や、熊やニワトリ……。もちろん狐もや。誰も彼も動物の面を被っとって、顔の見えるもんなんか、一人もおらんかった。

 こう……赤や橙、桜色の提灯がようけ吊り下がっとってな、お祭りみたいやったんよ。

 もうばぁちゃん、ワクワクしてもうてなぁ。 あちこちの露店、端からぜぇーんぶ見て回ったんや。

 ばぁちゃんの母ちゃんに「お金は使えへん」て聞いとったからな。ばぁちゃん、宝物を背負いカゴに、箱ごと突っ込んで持って行ったんやで。
 ばぁちゃんの宝物のガラクタが、生まれて初めてえらい役に立ったわ!

 猿面の男の店は、なんや怪しい薬が並んどったなぁ。『耳隠薬』やら『声薬』やら『子供薬』やらお品書きがついとった。

 なんや『子供薬』って? 子供になれるんかいな?

 おもろそうやけど、元に戻れんでも困る思うてな。買うのは止めておいたわ。
 それにばぁちゃん薬はにがいから嫌いなんや。

『咳薬』もあったさかい、ばぁちゃんの母ちゃんが言うとった店かも知れん。

 種ばっかり売っとる鳥面の店は、説明書きがひとつものうて、なんの種かもわからへんかった。えらい不親切やねん。
 ああ、たぁ坊。狐火の市は、口をきいたらあかんのやで? それが作法や。

 えーっと、種屋の話やったかいな?

 ばぁちゃん、なんの種なんか気になってな。育て方かて聞かなあかんし、身振り手振りで聞いてみたんや。
 でも、さっぱり分からんかったわ。

 ほんでも試しに、二、三種類買うてみたんや。裏庭に植えたさかい、どないなもんが生えるか、楽しみにするとええ。

 鬼の面、被っとるヤツもいたな。
 なんやカラクリ人形っぽいもんが、ようさん並んどった。

 売っとるもんは、えらい面白そうやってんけど、ばぁちゃんちょい鬼の面が怖ぁてな。あんま近寄れんかったわ。

 普通のもん売っとる店も多かったで。
 猫面の店は酒や油を売っとったし、三好屋の団子や饅頭並べとる店もあった。

 古着屋や、古本屋、魚焼いとる屋台もあったな。

 太一の分の黒い狐面買うたのは、熊面の大男の店や。
 古道具屋で見つけた、どこのもんかもわからん鍵あったやろ? あれと交換してくれた。あの鍵、けっこう値打ちもんやったんかも知れんな!

 ばぁちゃんがなぁ、どないしても素通り出来ひんかったのは、いろんな色や大きさのガラス玉並べてる、天狗面の爺はんの店やった。

『物見ノ玉屋』いう看板出しとる店で、なんや、やる気のなさそな爺はんが、暇そうに座っとった。
 それぞれの玉に『空』『星』『中身』『天気』『邪』『弱い』なんていう、下手っくそな字の張り紙がくっ付いとって、えらい怪しかったで!

 せやけど、おもろいやろ? しかも、ごっつうきれいやった。
 ロウソクの灯りで見るたんび、違う色に見えるんや。ばぁちゃん見惚れてもうたで。

 そん中でな、大きい玉が二つあったんや。貼り紙は『来ル日』と『去リシ日』。未来と過去の事やで? ほんまかいな!

『未来』は真っ白うて真珠みたい。『過去』は濃い紫色で、星のあらへん夜みたいな色や。

 ばぁちゃん二つとも欲しゅうてな。
 未来も過去も見えんでも、ええと思うくらいきれいやった。
 そやさかい、二つの玉、指差してな! 宝物全部出して交渉したんや。

 しゃべれんさかい、こう、身振り手振りやで。
 天狗の爺いの業突ごうつくばりやった事!
 ばぁちゃんが七十年もかけて集めた大切なガラクタ、ごっそり指差しおった。

 ほんでも、たぁ坊の欲しがってたもんは、ちゃんと除けといて交渉まとめたんや。あの取り引きは、ばぁちゃんの勝ちやったで!

 まあ、そないな訳で、今ばぁちゃんの手の中には、二つの玉があるんや。


 なぁ、たぁ坊。ばぁちゃんの話、信じるか?

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