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第四章 砂漠の旅とパラシュ
第十二話 砂嵐
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「おとーさん、あれ何?」
サボテンの細いトゲを指に刺したハルに、ヨモギを揉んで擦り付けている時、ふと顔を上げたハルが、俺の背中越しの空間を見つめて言った。
ハルくん、そのリアクション、マジヤメテ。
ホラーにしろ、バトルものにしろ、碌でもない展開しか思い浮かばない。
血だらけの女に後ろから抱きつかれるとか、背中を袈裟斬りにされるとか。
いま、鍋の蓋も破魔の護符も持ってないから!
あー、振り向くの嫌だと思いつつ、視線を後ろに向ける。
砂丘の遥か向こうに、壁のようなものが立ち上がっていた。
雲よりも赤茶色で、霧よりも質量があるそれは、地平線を覆い尽くし、ゆっくりと雪崩のようにこっちに流れて来ている。
うわー。やっぱり碌でもねぇよ。
「砂嵐だと思うぞ。急いで荷物まとめろ」
逃げる方向が見つけられない。砂嵐の進行方向に逃げても、逃げ切れる気がしない。左右は地平線を覆うほどの超範囲攻撃だ。
なんとか砂嵐に呑まれる前に野営場所まで戻らなければ。あの砂嵐の中がどうなっているのか、俺は知らない。
あたふたと荷物をまとめ、あくびの待つ砂丘目指して走る。
あくびは一番高い砂丘の上で首を持ち上げ、スンスンと鼻を動かしていた。そうして走ってくる俺とハルを見つけると、カッと音がしそうなほど目を見開き、全速力で走り寄ってきた。
あくびの全力疾走は初めて見た。いつもは曲げたままの膝をピンと伸ばし、前傾姿勢の倒れる勢いのまま、トトトトトトッ! と、ものすごい速さで脚を動かす。
あくびの面白生物っぷりが凄い。そして迫ってくる迫力も凄い。
一瞬、避ければ良いのか逃げれば良いのか迷っているうちに、あくびの喉がググッと膨らみ、クワッと開いた口から何かが発射された。
俺とハルはあくびの口から出た液体を、頭からビシャーっと浴びる羽目になった。
粘り気の強い粘液に、あっと言う間に動きを封じられた。辛うじてハルを抱き寄せ、荷物と一緒に抱える。
あ! ハル、口と鼻塞がってるじゃねぇか!やべぇ!
むーむー言って苦しんでるハルの口と鼻を、なんとか拭う。固まりかけたセメダインみたいだ。匂いもヒデェな。
あくびは身体を捻って、俺たちを背中にくっ付けると、更に上から粘液を吐きかけ、しっかりと固定する。そうしていつもの通り膝を曲げ、砂丘の縁をのんびりと歩き出した。
コレどこに向かってるんだろう。トカゲの谷とかだったらどうしよう。
そんな事を考えながら、なす術もなく運ばれていると、砂塵の吹き荒れる砂嵐にズゴゴゴゴーという轟音と共に呑み込まれる。
ビシッ、ビシビシッと、砂つぶてが肌を打つ。けっこう痛い。しかし思ったより普通の嵐だ。ラピュタの、龍の巣みたいの想像していた。
しかし、あくびに卵扱いされて運ばれている現状は、楽観視できない。卵が孵るくらいの間放置されたらシャレにならん。トカゲの谷に連れて行かれたら、生きて帰れる気がしない。
辛うじて自由になる左手で、あくびの背中を叩く。名前を呼ぶ。口笛を吹いてみる。
無駄にも思える足掻きを繰り返していると、風の音に紛れて、微かに鐘の音が聞こえてくる。
「ハザンの鐘の音?」
「たぶんな。助かったな」
「ぼくはあくび、連れて帰ってくれてるって思ってたよ」
ごめん、お父さん、トカゲの谷とか思ってた。
なんとか無事に戻って来た俺たちに、ハザンが呆れ顔で言った。
「おまえら、面白過ぎるだろ、その帰還方法。伝説レベルだぞ」
ルカランは物珍しそうに、固まったハルの頭を叩いているし、ロレンはまた腹押さえて震えている。アンガーはと言えば無表情なままで、
「絆……!」と言った。
それより早く掘り出して欲しい。
砂嵐は更に勢いを増し、三十センチ先も見えない有様だ。そしてそのまま一昼夜の間吹き荒れた。
サボテンの細いトゲを指に刺したハルに、ヨモギを揉んで擦り付けている時、ふと顔を上げたハルが、俺の背中越しの空間を見つめて言った。
ハルくん、そのリアクション、マジヤメテ。
ホラーにしろ、バトルものにしろ、碌でもない展開しか思い浮かばない。
血だらけの女に後ろから抱きつかれるとか、背中を袈裟斬りにされるとか。
いま、鍋の蓋も破魔の護符も持ってないから!
あー、振り向くの嫌だと思いつつ、視線を後ろに向ける。
砂丘の遥か向こうに、壁のようなものが立ち上がっていた。
雲よりも赤茶色で、霧よりも質量があるそれは、地平線を覆い尽くし、ゆっくりと雪崩のようにこっちに流れて来ている。
うわー。やっぱり碌でもねぇよ。
「砂嵐だと思うぞ。急いで荷物まとめろ」
逃げる方向が見つけられない。砂嵐の進行方向に逃げても、逃げ切れる気がしない。左右は地平線を覆うほどの超範囲攻撃だ。
なんとか砂嵐に呑まれる前に野営場所まで戻らなければ。あの砂嵐の中がどうなっているのか、俺は知らない。
あたふたと荷物をまとめ、あくびの待つ砂丘目指して走る。
あくびは一番高い砂丘の上で首を持ち上げ、スンスンと鼻を動かしていた。そうして走ってくる俺とハルを見つけると、カッと音がしそうなほど目を見開き、全速力で走り寄ってきた。
あくびの全力疾走は初めて見た。いつもは曲げたままの膝をピンと伸ばし、前傾姿勢の倒れる勢いのまま、トトトトトトッ! と、ものすごい速さで脚を動かす。
あくびの面白生物っぷりが凄い。そして迫ってくる迫力も凄い。
一瞬、避ければ良いのか逃げれば良いのか迷っているうちに、あくびの喉がググッと膨らみ、クワッと開いた口から何かが発射された。
俺とハルはあくびの口から出た液体を、頭からビシャーっと浴びる羽目になった。
粘り気の強い粘液に、あっと言う間に動きを封じられた。辛うじてハルを抱き寄せ、荷物と一緒に抱える。
あ! ハル、口と鼻塞がってるじゃねぇか!やべぇ!
むーむー言って苦しんでるハルの口と鼻を、なんとか拭う。固まりかけたセメダインみたいだ。匂いもヒデェな。
あくびは身体を捻って、俺たちを背中にくっ付けると、更に上から粘液を吐きかけ、しっかりと固定する。そうしていつもの通り膝を曲げ、砂丘の縁をのんびりと歩き出した。
コレどこに向かってるんだろう。トカゲの谷とかだったらどうしよう。
そんな事を考えながら、なす術もなく運ばれていると、砂塵の吹き荒れる砂嵐にズゴゴゴゴーという轟音と共に呑み込まれる。
ビシッ、ビシビシッと、砂つぶてが肌を打つ。けっこう痛い。しかし思ったより普通の嵐だ。ラピュタの、龍の巣みたいの想像していた。
しかし、あくびに卵扱いされて運ばれている現状は、楽観視できない。卵が孵るくらいの間放置されたらシャレにならん。トカゲの谷に連れて行かれたら、生きて帰れる気がしない。
辛うじて自由になる左手で、あくびの背中を叩く。名前を呼ぶ。口笛を吹いてみる。
無駄にも思える足掻きを繰り返していると、風の音に紛れて、微かに鐘の音が聞こえてくる。
「ハザンの鐘の音?」
「たぶんな。助かったな」
「ぼくはあくび、連れて帰ってくれてるって思ってたよ」
ごめん、お父さん、トカゲの谷とか思ってた。
なんとか無事に戻って来た俺たちに、ハザンが呆れ顔で言った。
「おまえら、面白過ぎるだろ、その帰還方法。伝説レベルだぞ」
ルカランは物珍しそうに、固まったハルの頭を叩いているし、ロレンはまた腹押さえて震えている。アンガーはと言えば無表情なままで、
「絆……!」と言った。
それより早く掘り出して欲しい。
砂嵐は更に勢いを増し、三十センチ先も見えない有様だ。そしてそのまま一昼夜の間吹き荒れた。
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