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第三話 プレゼント
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全部、思い出した。
そうして……オイラは黒サンタになったんだ。
真っ黒い気持ちを袋に詰めて、サンタの爺さんのソリにぶら下がる。爺さんが幸せを配って歩くから、オイラのほんの少しの悪戯なんて誰も気にしない。
お気楽に憂さ晴らしして、ザマアミロって笑ってた。
そんな風に八つ当たりを続けているうちに、オイラは色々忘れてしまった。寒くてハラが減って、悪い夢ばかり見ていたあのイブの夜のことを。
冷たい雨、壊れた教会、ミーナのほっぺの真っ赤な血の玉、迎えに来てくれなかったママ。
逃げ出してしまった、弱虫のオイラ。
みんなみんな、忘れてしまいたかったから。
黒サンタになったのは、オイラが弱虫だったからだ。黒い気持ちに勝てなかったからだ。
だから袋がいっぱいになって、本物のバケモノになっても仕方ない。
でも……今、ここでは勘弁してくれよぉ……!
こんな小さな赤ちゃんを、巻き添えにはしたくない。柔らかいほっぺに傷をつけるなんて、もう二度としたくないんだ!
誰か……誰か助けてよ! オイラをどこか遠くに放り投げて!!
『落ち着いて。ほら、大丈夫じゃよ、黒い坊や』
誰かの大きな手が、オイラの頭をそっと包んだ。
ひょいと抱き上げて、背中をトントンと叩いてくれる。目の前に、真っ白い髭と赤い服。
……サンタの爺さんだ。
「袋の中身を見てみろよ。黒くなんかないからさ」
赤い鼻のトナカイが、ニヤニヤしながら言った。オイラの黒い袋を前脚で器用に開いてしまう。
袋の中に入っていたのは、色とりどりのプレゼントだった。
「サンタさんは毎年ちゃんとお前にも、プレゼントをあげてだんだぞ!」
「オイラ……こんなのもらえないよ。爺さんの邪魔して、悪戯ばかりしてたのに……」
「ホッホッホ。お前さんの悪戯は愉快じゃったのう! 毎年楽しませてもらったわい」
なんだよ、気づいてたのか。
オイラはバツが悪くなって、黒い帽子を鼻先までギュッと引っ張った。
あれ? サンタの爺さんがくれたプレゼントの奥に、まだ何か入ってる。でも、黒い気持ちじゃないみたい。
『ミーナが大好き』
『パパとママが大好き』
キラキラ光って、ポカポカと暖かいその気持ちは、クルクル回ってオイラの胸に吸い込まれた。
「やっと大切なことを、思い出したようじゃな。さてさて……」
サンタの爺さんが、マジシャンみたいに勿体ぶった手つきで、袋から三通の手紙を取り出して、オイラに差し出した。
「今年のプレゼントは、特別大サービスじゃよ!」
子供の字で書かれた、サンタクロースへの手紙。こんなの見せちゃっていいのかよ? 個人情報だぞ!
チロリと睨むと、爺さんは『ホッホッホ』と笑って、髭だらけの口に指を当てた。
手紙を開くと、大きな辿々しい文字。うーん、読めるかなぁ?
「く……る……わ、こ……あ、『わ』じゃなくて『ね』かな? こっちは『る』じゃなくて『ろ』?」
くろねこ?
二通目の手紙を開く。
少し読みやすくなった文字で『くろねこのぬいぐるみ』。
三通目は猫の絵も描いてある。黒い毛皮、緑色の目。差出人は三通とも『ミーナ』。
ミーナ……。どうして?
「ミーナのリクエストは、毎年『お前さん』じゃよ」
オイラの事を……覚えているって言うの? あんなに小さかったのに。
オイラのした事を、覚えていないの? 顔に傷を作って逃げ出したのに。
「ママは……ママは怒っていない?」
「夜通し探しておったよ。冷たくなったお前さんを抱いて『見つけてあげられなくて、間に合わなくてごめんなさい』と、ずっと泣いておったよ」
オイラ……何にも知らないで、拗ねていじけて、八つ当たりして……! 何年も何年も……バカみたいだ!
黒い気持ちがほどけてゆく。もう誰かの幸せを、妬まなくていいんだ。どうせオイラなんかって、呟かなくていいんだ。
サンタの爺さんが、鈴のたくさん付いたタンバリンを『シャン!』と鳴らすと、オイラは元の姿に戻っていた。
そう、オイラはビロードの毛皮と緑色の目を持つ、立派な黒猫なんだ!
ただし、実体じゃないみたい。なんだかふわふわ飛んでいる。そうだよな、オイラはあの時、確か凍えて死んじゃったんだ。
決めた……! オイラはミーナの元へ行く!
もう、逃げるのはおしまいだ。
「爺さん、オイラをぬいぐるみにしてよ。ミーナの元に行きたい。なるべく、丈夫で長持ちするやつにして! 少しでも長く、ミーナを近くで見守りたい」
「それで良いのか?」
「うん。それが良い」
「そうさのう、それもまた良しじゃな!」
サンタの爺さんが『ホッホッホ』と笑いながら、手をひらひらさせるとポンっと音がした。
オイラは新しく、ふかふかのぬいぐるみの身体をもらった。
赤鼻のトナカイがソリの物入れから、ツヤツヤの赤いリボンを出してくれた。リボンはシュルシュルとオイラの首に巻きつく。金色の小さな鈴も付いている。
うん! プレゼントっぽくなった! オイラ、素敵なクリスマスプレゼントだ!
「クリスマスイブの晩に、また来いよ! お前の悪戯面白かった!」
「そうさのう。イブの晩は、自由に動ける魔法をかけておいてやろう。クリスマスは特別な日じゃからな」
サンタの爺さんも、赤鼻のトナカイも、オイラが思い出すまで見守ってくれていたんだ。
ありがとう、オイラ……頑張ってみるよ!
そうして……オイラは黒サンタになったんだ。
真っ黒い気持ちを袋に詰めて、サンタの爺さんのソリにぶら下がる。爺さんが幸せを配って歩くから、オイラのほんの少しの悪戯なんて誰も気にしない。
お気楽に憂さ晴らしして、ザマアミロって笑ってた。
そんな風に八つ当たりを続けているうちに、オイラは色々忘れてしまった。寒くてハラが減って、悪い夢ばかり見ていたあのイブの夜のことを。
冷たい雨、壊れた教会、ミーナのほっぺの真っ赤な血の玉、迎えに来てくれなかったママ。
逃げ出してしまった、弱虫のオイラ。
みんなみんな、忘れてしまいたかったから。
黒サンタになったのは、オイラが弱虫だったからだ。黒い気持ちに勝てなかったからだ。
だから袋がいっぱいになって、本物のバケモノになっても仕方ない。
でも……今、ここでは勘弁してくれよぉ……!
こんな小さな赤ちゃんを、巻き添えにはしたくない。柔らかいほっぺに傷をつけるなんて、もう二度としたくないんだ!
誰か……誰か助けてよ! オイラをどこか遠くに放り投げて!!
『落ち着いて。ほら、大丈夫じゃよ、黒い坊や』
誰かの大きな手が、オイラの頭をそっと包んだ。
ひょいと抱き上げて、背中をトントンと叩いてくれる。目の前に、真っ白い髭と赤い服。
……サンタの爺さんだ。
「袋の中身を見てみろよ。黒くなんかないからさ」
赤い鼻のトナカイが、ニヤニヤしながら言った。オイラの黒い袋を前脚で器用に開いてしまう。
袋の中に入っていたのは、色とりどりのプレゼントだった。
「サンタさんは毎年ちゃんとお前にも、プレゼントをあげてだんだぞ!」
「オイラ……こんなのもらえないよ。爺さんの邪魔して、悪戯ばかりしてたのに……」
「ホッホッホ。お前さんの悪戯は愉快じゃったのう! 毎年楽しませてもらったわい」
なんだよ、気づいてたのか。
オイラはバツが悪くなって、黒い帽子を鼻先までギュッと引っ張った。
あれ? サンタの爺さんがくれたプレゼントの奥に、まだ何か入ってる。でも、黒い気持ちじゃないみたい。
『ミーナが大好き』
『パパとママが大好き』
キラキラ光って、ポカポカと暖かいその気持ちは、クルクル回ってオイラの胸に吸い込まれた。
「やっと大切なことを、思い出したようじゃな。さてさて……」
サンタの爺さんが、マジシャンみたいに勿体ぶった手つきで、袋から三通の手紙を取り出して、オイラに差し出した。
「今年のプレゼントは、特別大サービスじゃよ!」
子供の字で書かれた、サンタクロースへの手紙。こんなの見せちゃっていいのかよ? 個人情報だぞ!
チロリと睨むと、爺さんは『ホッホッホ』と笑って、髭だらけの口に指を当てた。
手紙を開くと、大きな辿々しい文字。うーん、読めるかなぁ?
「く……る……わ、こ……あ、『わ』じゃなくて『ね』かな? こっちは『る』じゃなくて『ろ』?」
くろねこ?
二通目の手紙を開く。
少し読みやすくなった文字で『くろねこのぬいぐるみ』。
三通目は猫の絵も描いてある。黒い毛皮、緑色の目。差出人は三通とも『ミーナ』。
ミーナ……。どうして?
「ミーナのリクエストは、毎年『お前さん』じゃよ」
オイラの事を……覚えているって言うの? あんなに小さかったのに。
オイラのした事を、覚えていないの? 顔に傷を作って逃げ出したのに。
「ママは……ママは怒っていない?」
「夜通し探しておったよ。冷たくなったお前さんを抱いて『見つけてあげられなくて、間に合わなくてごめんなさい』と、ずっと泣いておったよ」
オイラ……何にも知らないで、拗ねていじけて、八つ当たりして……! 何年も何年も……バカみたいだ!
黒い気持ちがほどけてゆく。もう誰かの幸せを、妬まなくていいんだ。どうせオイラなんかって、呟かなくていいんだ。
サンタの爺さんが、鈴のたくさん付いたタンバリンを『シャン!』と鳴らすと、オイラは元の姿に戻っていた。
そう、オイラはビロードの毛皮と緑色の目を持つ、立派な黒猫なんだ!
ただし、実体じゃないみたい。なんだかふわふわ飛んでいる。そうだよな、オイラはあの時、確か凍えて死んじゃったんだ。
決めた……! オイラはミーナの元へ行く!
もう、逃げるのはおしまいだ。
「爺さん、オイラをぬいぐるみにしてよ。ミーナの元に行きたい。なるべく、丈夫で長持ちするやつにして! 少しでも長く、ミーナを近くで見守りたい」
「それで良いのか?」
「うん。それが良い」
「そうさのう、それもまた良しじゃな!」
サンタの爺さんが『ホッホッホ』と笑いながら、手をひらひらさせるとポンっと音がした。
オイラは新しく、ふかふかのぬいぐるみの身体をもらった。
赤鼻のトナカイがソリの物入れから、ツヤツヤの赤いリボンを出してくれた。リボンはシュルシュルとオイラの首に巻きつく。金色の小さな鈴も付いている。
うん! プレゼントっぽくなった! オイラ、素敵なクリスマスプレゼントだ!
「クリスマスイブの晩に、また来いよ! お前の悪戯面白かった!」
「そうさのう。イブの晩は、自由に動ける魔法をかけておいてやろう。クリスマスは特別な日じゃからな」
サンタの爺さんも、赤鼻のトナカイも、オイラが思い出すまで見守ってくれていたんだ。
ありがとう、オイラ……頑張ってみるよ!
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