カガスタ!~元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト~

中務善菜

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第一章:新しい人生

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「ターナーさん、お待たせしましたね! 一声かけてくれればお迎えもしたのに!」
「いやぁお忙しいでしょう? それにお客様にご不便をおかけしてはいけませんから! ただ、お訪ねすることは事前に伝えておくべきでしたね、失礼しました!」

 ハッハッハ、と笑い合うパパと奥様。アレンくんのお母さんもなかなか豪快な方のように見受けられる。さっぱりしているというか、姉御肌というか。
 そういえば旦那様の姿が見えない。まさか女手一つで店を回しているのか? 子供の世話もしつつ? 母は強しとはよく言ったものである。

「アレン、リオちゃんには挨拶したかい?」
「うん! リオとチグサに遊んでもらってた!」
「あはは、遊んでもらってました……」
「タノシカッタナー……」

 自分の声に年齢不相応の疲れが滲んでいるのがよくわかる。なにせ心は三十代なのだ、現役キッズの無尽蔵な体力についていけるはずもない。いつまでも最大出力で動き続けられるのは若さ……というより幼さ、無垢さなのかもしれない。
 チグサもぐったりしていて床に伏している。心なしか平べったくなっているように見えるし汗ばんでもいる。まるで雑巾だ。

「チグサ、ぼろ雑巾みたいだね。すごく似合ってる、可愛いね。可燃ゴミに出せばいいかな」

 アリスちゃん、怖いことを言わないで。一応生物なんだよ、これ。生きてる妖精を可燃ゴミに出したら世間から凄まじいバッシングを受ける気がするよ、多くを敵に回す覚悟を九歳で決めているというの?
 相変わらず感情が読めない。いったいなにを考えてそんな過激な言葉を放てるのか。チグサをここまで毛嫌いする理由もわからないし、これもまた乙女心なのだろうか。複雑と言われる所以もわかる気がした。

「それで、どうして急に帝都に? 旅の寄り道ですか?」
「それもありますが、アリスやアレンくんの顔を見に来たのが大きいです。預けてからずっと顔を見せていなかったし連絡もしていませんでしたからね」

 パパ、私はいま驚いていますよ。娘を他所様の家に預けて、四年間もほったらかしだったんですか? 幾らなんでもケネットさんを信頼し過ぎだし、任せきりでは?
 愛情表現は子煩悩のそれだったが、本当に愛情があるのか? 子煩悩を演じるサイコパスだったりしないだろうか? 背筋が凍る。

「本当に久し振りだもんね。パパの顔忘れてた」
「ごめんよアリス~! パパは会いたくて仕方なかったんだよ本当だよ!?」
「はいはい、じょりじょりやめてね」

 アリスもアリスでクール過ぎる。本当に女児なのか? 私と同じで転生した成人女性なのではないか? ケネット家に預かってもらっている間になにがあったんだ。昔からこういう子だったのか?
 理央わたしになる前の記憶がすとんと抜け落ちていることもあり、アリスのことはよくわからないままだ。

「アレンくんも大きくなったわね。すっかり男の子になっちゃって」
「へへ、大きくなった? カッコいい?」
「うん、カッコいい男の子になったと思う」
「やった! ありがと、アリアおばさん!」

 ウフフ、と笑いながらアレンくんを撫でるママ。うーん、顔がいい人はなにをやっても映えるものだ。思わず拝みたくなる光景。アレンくんも嬉しそう、可愛いね。太陽というより木漏れ日みたいな癒しがある。

「今日は泊って行きますか? 主人もターナーさんに会いたいと思いますし」
「よろしいんですか? 宿を取るつもりでいたのですが」
「スイート・トリックの公演が間近ですから宿はもう埋まっているかと思いますよ」
「そうだった……!」
「パパ、思いつきで動くくせは直ってないんだね」

 アリスの声音は冷たく、手厳しい。四年間も放っておかれた腹いせだろうか。でも私には優しいんだ、何故だ? 実はシスコンだったりするのだろうか。クールに見えて内側には燃えるような愛を抱えていたりするのかもしれない。
 ひとまずアリスの機嫌を取るべきか? 私にできるのだろうか、一旦チグサには離れてもらった方がきちんと話せる気がする。パパの膝の上に乗ってもらうよう耳打ちをし、改めて向き直る。

「アリスちゃんはアレンくんとどんなことして遊んでたの?」
「あたしたち、なにして遊んでたっけ?」
「遊びってなると思いつかないなー。ずっと歌を教えてくれてたよね」
「歌?」

 ずっとお歌を歌ってた、というのもまた子供っぽくて微笑ましい。かけっこやかくれんぼとは違うものの、歌うことが遊びと同列ならばずっと続けていたのはある種の才能なのかもしれない。
 アレンくんはすくっと立ち上がり、窓の方へ駆けていく。開けるや否や、蓋をされた空を見て告げる。

「オレさ、将来は歌手になりたいんだ! 世界中のいろんなところで歌うような、一番の歌手になりたい!」
「あたしと一緒にね」

 アリスが彼の下に歩み寄り、手を取る。アレンくんは人懐こい笑顔を向け、アリスはどこか見守るような柔らかい笑みを湛える。とても画になるし美しい、光り輝いている。
 未来への希望を幼い瞳に映し、約束を交わす。その美しさはこの世界においても変わりはない。素直に応援したいと思った。

「混声デュオかぁ、いいと思う。二人ならできるよ、きっと」
「こんせい? 難しい言葉知ってるんだね、リオ」
「えぁ、ははは……どこで覚えたんだろ、わかんないや」

 下手に前世の顔を出さないようにしなければ。気を抜けば女児らしからぬ言動を発してしまう可能性もある。怪しまれれば余計な心配、誤解を生むこともあるだろう。
 そうなればこの女児時代――親の庇護下にある期間に支障を来たすことにもなりかねない。それは避けるべき事態だ。

「じゃ、じゃあ二人のお歌を聞かせてほしいな」
「聴いてくれるの? ありがとう! 母さん、歌いに行ってもいい?」
「いいけど、あんまり離れるんじゃないよ」
「大丈夫、いつもの場所! アリス、リオ、行こう!」

 アレンくんがご機嫌に走って行く。男の子、元気だなぁ。アリスを一瞥するとやや呆れ顔だった。
「あんな感じなの、いつも」とでも言いたげな、あの子のことをよくわかっている感を出している。おませな九歳児というよりも、やはり年齢不相応な落ち着きがあるように見える。

「さ、行こ。あたしについてきて」
「うん、わかった。チグサはパパとママと遊んでてね」
「ハーイ!」

 連れて行けばアリスの様子がおかしくなる気がする。不穏な空気を美味しく味わえるほど舌は肥えていない。穏やかな時間になるならチグサと離れるのも選択肢のひとつだ。
 アリスに手を引かれ、店を出る。アレンくんがそわそわとその場で足踏みをしていた。私たちの姿を見て、待ちきれないと言わんばかりに笑みを浮かべる。

「よし、行こう! アリス、歌えるの楽しみだな!」
「そうね。リオに聴いてもらえるし、頑張っちゃおうかな」

 これから私だけに向けたライブが始まる。楽しみではあるものの、子供のお歌だ。癒しと元気をもらうつもりで構えておこう。楽しみにしつつ、二人の後を追って行った。
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