老王の心臓、将軍の心

丸田ザール

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なんとまさかの1話分抜けていました…!><
意味わからなかった方すみません!




























ぺたり、と裸足の足でベットから降りようとすれば  逞しい腕がすぐさま伸びてくる。
「も、申し訳あり…」
起こしてしまったかと縮こまったので、丸い体制のままベットに引きずり戻される。
「…へいか…?」
だが、聞こえてくるのは寝息のみだ。
オリバーはほっとしたが、これでは駄目なのだ。ここは王の寝所
恐れ多くもこんな場所で朝を迎えるなどあってはならない。きっと起こしにくるメイドに怒られてしまうだろう。

どうしよう、とオリバーは唇だけを動かした。王の腕がガッチリとオリバーの身体に回っている 
とてもじゃないが起こさずに抜け出すのは無理だろう。だが、多忙な王の睡眠の邪魔はしたくない

うんうん悩んでいると、1つ案が浮かぶ。
昨夜は王に抱かれなかったので、オリバーは服を着たままだ。
緩い夜着は簡単に脱げるようになっている
蛇の脱皮のようにするりと抜けられるのではないかと、少々都合の良すぎる案だ。

オリバーは自身の胸元にある紐を解き、そのまま腰の紐も抜き取った
しゅるり、と音が鳴らぬようにゆっくりと
そのまま身体を更にゆっくりとねじってみると、思いのほか手応えがあった。
服だけが肌を滑り、確実に王の腕の中から身体が動いていく
いける!と、自身の名案に喜んだときだった

「わっ」

「お前から誘いとは珍しい」

王が起きてしまったのだ。
身体を掴まれあっという間に仰向けになった王の身体の上に乗せられてしまう。
「さそ、ちが…っあの」
誤解を解くのが先か、起こしてしまった事に謝罪をするのが先か。
「昨日抱いてやらなかったのが不満だったか」
「違います…!本を読んでくださったの、とても嬉しかったのです!」

昨夜は、王が自ら本を読んでくれたのだ。
一国の王の読み聞かせほど贅沢な物はないだろう。
内容は難しく、知識の無いオリバーには理解出来ないものではあったが、王の声が心地よくて無礼にもいつの間にか眠ってしまった。
王を怒らせてしまったかと必死になって謝れば、「よい」と言われ口を閉ざす他無くなる。オリバーには、王がどのような事に怒り、喜び、苛立つかが分からない。
これは歳が離れている事が大きな理由ではあるが、そもそも生きてきた世界がまるで違うのだ。同じ人間とは思えぬ程、存在するだけで強い力を感じる王の前ではオリバーなど

と幾度も思い知らされる。どれだけ背伸びをしようが堂々と隣に立つことは一生かかっても不可能だろう。

「そう憂うな。」
寂しさが顔に出てしまっていたのだろうか。
こういう所も、オリバーは自身の嫌いな所だ。感情が全て顕になってしまう、正に子供のような己を王の前に晒すのは恥ずかしかった
いつまでも王の身体の上に乗っているのは無礼だと身動ぎするが、全くもって動くことが出来ない。「…陛下…ぼ、私は自室に戻らないといけません」
「何故」
なにゆえ、メイドに怒られるからである。
だがそれを口に出すのも子供っぽくて恥ずかしい。口を噤んだオリバーに、王は微かに微笑んで、さらに深くシーツの中にオリバーを閉じ込めた「わっ」と微かな悲鳴を無視し、抱き締める。
「まだ夜明け前だ」
ただそれだけを伝え、動きを止めればオリバーにも意図が伝わる
今度こそ王の貴重な睡眠を無駄にしてはいけないと、オリバーは身体をピシャリと固めた。「…っ、?」
だが、王に眠るつもりはないようだ

「ぁ、へぇか…あっ!」
紐を解き殆ど脱げたも同然の夜着の中に熱く大きな手が滑り込んできた。
尻を片手で鷲掴みにされ、驚いて大きな声を出してしまう
パシリと口を塞ぐと、笑ったのかすぐ側で王の喉が揺れた
「眠るのが叱られるのならば、起きておれば良い」オリバーの不安を知っていることを何ともなしに明かし、王は本格的にオリバーに覆いかぶさった
「うあっ…!陛下、」

どっちにしろ怒られそうだが、
オリバーは幸福に身を任せ王の首に腕を回した




























強い雨。
窓に粒が激しく当たり、空は濁っている
この国は、雨が多いのか、今が雨季なのか
学の無いオリバーには分からない
素肌に当たるシーツが湿度で少し湿っている気がして気持ちが悪い。
不快感はそれだけでは無いが

「…」ベットから抜け出すため、身体を動かそうとしたがこれはもはや癖だろう。
自分の体に腕を巻き付ける人物の様子を伺ってしまうのは
褐色の肌に多くの傷跡、逞しく分厚い身体。
そのどれもが、昨夜オリバーの身体を荒らしたものだ

バントレンは深く眠っているのか、オリバーが起きた事に気付いていない
今ならば寝首を搔くことも、と考える間でもなく不可能と感じてしまうのは、この男の人間とは思えぬ面を沢山見てきたからだろう
どの道王妃がここにいる限り、オリバーはただ従順でいるしかないのだ
逃げる事も、死ぬ事も、許されない
「…っ」昨夜激しく求められたからか、喉に違和感を覚え咳が出そうになる。
慌てて口を手で抑えるが、身体の揺れはごまかせない。
「…どうした」
伺うような低く掠れた声が頭上から降ってきてしまい、オリバーはほぼ反射で首を振った。「顔を上げろ」
問答無用で顔を捕まれ、上を向かせられる
バントレンのような悪魔にも寝起きの顔があるのだと、オリバーは何処か他人事のように思った。精悍な顔付きは全くもって損なわれないが、寝起きの気だるさ、僅かな髪の乱れ、筋肉が目覚めていない瞼。

いっその事、完璧なまでに悪魔であればいいのに。人の子だと知る度この憎しみや悲しみの行場がさまよってしまう

「飲め」
身体を覆うようにしてオリバーの背側にある棚に伸ばして水差しを取る。
口元に持ってこられては、首を振って拒絶しても無駄だ。実際、喉の不快感は取り払いたかった。「…ん」大人しく唇を付けると、巨大な剣を振り回す腕とは思えぬ程柔らかで繊細な動きで水差しが傾けられた。
寝起きでそんなに沢山は飲めない
口をつけているため、もういいとも言えず、口を離せばシーツに水が零れてしまう。
オリバーはそっと水差しを持つバントレンの手に触れた。
すると、僅かに揺れた水差しがオリバーの唇を離れて、結局零れてしまう
よく冷えた水が喉を伝い、思わず身体を竦める「オリバー」
指がオリバーの濡れた唇を拭い、そのまま息を奪うようにして噛みつかれた
「んっ…んぅ…」

水差しはベットの上に無造作に投げ捨てられ、空になるまで水をシーツに染み込ませた

































「…!」
王に抱かれ、肌に触れられるだけで甘い声を出すオリバーではあるが、実際はその辺にいる少年と何ら変わりは無い。
鎧や剣、赤く染め上げられた騎士のマント
若い男ならば誰もが憧れ、目指す対象が今、オリバーのすぐ側にいるのだ

それも1人ではなく、鍛え上げられた多くの戦士たちが真剣を使って戦っている
「…すごいっ」
勿論、訓練の一環ではあるが
目の前で鎧や剣がぶつかり合う音はとてつもない迫力だった
そして、それの訓練を受け持つのは王でありながら将軍でもある、戦神と恐れ称えられた人物。「陛下…」
王は訓練をする騎士達より1つ高い場所で、様を眺めている
騎士達のように鎧は身につけておらず、逞しく分厚い上半身は剥き出しだった。
昨晩はあの身体に抱かれていたのだと、何処か信じられない気持ちだ
「やめい」
鉄のぶつかる音や掛け声の中でも決して埋もれる事の無い王の声。
騎士たちは動きを止め、息を荒らげながらも王を仰ぎ見た
その目はオリバーのような少年達が騎士に憧れるのと同じように、キラキラと星が散っているように見える
「ここには戦地に赴いた物は居らぬな。」
王が背後にいる位の高い騎士に顔を向けることなく問えば、その騎士は簡潔な返答を返した。
王は頷いて台から下り、巨大な剣を取った。
剣先が土に擦れただけで甲高い鳴りが剣を伝う。よく磨かれている証拠だ
オリバーは思わずごくりと喉を鳴らし、より真剣に王を見つめた
「戦場では訓練した事の六割は役に立たん。死の際を糧に出来るものは当然生きて帰った者のみだが、今日は違う
来い、一足先に際を教えてやる」
王は話しながら騎士達の中を歩いた。
中心に着いたと同時に、軽く剣を構え
困惑で固まる騎士達に「…どうした。戦場ならば既に全員が死んでおるぞ」と冷たく言い放った。

1人の決意した騎士が声を上げて剣を上げたのを皮切りに、続々と騎士達が王に向かっていく。対して王は1人
オリバーは王が戦うところを見た事がなかった。椅子に座っていたが、あまりにもの事に立ち上がり柵を掴んだ 「陛下…!」
あっという間に騎士達が王を隠してしまい、正に柵を乗り越えようとした時だった


「っ」人の中心部がまるで爆発したかのように弾け飛んだ。
「骨の無い」勿論立っているのは王だ。
落胆したように吐き捨てると、防御の姿勢すら取らず次々と残った騎士達に豪剣を振りかざす。血が吹きでないので切っているわけでは無さそうだが、恐ろしい腕力だ
青年期は越したであろうガタイのいい男達が簡単に吹っ飛んでいく。
オリバーは、王が何故他国からも戦神と恐れられたのか。その片鱗を見た気がした



今回の新入隊の騎士に期待はずれか、と王が切り上げようとした時。
甲高い鉄の音と共に王が防御の体勢をとった
「ふむ」
この中では1番重たい斬撃を放ってきた騎士だ。体格も悪くない
王は直ぐにのすことはせず、剣を受け止めて太刀筋を見る。これは伸びるだろうと少なからず安心した時だった

「陛下…!!」

オリバーには、王が押されているように見えた。剣など握ったことも無い、戦闘を見た事も無い者にとって手加減のそれを見極めるのは中々に難しいだろう
オリバーに意識がほんの一瞬向いた時、若い騎士はそれを見逃さなかった。
剣が王の脇腹を軽く掠めたのだ

既にのされていた騎士達からどよめきが広がる。新人が戦神に傷を負わせるなど、前代未聞だったのだ
王は改めて骨のある騎士だと喜んだ

仕上げとばかりに王は片手で軽く剣を降り、更にかかってきた騎士の剣を真っ二つに折った。カラン、と剣先が地に落ちる音と共に、若い騎士は荒い息で膝を着いた 
「よい腕だ。」
「…おそれ、多きお言葉でございます」
「精進せよ」
無言のまま平服する騎士とその様子を眺める騎士達。それを縫って走ってくる存在に、王は目も向けず静かに怒った
「…陛下…!陛下…!」
屋根のあるほぼ室内から見ていて、靴も履いていなかったのだろう。裸足のまま硬い小さな石が転がる地面を走って飛びついてきたオリバー。王の脇腹のかすり傷に手を当てると、不安げな声が加速した
「オリバー」
なぜ出てきたのかと咎める声を出してもオリバーは傷を見て狼狽したままだ

そして、ハッとなったようにしゃがんで衣服の裾を捲りあげた。太腿には、王が持たせた小さなナイフが結び付けられている。
それを抜き取り自身の服を引き裂こうとした
「やめぬか」
王は、持ったままの巨大な剣をオリバーの背後の地面に刺した。オリバーの身体を騎士達の目から隠すためだ
強い振動に、固まったオリバーだが
見上げた先の王の表情に思わずゾッとした

王は男だらけのこの場所で、白い足を晒したオリバーに、怒っている
だが、王の怒りがまさかそれとは思わないオリバーは、出過ぎた真似をした事を怒っているのだと青ざめた。
それでも、血を滲ませる肌が耐えられなくて
不敬を承知で王の言葉を無視して裾を裂いた。目を合わせるのは恐ろしくて、俯いたままその布を王の傷に押し当てた。
「…お許し、ください」
口では謝罪の言葉を吐くが、行動は伴わない。王はオリバーの腕を痛いくらいに掴み、騎士達に去れと命じた















「ぁ、陛下…!」
ベットに投げるようにして下ろされ、すぐさま覆いかぶさってきた王にオリバーは声を上げた。「き、傷が…!」
ただのかすり傷、もう血も止まっている。
戦神として戦場に出ていた時は内臓を抉るような怪我を負っていた王にとってこんなもの爪のささくれ以下だった
「んんっ!んっぅ、へい、ふぁ」
噛み付くように口付ければ、オリバーは少し怯えたような瞳で王を見た
仕方のないことだ。王は1度たりとも、オリバーに酷い扱いをしたことはない
乱暴に口付けたことも、腕を無理に拘束したことも

「へぇか、もうしわけ、ありません…!」
王自身、自分の中にまだこのような青い感情が残っていることを冷静に呆れていた
自分だけが知るオリバーの生肌を、他の大勢の男たちが見た
この国で男色は当たり前のようにある
尚且つ女と触れ合う機会を奪われた若手の騎士達にとって、オリバーの柔らかく白い肌はさぞかし目に毒だっただろう

今夜、オリバーの体を思って自身を慰めるものがゼロではない事を、王は確信している
「うぅ、…っ」
可哀想ではあるが、大人しくしている事を条件に今回の見学を許したのだ。
王の命令に背いた罰は与えねばならない。


ならないのだが


「…泣くでない、オリバー。もう何もせぬ」
王はオリバーの涙に滅法弱いのだ
オリバーとて男。簡単に泣くような人間でも無いが、王に関連するものはどうも涙腺が緩くなってしまうようだ
いつの時代も、惚れた方が負けという
「陛下…申し訳ありません…ただ」
「分かっておる」
わざと溜息をつくことが、王にできるオリバーへの罰だった。
「…っ、」
が、効果は絶大だ。王に呆れられてしまった、とオリバーの瞳は大きく揺れる。
どうにか取り戻そうと王の口髭にキスを落としながら謝罪してはチラチラと王の瞳を伺ってくるのだから堪らなくもなる。
甘やかしている自覚はあるのだ
どうあっても王の方が先に死に、後ろ盾の無いオリバーがこの宮殿で1人生きていくには今のままでは厳しいだろう
後宮の女達に可愛がられている様子ではあるが、やはりいずれは乗り越えるべき問題も出てくる。勿論、故郷に戻すことも考えたがその先に待ち受けるものとは何か。

村の娘と結婚し、子を持つのだろうか
それとも幾度となく抱かれた身体の熱を持て余し、他の男を求めるのだろうか
その瞬間、戦に向かう前のような猛りが王の中を巡った。

王は自身の青さに少し笑いオリバーごと寝転がった。苦しそうなくぐもった悲鳴が聞こえたが知ったことでは無い。
王の怒りは、おさまったわけではないのだ
しかし、激情に身を任せてオリバーを抱くほど若くもない。
「陛下…あの、」
「もうよい」

いずれオリバーを残していくことになる。
この若く穢れのない人間を、
死後も縛り付けたくはなかった

























   




この男はやはり悪魔だ

「っ、」オリバーは、目の前の光景を直視することが出来ない。だが目を塞ぐことは出来ても、聞こえてくるものを完全に遮断することは不可能だ。つんざくような叫び声ならば尚更
飛び散った血が地面を叩く音がこちらまで聞こえてくる。
だが、目の前で行われているのは拷問では無い、訓練なのだ



「どうした、失血死する前に1人でも多く殺す気概を見せよ」
バンドレンはかかってくる兵士達を切りつけ、死のぎりぎりまで追い詰めている。
いや、実際死ぬ者もいるのかもしれない
逃げる者もいれば、向かっていく兵士もいる。血で地面が汚れていく異様な光景に、オリバーは足が縫いとめられたような感覚だ。

ここにいるのはただの兵士では無い
そもそもこの国の人間ですら無い
様々な人種が大量生産された鎧や剣を身に付け、めちゃくちゃに武器を振り回している。
バントレンは言った「使えるものは使う」

彼らは奴隷なのだ





























バントレンに抱かれている最中、火急だと寝所の扉が叩かれた。
オリバーの身体にシーツをばさりとかけると、バントレンもローブを羽織る。
入室を許可して間もなく、見るからに緊張した兵士が声をうわずらせ、視線を頑なに上げずに言った。「お、お休みのところ申し訳ありません!今まさに同盟国ウインの難民の数が予想を大幅に超えて到着し、城下を圧迫して民達と暴動を起こしております!死者も既に数多く」
「殺せ」
「…は」

兵士はとぼけた声を出した。
シーツの中のオリバーも同じく、目を見開いた。
バントレンは焦った兵士とは裏腹にゆるりとした動作でグラスに自らワインを注いだ。
そして背中を向けたまま言い放つ
「ウインなど取るに足らん。傘下ではなく同盟を結べたからとて肩を並べていると思い上がっている。交わした制約以上の民を送り込んできたのがいい例だ。殺せ。女子供も構うな」

兵士は明らかに動揺しながらも、深く深く頭を下げて将軍の命令を伝えに走った

「…それは、とても恐ろしい事です」
「何?」
オリバーは、シーツからするりと身体を出してバントレンに言った。
政治に口を出すなど、今でも有り得ないとは思っているが言わずにはいられなかった
「何故、助けられる力がありながら…」
「如何にも恵まれた国で育った者の考えだな」
バントレンはオリバーのその言葉を最後まで聞く価値はないと判断した。

「お前の故郷、ルタ国は立地に優れ、気候にも恵まれ、資源も多い。貧困に喘ぐ恐れを民達は抱かなかっただろう。産まれながらに心にゆとりのある生き物とは愚かだ。その後どれだけ苦しもうが、己の中の平和という傲慢さが消えることは無い。気付くことも無い」

今は亡き祖国の努力が軽んじられているような発言に、オリバーは怒りを覚えた
「いいえ、いいえ…!その平和は何も無くして存在しているわけじゃない…!固い意思と決意の象徴です!私の国で難民を受け入れていたのは明日は我が身だと、いつまでも胡座をかかなかったからです…!陛下が治めた国は…!ぁっ…!」
顎を掴まれ、起こした上半身をベットに押し戻される。上質で軽いシーツがふわりと舞うのを目の端に見た

「お前の心酔する王は聖人では無いぞ。難民は1度迎え入れれば後は濁流のように国に入り込んでくる。それでもお前の国の民達は貧困に喘いだか?暴動は起きたか?いいや、その口ぶりでは無いのだろう。なぜ起きなかったか、それはお前の言う気高き意思でも決意でも無い。王が間引いたからだ」
熱い手がオリバーの身体を滑るが、上から降ってくる声音は酷く冷たい。
「まび、く…?」
バントレンの話す内容を一々ほぐそうとしてくるオリバーの瞳は、余りにも澄んでいる。
偽りか否かを疑う事すらない世界で生きていたのだろう。それは子供でも難しい事だ
バントレンは空気だけを出して笑うと、オリバーのささやかな胸の尖りを舌で舐め上げた
「ひ、…」吸い上げると細い腰が痺れたかのように揺れる。
「王が守るのは国と民、そして王家の尊厳。
難民を出すほどの他国などそもそも取るに足らん。王家の尊厳を保つのに全ての難民を受け入れる必要も無い。民を犠牲にするよりも炙った難民を犠牲にするのは道理。」
「なに、どう、いう…」
「ならば犠牲とは何か。」
「ひっ、ぁあっ…!」
ぐん、と未だ柔らかい後孔に自身をねじ込めば熱くぬかるんでいる

「奴隷にするのだ」










激しく長い時間求められ、最後は気を失う寸前だ。そんなオリバーに、バントレンは言った
「学べ、オリバー。」
汗で張り付いた髪を優しいと言える手付きで流し、瞼に唇を落とされる。
まるで恋仲のような触れ合いだが、オリバーの心は動かない
だが、バントレンの言葉には意識を向けずにはいられなかった。
「まな、ぶ」
「…戦神は、お前に何も与えなかったのだな」
最後にそう言って、バントレンは寝室から出ていった。

何も与えなかった
何を言っているのだろう。
「陛下…」与えて貰ってばかりだった。
溢れんばかりの幸福と熱を一身に注いでいただいた。とオリバーは勝手なことを言うバントレンに苛立った

しかし、バントレンが言っていることはそういうことではないと何処かで分かってしまう自分がいる
「いや、だ……」オリバーはシーツの上に乾ききったはずの涙をボロボロと零す。
王との美しい思い出が、あの男に汚されていく

『奴隷にするのだ』
バントレンの言っている事が嘘なのだ。王はそんな事しない。奴隷などと、時代遅れで人道的でない事 王がするはずが無い。命の重さをオリバーに説いたあの優しい、優しい王が。















叫び声がオリバーの耳を貫き、しゃがみこんでしまう
バントレンは学べと言った。
一体、これの何が学びになるのだろう
「オリバー、来い」
血だらけの中1人たつバントレンが手を差し出してくる。首を振ったが、有無を言わせぬ瞳に押し負けてオリバーは立ち、足を1歩踏み出した。血で湿った地面は靴音をおかしくさせる
「惨いか」
バントレンの血に濡れた手を取ることが出来ないオリバーに、言い放つ
「お前の国はこれの上に成り立っている。戦神と恐れられたあの男は、若き頃から無力な国を無慈悲なまでに叩き奴隷を使って国を育てた。そこには気高さも尊さも無く、ただ人が死ぬのだ。」
淡々と告げるバントレンの背後から、屈強な兵士達が歩いてきて倒れた兵を引きずろうとしている。治療させるのかと思ったが、兵の叫び声で違うと認識した
「や、やめでぐれ…おれはまだ戦える!どうか…!あそこにはいぎだくない!!」

「頼む!まだ立てる!こんな傷大したこと…!!」
オリバーの困惑と怯えに揺れる瞳に、バントレンは胸がすく思いをした。
何も知らぬオリバーにではない。
何も教えなかった戦神に対してだ

この無垢な人間についていた嘘を、化けの皮を剥がしてやるのだ
「使えなくなった兵をお前の王はどうしたのだろうな。」
「なに…を…」
「国が育てば育つ程、民が増えれば増えるほど、奴隷が増えれば増えるほど。能力の無い人間の扱いなど何処の国も同じ」
「……違う…っ!私の国は違う…!陛下はこんな真似しなかった…!国守る騎士は宝だと、軍をまるで我が子のように思ってらっしゃった!貴方が知らないだけだ!」



「戦神がお前に何も与えなかったのは愚かなお前が愛しかったからだ。」
その言葉は、オリバーの呼吸を止めた。
父を馬鹿にされた子供のように怒るオリバーの言葉達は、やはりバントレンにとって返す価値もないほど中身がない。
愛しき人がこう言った。愛しき人がこうした。

なんの役にも立たぬ、ただの愛妾に告げた王の言葉


オリバーは自分が王に相応しくないと頭では理解していながら、戦神と周囲に恐れられた男の愛情をその身に受け続けたオリバー。
いつの間にかそれは建前となっていった
隣に立つ事の恥ずかしさや身の程知らずと己を罵るよりも、王に与えられる甘さにだけ目がくらみ、気付けば同じ年頃の子が働きに出ている年齢になりながらも後宮に座ることだけを求められた自身の価値に、気付かぬふりをした。


愚かな事が、愛おしい。
「違う…、」
王にとって、愚かなことがオリバーの価値だ
「違う…!!」


オリバーはバンドレンの手を払い、その場から走り出した






















視界を遮る草木を乱暴に跳ね除けながら、不安定な地面を駆けた。
その感覚は幼い頃、森の中で遊んだ時と似ている。
きっとここは城内の庭だろう
この国の王は外観など気にしないのかもしれない。整えられていない伸びっぱなしの蕾さえ付けない植木は何処か哀れだった
「…はっ、」
足を止めて、蹲る。
「もう、いやだ…」
祖国に、王の亡骸が眠る城に帰りたい
「へいか、お会いしたい…陛下…」

愚かな事が、愛おしい
対等だとは思っていない。恋人同士などと、思い上がってもいないはずだった
それなのに何故こんなにも苦しいのだろうか



「誰かおるのか」
崩れ落ちた傍から、低く深い声が聞こえてきた。一瞬、王が迎えに来たのかと愚かな妄想がオリバーに希望を与えたが、勿論そんな事はありえない。
「ぁ…」
オリバーは自分の立場を知っている。
敗戦国の王の情人
金も、美しさも、情報も持たぬただの男
オリバーはこの時初めて、バントレンの庇護下にいた事を実感した

ゆっくり後ずさるが、一体どこに行くと言うのか。逃げたオリバーを、バントレンはどう罰するのか
「貴様」
「ぁ…!」
背後から落ちてきた声と共に、腹に手が回される。背中に触れるのは男の身体だ
「バントレンの愛妾か!」
「や…っ…けほ」
明るいとも言える豪快な声と共に強く締め付けられ、咳き込む
上を見上げれば、齢60近いだろうか。褐色の肌に白髪、白い髭を蓄えた、山のように大きな男がこちらを見下ろしていた
愛する王の体格と変わらないかもしれない
「いや、あの戦神の愛妾と言うべきか」
頭には王冠が乗っている。
この男は、この国の王だ





















「ぁ、ああ…!」
オリバーは、引き攣る自身の声を何処か冷静に聞いていた。
「あの鉄仮面が熱をあげる人間がどんなものかと思っていたが。ただの童だな」
裾を捲り上げられ、簡素なベンチに押し倒される。無遠慮に入ってきた大きな手が肌を撫で回し、武骨で太い指が潤滑剤も入れていない後孔に入ってきた。「ひっ…!」
「戦神もとち狂うたか。これよりも足のない妃の方がよっぽど唆るというもの」
これはさだめだと言い聞かせ受け止めていたオリバーだったが、王妃を侮辱されて身体が怒りに包まれる。目の前の王の腕の半分もない細腕で思い切り厚い胸板を叩き、爪を立てた
「無礼者め。」
途端、何処か楽しげに笑った王は
オリバーの唇に噛み付いた
「ふ、んんっ」
顔に髭が当たる感覚、目を閉じれば王を思い出してしまう。そんな己が心底憎く汚いものに思えたオリバーだったが
この国に来てからほぼ毎晩バントレンに濡らされた身体はいとも簡単に快楽を得る
愛しき王が脳裏に過ぎれば尚のことだった
「っ、ぁあっ…!んんっ、」
「そうか、口付けが好きか」
あやすような、からかうような声音で囁かれてぽろりと涙を零す
引き攣るような後孔が、ぬかるんできたのが自分でも分かるのだ。
押し倒された視界、鋭い瞳を持つ王の背後には青々とした美しい空が広がっている。
このような情けない姿を、天から王が見ているかもしれないと思うと心底消えてしまいたかった。
「やだ、へいか…陛下ぁ…」
「…ふむ」
それでも心が求める愛しい王を無意味に呼べば、目の前の王の目が微かに和らいだ。
「愛らしさであれば、子犬など比では無いな。来い、褥で抱いてやろう」
軽々と抱えあげられ、頑丈な体に抵抗など無意味だった。ただ泣いているしか出来ない己が情けなく、無価値に思える。
生きていてなんの意味があるのだろう
抵抗する力も、言葉も、何も知り得ない愚かしい自分に。そして、その愚かなオリバーを求めたかもしれぬ王もこの世に居ない

もう、いいのではないか
王妃もきっと目覚めぬに違いない
もう、死んでも
オリバーは、目線の下にある王の剣を見つめた




「国王陛下」
「やれ、見つかってしまったか!」

国王はイタズラが見つかった子供かのように明るい声で笑った
対するバントレンは氷のような冷たさでオリバーを呼ぶ
「私の物がご迷惑をお掛けしました。すぐに連れて帰りますゆえ」
連れて帰る、また、あの場所に連れ戻され犯され、愛しい王が如何に恐ろしいかをオリバーに話すのだろうか。何も知らぬオリバーを哀れみ愚かといい祖国を馬鹿にするのだろうか。
これ以上の屈辱は耐えられなかった
心のなかで眠る王妃に謝罪し、オリバーは国王の剣に素早く手を伸ばした。

 勿論、長く重たい剣を、抱き抱えられた状態で抜けるとは思っていない。
ただ、一国の王の剣を抜こうなど
待つのは死刑のみのはずだと。この恐ろしい国ならば、きっとこの場で叩ききってくれるだろうと「あぁ…っ!」
そしてやはり、その動きは王によって容易く塞がれた

しかし。王の反応はオリバーが望んでいたものではなかった

「はっはっは!馬鹿な事を!バントレンよ、コレを儂にくれい!」
「…王よ」
オリバーはまさかの展開に目を開いて、何故か分からないが反射的にバントレンを見た。
冷たい表情は珍しく眉間に皺を寄せ歪んでいる「それは私のものです。例え王であろうと、神であろうと譲りは致しませぬ」
「ふむ、あの場でさっさと貫いてやれば良かったに惜しい事をしたわ。まぁしかし」国王は、オリバーを抱えていた腕を下ろし拘束を解いた。

「お前の珍しい顔が見れて胸がすいたわ」
国王は豪快に笑って、背を向けて去った
去り際に国王と視線が絡んだが、それに意味があるかどうかはオリバーには分からなかった

1つ分かるのは、死にぞこなったということ

「オリバー」
背後で己を呼ぶ声に、オリバーは振り返ることが出来なかった。
逃げ出したオリバーに怒り、このまま殺してはくれないだろうかと期待をする。
振り向けば、愛しい王のいない地獄がまた始まってしまう。「…もう、いいです」
「何」気付けばぽつりと言葉が出てしまっていた。「…殺して下さい」
消えそうなオリバーの声音にも、バントレンは無感情に見える
「何故私のものを殺さねばならん。あのお方もお前の魂胆など見透かしている、厄介な方に目をつけられおって。」
バントレンがわざわざ迎えに行くなど、有り得ないことだ。目の前にいるのに自ら来させるのではなく、自身が傍に歩いていくのも有り得ぬこと。
逃げ出した事を罰するのではなく、優しく触れて抱き上げるのも、有り得ぬ事
「国王に触れられたな、」
途端震えた身体を、バントレンは尚のこと強く抱き、自室へと向かった



























オリバーは、学ぶ事を選択した
バントレンの言う通りにするのは心底腹が立つが、きっとあの男は学ぶことの尊さを知っている。そして、その尊さが分かる人間は初めから全てを与えられていない人間だ
そう遠くないうち、バントレンがオリバーに飽くる日が来るだろう。その時待つのは望んでいた死だが、愚かだと思われたまま死ぬのは、どうしても嫌だったのだ
「オリバー様、そろそろ休まれませんか」
「いいえ」
昨夜も激しく求められ、身体のあちこちは悲鳴を上げている。この国の王に触れられたあの日からと言うものの、少しは穏やかになってきたと思った性行は激しさを取り戻してしまった。
「ですが、顔色が」
先程から食い下がってくるのは若いメイドだ。1度、オリバーの目の前で食器を割った事がある。まるで死を覚悟するかのように床にへばりつくメイドに声をかけ、膝をついて共に食器の破片を拾ってからやけに声をかけてくるようになった
「大丈夫です。」
オリバーは、気にかけてくれるメイドにわざと冷たい声音を出す。どうせ死ぬのだから、情がわくような事はしたくない
無言のまま1歩下がったのだろう。
靴の音がオリバーの心を締め付ける
元より、人に冷たくするのは慣れていない
祖国を滅ぼした国の民ではあるが、その民に怒りの感情をぶつける程 自分は愚かでは無い

読んでいる本は、政治だ。
そこには、かつては繁栄したが滅んだ国や
最後まで貧しいまま、滅んだ国
それらの分析を様々な視点で行っている
見知らぬ単語が多く並ぶ中、強く目を引いた箇所があった。
「…っ、」
奴隷制度 の文字を指でなぞる。
まさに今、オリバーが読まねばならぬ所だった。しかし

オリバーはぱたん、と本を閉じた
「…やっぱり、休憩にします」
「…はい!」



































「無様な者よな」
「黙れ、許可していない」

その許可とは、話す事だ。
王妃は心底愉快に乾いた唇を釣り上げた
「許可…?ふふ、元よりお前に従うつもりなど無いぞ。小僧」

この王妃の目的をしっている。死だ
あの国ではそれが誇りなのだろう。なんとも短絡的で曖昧な誇りだ。
「私は、お前の望みを知っている。」
1週間前に目覚めたこの王妃は既に痩せ細り、髪は豊かさを失い、瞳は窪んでいるというのに気高さなるものを損なっていない。それらの類はバントレンが最も忌み嫌うものだ
「ほう、」
挑発的な女の目を心底見下しながら、バントレンは続きを促してやった
「アレが欲しいのでしょう。お前も哀れな男よ、王と同じく」
「既に手中にある。私のものだ」
バントレンはあえて挑発に乗った。
きっとこの王妃は取引を持ちかけようとしている。はなからそんな事ができる立場などこの女には無いが、聞くだけならば価値はあった
「欲しいのは心のはず、」
心。これまた、更に曖昧な言葉だ
価値があると思ったが見誤ったか
やはりこの女は無様に、出来るだけ長く死なないように生かす事が価値だ。

「私ではアレを生かすことはできぬぞ」
立ち上がったバントレンは、その言葉に歩みを止めてしまった。
「オリバーは強くはない、いずれ私を置いてでも死ぬ。…だが、方法はある。」
「は、それを実行したとして、お前は何を望む」実に馬鹿な取引だ。
それでも先を促してしまう己が愉快だった

王妃は窓にふと目線をやり、何処か切実だというように眉を寄せた

「私の望みと、お前の望みはいずれ交じり合う


私に子を授けてくれ」











王妃が幼い頃から望んでいた物は
強く雄々しい夫でも、金でも、権力でも無い

我が子だった。
腹を痛めて産んだ子を胸に抱く日をずっと夢に見ていたのだ
『子は望まぬ』
嫁いだ時に夫である王にそう告げられた時、
目の前が真っ暗になった。
王妃である自分が孕めるのは王の子のみ
一生我が子を抱く事無く己は死ぬのかと

あの少年は何も知らぬ。
なぜ戦神率いる強き国が敗北したのか

戦神は、死を恐れたのだ。
愛すべき者に心を囚われれば、過去戦地を轟かせた勇猛果敢な王もただの男
少年との日々を手放しがたいと揺らぎ己の身を守ろうとした事が、たった1年足らずで攻め落とされた大きな理由だ。
民が愛し恐れた王は、最期は1人の人間の為に臆病に散ってしまった

実に愚かで哀れで、愛しいものだと王妃は今では思う。無償の愛、命を投げ出すほどの愛。その人間の為ならば神でさえ、愚か者にでも哀れな者にでもなれる
王妃がずっと欲しかったもの
我が子を胸に抱いた時、きっとそのような感情で溢れかえるに違いない

「産めば、私は死ぬだろう。だが子は、オリバーにとって強い楔になる」
「…戦神の子にでもするつもりか」

もし王妃が残したものが戦神の子だとオリバーが信じればどうなるだろうか。
それはバントレンでさえ想像のつかないものだった。だが、これだけは言える

「何処までも憎い男だ」

子は、オリバーに生きる希望を与えるだろう




































肌寒い季節が巡ってきた。オリバーは多くを学んだが、未だ奴隷という文字からは逃げ続けている。
バントレンに抱かれる日々は変わらず、話しかけてくれるメイドと打ち解ける事も、部屋の景色も変わらない

そんな日々の中、希望が宿る

「王妃が目覚めた」
バントレンはオリバーの背中に唇を落としながらそう言った。
驚いて振り向くが、バントレンの表情は変わらない
「…本当に…っ」
返した言葉は口付けで飲み込まれ、そのまま身体を揺さぶられた


翌朝、バントレンの言葉を確認すれば「いつでも出れるようにしておけ」と言い残し部屋を去った。
オリバーはソワソワとその日落ち着かず、食事も喉を通らなかった。心配そうに見つめてくるメイドに気取られぬようにと本を手に取ってみても、全く頭に入ってこない
王妃に会える。今現在、オリバーが生きている意味が彼女だ
とは言っても、王妃を置いて命を終えようと思っている自分がいたのも事実


程なくして扉を叩かれ、オリバーは王妃の元へと案内された。











「王妃様…!」
「…来なさい」
乾燥した声音で呼ばれる
オリバーは深く頭を下げ、ベットの傍に膝をついた。
「ふ、それでは顔が見えぬではないか。立ちなさい、大事な話がある」
想像していたよりもずっとしっかりした声音に、オリバーは泣きそうになるのをぐっと堪えた。
「オリバー、王の雛鳥よ」
やせ細った手が伸ばされ、髪を梳かれた。
その手つきがあまりにも優しく
不敬にもそっと握り返してしまう
「王妃様…陛下は、陛下は…」
「分かっていますよ。オリバー、こうなればもうどうすることもできない。でもそれは貴方のせいではありません」
オリバーはこの時、少し違和感を感じた。
王妃の口調が何かを急いているような、早く今のこの話を切り上げたいかのように感じてしまったのだ。
「私はいずれ死にます」
「王妃様…っ」
そんなことは無いと、言えないのは
部屋にこもり様々な本を読んで知識を付けたからだ。今の医療では、足を失って長く生きるのは不可能に近い
情けなくも、やはり堪えきれぬ涙がシーツを濡らした
「私はお前に話さねばならない事があります」
































「オリバー」
声をかけても、オリバーが振り向くことは無い。バントレンはそのまま歩み、バルコニーの月を全身にうけるオリバーの横顔見た。
「なぜ泣く」
理由など分かっているだろうに
オリバーはゆるりと視線をバントレンに流した
「…和子は…和子はどうなるのです…」 
和子。王妃は身篭っていたのだ
そして父親は
「産ませる」
オリバーは目を見開いた。涙で濡れた瞳は月の光に輝き、この世の宝石では太刀打ちできぬ美しさを放っていた
バントレンはその瞳を焼きつけるように見つめる
「…あ…その後は、どうなるのですか…」
震える声のまま、1歩こちらに踏み出してきた。このまま安心させる言葉を吐き続ければ、この身体は自分に自ら触れてくるだろうか。とバントレンはまたも口を開く
「戦神の子など厄介だ。…私の子とすればよい」「…っでも、なぜそこまで…」
触れるまで、あと少し。
オリバーがバントレンに対する意識を、変えるきっかけを 言えばいい







「子に罪は無いからだ」
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