【完結】旦那の病弱な弟が屋敷に来てから俺の優先順位が変わった

丸田ザール

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20【完】

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今日もせっせと草むしり。
すっかり寒くなったこの季節ですが、雑草はたくましいもので年がら年中生えてきます。

もう少ししたらイーサンに回収されてしまうのでそれまでに進めたいとひいこらひいこらしてると、マルコがシャベルの方が楽ですよと渡してくれた。

「おっ、おっ、?」
なんということだ、シャベルの重さに体が負ける。すっとマルコにシャベルを返した
胸が痛い

俺は手紙を出した。メイド達への手紙
メイド達の両親からは必死の謝罪の手紙が届いたが、彼女達直接からは未だ来ていない。

俺が書いた内容は、全てを聞いた事や 傷付いた事や 怒っている事や 、まぁつまり俺の消化不良の感情達を書き連ねた。
そして求めたのは謝罪。執務室の事と庭の事。
これを認めるかどうかは人によって違うだろうが、もし1人でも名乗り出てくれたならそれだけで十分だった。
イーサンは、俺のトラウマが思うよりも酷い事を知ってからメイド達に更なる罰を与えようとしてる。
身分剥奪だ。俺は一応伯爵家なので、辺境伯と俺の実家が動けば娘っ子十数人の身分剥奪など簡単な事だろう。

だが、いくら辺境伯といえど数十人にも及ぶ貴族達の血縁にそんなことをしたら亀裂は免れない
ここまでをイーサンに伝えると「お前は優しすぎる」って。その言葉少しだけ腹が立った
何も考えてない訳じゃない。それにちっとも優しくない
正直彼女達が床に頭擦り付けて泣きながら謝って来てくれたら胸がすくくらいにはキレてます。でも俺は、イーサンの妻として、辺境伯の妻として。この家が不利になる様な決定を当主にさせるわけにはいかない。

それに、悪い事をしたらごめんなさいをするのは当たり前の事。
謝罪と罰の順番が逆になっちゃいけない

「アーロ、そろそろ入れ」
そんなこんなでイーサンが迎えに来た

「イーサン早い!まだ時間じゃない!ぐえっ」
ぶぅぶぅ文句を言う俺を問答無用で抱えて拉致。最近ではお決まりのスタイルで揺られながら、今日の夕飯を考えた。










食事を終えて、一休み
今日は仕事が落ち着いてるらしく、珍しく一緒にぐうたら出来る。
屋敷に帰ってきてから忙しい筈なのにこまめに俺の様子を見に来るイーサン。なんか照れ臭くて反発しちゃうけど、多分顔の緩みは隠せていないようでマルコがいつもあったかーい目で見てくる。全然分からないけど、最近マルコは太ったらしい。幸せ太りなのだそうだ。幸せならいっか
因みに、マルコが俺についていた嘘や、屋敷で俺に何が待ち受けているか知っていた事については既に和解済み。処罰を下さいと頭を下げるマルコには、この屋敷専属の庭師になってもらうようにお願いした。
イーサンは何故か苦い顔してたけど、お義母様に掛け合ってくれて晴れて、マルコは専属に!
俺が勝手に友達だと思ってると伝えると顔をくしゃりと歪めて、「光栄です」って。
大袈裟だなぁ、って笑ってイーサンを振り返るとめちゃめちゃホッとした顔してた。
うん、イーサンも嬉しいよな。

「んん~きもちぃ~!」

「牛になるぞ」

「な~らないも~ん」
いつもイーサンが食べさせまくるからお腹が重たくて立っていられないのだ。
フカフカのソファに行儀悪く足をのりあげてゴロンとしている間も、イーサンは椅子に座って本を読んでる。見覚えのある表紙だ

「イーサンそれ何?」
「火竜と花撒き人、火竜のおよめさんの方が分かるか?」

「…それ!俺知ってる!」
思い出した、それは書庫にあった本。
別荘にあったルカの絵本の元になった話だ
結局庭のことで頭がいっぱいで忘れていた。
俺はソファから立ち上がってイーサンの手元を覗き込む「読むか?」と言われ首を振った。また今度読むと言いながらも覗き込むのをやめないのでイーサンが俺を抱えてソファに移った。

「こ、こんなの俺!子供じゃないんだからっ」
そのまま1番初めのページに戻すイーサンに、俺もしぶしぶ黙る
ぺら、と紙を捲る音だけが部屋を支配した

気になっていたのに、今俺は本どころではない、耳元にかかるイーサンの息で心臓が飛び出しそうなのだ。
背中越しに聞こえてしまっているんじゃないか、これ

イーサンと廊下で追いかけっこした時、キス、するかなって思ったんだけど、分かりやすくイーサンは意識を逸らしてしまった。
まあ今までだってしなかったし、あの日が例外だっただけで…もうああいうのしてくれないのかな。
あれの引き金、実はまだよく分かってない。
もういっその事俺から行動してみたらいいんじゃないか…?でもどうやって?
ぐるぐる考えているとイーサンが「眠いのか?」と見当違いな事を聞いてくる。

「ねっ、むくない…この本、絵本だけど別荘で見つけた。ルカの部屋かな、」
俺は何故か後ろめたくなって話を逸らす

「…3階か?」
頷いた後にまずいと思った。3階は入っちゃダメって言われてたのだ
イーサンは本を閉じてしまって落ち着かなさそうに背表紙を指でなぞる

「イーサン?」
 「…そこは私の部屋だった」
「え、」

「私がまだ自分の心臓で生きていた時、よくお前とルカが部屋に遊びにきた。」

記憶障害か、単に小さすぎてか、俺はイーサンが病弱だった頃を覚えていない。真実を聞いた時、話される内容は悲惨なものだけ。そもそもルカとイーサンが腹違いという事すら知らなかったのだ。

イーサンは本を傍のテーブルに置いた

「私は、お前が全てを思い出すのが怖い。」

イーサンの恐怖がどういうものなのか、分からないわけではない。
全てを思い出した俺が何を想うのかが怖いのだろう。ルカへの感情を思い出すのも
以前なら、こうやって自分が感じた恐怖を口に出す事なんてしなかったはずだし、俺自身、イーサンの恐怖を理解出来ず寄り添う事も出来なかっただろう。きっとこれは夫婦として成長しているのだと思う

「思い出してもイーサンの事好きなの変わらないって自信あるけど、もしイーサンが不安なら俺は一生思い出さなくていいよ。」

「…そう思わせてしまう私は、自分が不甲斐ない。お前に情けない姿ばかり見せている」

「もーイーサンぐるぐる考えすぎ!あーんな事されてもまだ好きって言ってくれる妻に感謝しながら沢山甘やかす方に時間使って下さい!」

「…は、それもそうだ」

笑う気のない笑いと、俺を抱きしめてきた腕が苦しいくらいに強い。




「……ルカがお前に会いたいと」
俺は驚かなかった。
俺は頷いて、イーサンを抱きしめ返す。

「その時は一緒に居てね」

シリアスな雰囲気になり、結局キス云々所では無くなってしまった
リベンジ












ルカに会う当日。
緊張するかと思ったけど、前の晩はいつも通りぐっすり眠れて自分で少し呆れてる。
むしろイーサンの方が緊張しているようで、顔が少し強ばっているのが分かる
イーサンは気を回さなければいけない所が多すぎていつか倒れてしまうんじゃないか心配になる。全てにおいて板挟みなのだ。
お人好しだって言われるかもしれないけど、俺は、好きな人には苦しんで欲しくない
イーサンは溜め込む人だし、俺も溜め込むようになった。まぁ、昔は簡単に感情を爆発させていたので、いい大人なら今くらいが丁度いいのかななんて。

「アーロ、もっと厚着しろ」

「えぇ…?これ以上着たらみっともないってばぁ」

無言でもう1枚上着をかけてくるイーサンに
渋々袖を通す。
やっぱり、着膨れしてる
不貞腐れる俺の頭を雑に撫でて先に部屋から出ていったイーサンを慌てて追いかけた。
今日ルカと会う場所は外だ
どうせ風か強いから髪なんてぐしゃぐしゃになるからと、荒れた頭は放っておいた

「ぅわ~!さむっ!」
廊下に出た途端思わずそんなことを言ってしまい、まずいとイーサンを見上げた。
過保護の申し子になってしまったイーサンならもう1枚着ろとでも言いかねない
これ以上着たら腕すら上がらなくなってしまう。

目をそろ、と上げたが意外にもイーサンは目線は前を向いたままだった。
歩みが止まることもない
…やっぱり、緊張しているんだと思う
手を握りしめることすらせず、普段から感情を出さないように指先まで神経を張り巡らしているのだと察した。
そっと解かれた手に触れてみた。
なんだ、とこちらを見たイーサンに俺は何も言わずぎゅっと不格好に握ってみた
俺が不安に思ってると思ったのか、「大丈夫だ」と握り返してくれた
そうじゃないけど、まぁいっか


  




この玄関を開ければ、ルカがいる。
俺も、イーサンも無意識に握っていた手を強くした。



執事に扉を開けられ、整えられた玄関の先に人が立っている  
ルカだ。ルカなのだが、
思わず俺は口をぽっかり開けてしまった。
「ルルル、ルカ…髪が…!」
長く綺麗だったルカの髪がバッサリ、それはもうバッサリと切られていたのだ
耳が見えるくらいまですっきりしており、驚きで緊張などすっ飛んでしまった
「ふ、旅には邪魔ですから。変ですか?」
「ううん…っ似合ってる」
嬉しそうに笑うルカの顔は、心做しかすっきりしているように見える
顔色も良く、体つきも儚さからは遠のいた
経過は順調のようで、イーサンが酷く安心したのが握った手から伝わってきた
「ルカ、」


「…申し訳ありませんでした」
傍に行こうと足を踏み出した時、まるで怯えたようにルカがそう言った

金魚や、庭。イーサンがくれた執務室
頭を下げるルカの姿で、鮮明に今も蘇る
それは何もその有様だけじゃなく、その時感じた怒りや悲しみ。全て

それを全て受け入れた上で、俺はこの謝罪を受け入れた。「うん」

ルカは頭をあげると、俺に手を伸ばした
イーサンもそっと握っていた手を離したので、行っていいという事だろう
「ルカ、もう本当に元気?」
「…アーロンさんこそ」
「髪、本当によく似合ってるよ」
「…アーロンさんも」

どうしよう会話が続かない
別れの挨拶って何を話せばいいんだ?
振り返ってイーサンに助けを求めたいけど今この状況でそれは気まず過ぎる
「…身長伸びたね!手もほら、…ぎゃっ」

それはだめだろ!ルカに抱き締められて一瞬頭が真っ白になるが、今はただでさえイーサンがデリケートだからこれはまずい
でも突き放すことも出来ない、俺が悪女みたいじゃん!
「ルカ、ルカあの」
「アーロン、僕の…」
その続きは無い
イーサンがこちらに駆け寄ってきていたのか、ルカが「最後だから!」と俺の背後に向けて言った。悲痛な声だった
それに一々驚くのは、ルカという人間を俺がまだ理解していないからだろうか
「ルカ…」


「アーロン、…来世は僕を選んでくれる?」


耳元で震える声で告げられた言葉に、俺は息を呑むしか無かった。なんて答えればいいのか、何が正解なのか
「お願い…頷いて」
それだけで僕は救われる

俺がたどたどしく頷けば、ルカがより一層強く抱き締めてきた。随分と逞しくなった
まだまだ細いけど、これからもっと男らしく強い男になっていくんだろう。
その様を、俺は見る事が出来ない
兄である、イーサンも
「イーサン、こっち」
見えないまま背後に掌を向けた。
必ず手を取ってくれるという確信だ
「1回やってみたかったんだ」
ルカもイーサンとは気まずいのかもしれない。唯一の兄弟の癖して、不器用な2人。
でも、お互いがお互いを大事にしていたのを俺は知ってる。
乗せられたイーサンの大きな手をゆるく引っ張って「ちゃんと、さよならしよう」と笑ってみる。俺の存在でぐちゃぐちゃになったと言っても、正直過言ではないと思う。でも、俺は自分を責めない
誰も責めてはいけない。皆被害者なのだ

最後に、この2人の潤滑剤になれればいい
「抱きしめて、イーサン」
お兄ちゃんなんだからさ








「ぐえっ」
「うっ、兄さん…苦しい!」
「…ルカ。元気でな」








































「ぁっ、イーサン…まって…!ぎゃんっ!」
説明しよう。いや、説明できない
俺もわけわかんないなんじゃこりゃ
「イーサンってば!」
「アーロ、すまない」
なにが!

俺は今イーサンの部屋のベットに転がされ、キス攻撃にあっている。
あんなに欲しかった触れ合いだが、急過ぎて恥ずかしさより大困惑の優勝だ
「いやいや!脱がすなって!ぎゃああ!」
嘘だ、全然嘘!恥ずかしい、死んじゃう
あっという間にすっぽんぽんにされて女の子みたいに手で体を隠したけど、俺の上でイーサンも上の服を脱ぎ始めた
「…っ」退院してから体格を取り戻したイーサンの身体は逞しくて、骨格からして違うのもあるだろうが とても分厚かった。
そして、隆起した腹筋の上にあるのは大きな手術の跡。それは、1つではない
「……はじめて、ちゃんと見た」
「……そうだったな」
思わず、傷跡に手を伸ばしてしまったが余りにも痛々しくて、痛いかもと触れるのを躊躇った。でも、イーサンはその手を強く掴んで、傷跡に導く
「…イーサン、」凄く泣けてくるのは何故だろう。イーサンの苦しみを初めて共有して貰えた実感が強くわいたのかもしれない
「…お前に触れるのが怖かった。ルカに会うこの日まで、いつでも諦められるようにしなければと未だに思っていたのかもしれない」
「イーサン!」この期に及んでまだ言うか!と俺が流石に怒った声を出すと、イーサンは珍しい、ちょっぴり情けない顔で笑った
「分かってる、だからすまないと言っただろう」それが最初の「すまない」か、分かるかぁ!と俺は横にあった枕でイーサンの顔面をばふりとやってやった。
「びっくりしたじゃんか!」
「そうだな、怖い思いをさせた」
「怖かったよ!ぜんっぜんイーサン触ってくんないし!ちゅーするムードになってもしてんないし!!」
ボロボロ泣くのは許して欲しい。俺だってまだまだ心がグラグラなのだ
「ばーかばか!俺だけすっぽんぽんなんてかっこ悪い!初めてはもっとロマンチックがいい!ていうかお風呂入りたい!お色気ムンムンのネグリジェも着る!悩殺してやる!」
ポンポン以前の俺のような我儘が出てくるのは、イーサンも俺に触りたかったって事が分かったから。
凄く、安心したんだ

「そうだな、分かったアーロ。お前の望む通りに」優しすぎる視線は、切なくも見える。
ぎゅっと抱きしめられて、俺は黙りこくった。だって、肌と肌がくっつくのってこんなに気持ちいいんだ
「……で、でも…今が1番ロマンチック…かも…?」
「…そうかもな」
ベットのシーツが擦れる音と共に、イーサンにキスされた。舌を入れるのは、やっぱり恥ずかしい
「んっ、ふ…いーさ、」
水音が恥ずかしい。でもきっと真っ赤になった顔はもっと恥ずかしい。
「いいのか、アーロ」


「……うん、いいよ」












「あぁっ……!イーサン…っ」
ギシギシとベットが鳴る
昔読んだちょっとエッチな本でこんな描写があった。今自分がその経験をしているんだと不思議だった
「まっ、あぁん」
この声本当に俺…!?ばしりと口を手で覆うと、イーサンが手首を掴んでベットに縫い付けてくる
「声をだせ、アーロ」
「む、りぃっあっあぁ!んぅっはずか、しっ」
「はぁ…っ、ずっと…こうしたかった」
熱い息と一緒に首に噛み付くようにキスをされて、この人ホントにイーサン!?と二重で驚く羽目になる。もう脳みそがキャパオーバーなのだ
イーサンの大きいのが身体の中を出たり入ったりするたび、どこが上でどこが下かも分からなくなる。「んぁっ、そこ、らめっ…!こわいぃ…!イーサ、あっ」
どんどん早くなる動きに、俺はついていけない。ごんごんと腹の奥を抉られて、怖いくらいだ。でも、イーサンが俺から視線を外さないから、用心深く俺の様子を伺っているのが分かるから 
「やめ、やめないで…平気…怖くない」
手を伸ばして強請ってしまう。
「アーロ…私のアーロ…愛してる」
「うん…うん…っ、俺も…大好き」
































「イーサン!イーサンイーサンイーサン!」
「アーロ!じっとしてろ!動くな!」

さて、ルカを見送り、無事目標のキスをすっ飛ばした初のごにょごにょも終わり、間もなくして獄中にいるナラから手紙の返事が届いた。それは大半がルカの事だったけど、最後には俺が欲しかった謝罪の言葉があった。そして、俺とルカ2人揃っての幸せを願った事は嘘ではないと。

そこに本当の誠意があったかどうかは、正直分からないけど この手紙のおかげで俺は、過去の区切りをつけることができた。
人を憎む事、多分凄く向いてないんだって気付いた。疲れるし、時間が勿体ない。そんな事するくらいならどうでもいいって思う方がずっといい
それはこの屋敷に残っている見て見ぬふりをし続けたメイド達にも言える事だ。
共に暮らすのに好意的な感情を抱けない自分を少し責めた時もあったけど、当たり前だ。それくらいの事を自分はされたのだと。いい子になろうとしなくていい
嫌いなものは嫌い、それでいい
そう思えるようになってからは、心が軽くなった


「どうやってそんな所登ったんだ!」
「わかんない!」
「そんな訳あるか!」

イーサンは以前よりずっと元気になった。
というより俺のせいで元気になった
今は木のぼりしてたら行ったことのない高さまで登ってしまって命の危機。
ちなみに2日前に似たような事で膝を擦りむいてる。
ほんとにまずい、イーサンの額に青筋が浮かんでるのが分かる
最初は降りれるもんと意地を張っていたけど、ちょっとシャレにならない高さしてる
「う、えぇん…イーサン…怖い…かも…」
「…すぐに行く!」











「この…大馬鹿者」
ぐりぐりと頭を拳で抉られ、俺の頭は陥没寸前。ごめんなさぁいと情けなく謝ることしか出来ない。地上に下ろしてもらってから誤魔化そうとイーサンに投げキッスしたのも不味かった
「…何を持ってる」
「…あ、ポマの実」
「一体どんな重要なものかと思えばそこらにあるポマの実だと?それを取るためにこの木に登ったわけじゃないだろう?まさかそんなわけはないな?」
「ああ~ごめんなさい~!」
ツヤツヤしてて美味しそうだったんだもん!っと言う言葉は飲み込んでおいた。

「あ、あーっ!もうこんな時間だー!」
「時計などないが」
「…そ、そろそろ行かなきゃいけないなー!」

ここでもう1つ。
俺には夢ができた、というより元々叶えたかった夢

『帝国の医療学の枠もお前の為に取ってある。おまえはお前のやりたいことをしろ』

以前火竜に襲われた時イーサンが言ったことだ。馬鹿な俺には無理だって思って諦めていた夢を、イーサンが拾い上げてくれた
勿論、他の学生たちと同じレベルの勉強はついていけないので 一から始めなければいけない。それでも、学びたい事が学べる喜びと、それを咎める人間も どうせ無理だという人間もいない。他と差が開いて情けなくて泣いても、頑張れと背中を押してくれる人がいる

ん゛なん
「タボチ!一緒に行こ!」
ぼってりむくむくタボチを抱きあげようとすると、全力で拒否られてしまった。
「よしよし」タボチはこの屋敷に移してからイーサンにベッタリだ。
俺の方が先に会ってたのに!ちぇ!

別館は今大幅に改装工事中だ。
ゆくゆくはそこに住むつもりらしい
イーサンにとって色んな感情が渦巻く場所だろうに、その選択をしたのは多分俺の為
俺は、まだ少しこの屋敷での事を乗り越えられないでいるみたいだ。自分ではそんなつもり全くないけど、傍から見たらそうらしい
まぁ、イーサンもマルコも異様に過保護になっているのもあると思う。
でも、イーサン、ルカ、俺が揃って笑っていた屋敷でゼロから始まるっていうの
そんなに悪くないと思う。

「ぎゃっ」
「送って行ってやる」
「いいよー!馬車の中で叱るつもりなんだろー!謝ったじゃんーっ」
タボチに気を取られて小脇に抱えられてしまった。魚のようにびちびちと跳ねるが抜け出すことは出来ない
「次同じ事をしたら部屋に閉じ込めてやる」
「冗談に聞こえない!」
絶対だめ!
俺は友達も出来て、外の世界を知って、
イーサンだけの人生ではなくなった。
きっとそれはいい事なんだと思う

勿論あ、愛してるのはイーサンだけど、自分自身を疎かにしてずっと1番にしていると、前の俺みたいに小さな世界で生きることになる。その余裕の無さからどんな人間になってしまうか、身をもって知ってる。それはルカも、イーサンも同じ事だ

人は1人では生きられない。2人だけで生きていくのもきっと難しい
俺はやっと、自分の人生を見ている



俺の優先順位は変わった

1番は、自分自身








「イーサン!行ってきます!」













旦那の病弱な弟が屋敷に来てから俺の優先順位が変わった   おわり
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