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しおりを挟む最後に朝食を3人で食べられるかもと期待しながら髪をとかしていると、メイドが部屋に朝食を持ってきてしまった。2人は馬車の中で食事するのかもしれない
がっかりしながら見送りに遅れないように急いで食べる。チラ、とメイドを盗み見したが普段の冷ややかな目は無く、
なんなら見覚えのないメイドだ。
今日はイーサンとルカの出発でバタバタして人手が足りないのかもしれない
俺は特に気にするでもなく朝食を済ませた
すっかり肌寒くなった廊下を歩く。
よく裸足で歩いてイーサンに怒られていた
見つかると抱き上げられてそのまま部屋に連行される。片手で軽々と抱き上げて、片方の手で俺の冷えた足を包むように握って温めてくれた。
いつだってイーサンは俺を最優先にしてくれていたと思う。ルカによってそれは変わってしまったけど、もし俺が子供を産める体だったらきっと俺の最優先も変わるのかもしれない。血の繋がりってそういう事なのかもしれない。わかんない わかんないけどきっとそう。
メイドに直接玄関に向かうように言われ、途中窓から玄関の様子が見えた。だが馬車が待っているだけでイーサンとルカの姿はまだ無い。間に合ったと安心したが、よく見ると護衛の騎士やメイド達がまだ準備しているようだ。まだ早過ぎるのかもしれない
忙しそうな所に突っ立って待ってるとメイド達に視線で刺殺されそうだ と俺は何となくルカの部屋に向かうことにした。
-------------------
「どういうつもりだ」
「なんの事でしょう」
しらばっくれるルカの姿に私は舌打ちをしそうになった。
出立の日の朝、私はルカの部屋に訪れ開口一番に問うた。アーロの事を
「あそこまでする必要性が何処にある」
「…兄さんに、僕のすることを咎める権利はありません」
「そうだ、だがアーロにはある。」
アーロのメイドはルカの息がかかった者達だ。ルカのメイド達は総じてアーロに良い感情を抱いていない、例えルカが指示せずとも自ら動くだろう。だが、まさか傷を負わせる事を許すとは思っていなかった。私の落ち度だ。
「アーロさんになんの権利が…?…あの人も僕に償うべきです。」
ルカは冷めた目で遠くを見た。こんな目をする子では無かった
ルカへの負い目と償い。幸せを掴むためならなんでもしてやりたいと、何でもしてやるのが私の役目だと思っていた
事実、それは今でも変わっていない。私は死を持っても償えない罪を負っているのだ
何度ルカによって殺されれば良いと考えたか分からない。
「ここまでやってきて今更そんな事を言うなんて気でも変わりましたか?叔父上の心臓が手に入ると分かったから自分はもういいだろうって?」
「いいや。私が償うべきものは償う。だが、」
だが、それはアーロの罪では無い。
あの子にはなんの責任もない
こうして私たちに振り回される謂れは無いのだ
全ては私があの子の幸せを履き違えたせいだ。
「僕はやり方を変えるつもりはありません。だってあんな事、些細な事でしょう?…兄さんはただ予定通りに、消えてくれればいい」
こちらに目もくれずルカは部屋を去った。ルカの気持ちが分かると言ったらそれは余りにも滑稽だ
分かるはずがない。その苦しみも怒りも、想像を絶する物だ 私はただ、ルカとアーロが幸福に笑えるように動けばいいはずだったのだ。だがそれがアーロの意思を無視したものだったと気付いた今私はもう、アーロを縛り付けることなど出来ない。
ルカは私が言う通りにすると思っているはずだ 自分の為にならない事をする訳が無いと
私は私のすべき事をし、アーロとルカ2人を幸福な道を歩ませるにはルカのやり方を変えさせねばならない
ルカは歪んでしまったのだ。歪ませてしまったのは私の罪だ 地獄に落ちて償うべき罪
この緑に囲まれた部屋は、私の押し付けがましい些細な償いの1つだ。アーロの美しい髪を頭に浮かべ目を瞑った。
「マルコ」
「はい、ここに」
「あとは頼んだ。」
「はい」
-----------------
「マルコ!マルコマルコ!」
「はいマルコです」
ルカの部屋に行く途中でなんとびっくりマルコに会った!今日は庭をチェックしに来たんだってさ!なんだか会うのが久々な気がして姿を見た途端小走りで近寄ってしまう
メイドが居なくてよかった。
「お2人は既に馬車に向かっていますよ」
「あ、そっか。了解!」
マルコって凄い、なんて察しのいい。俺もこうなりたい
マルコに促されて来た道を戻る。
その間庭の話をしてとても楽しかった
咲いた花や咲かなかった花
金魚の話やカエルの話。マルコってそんなに口数が多い方じゃないけど全部相槌をうってちゃんと聞いてくれる。こういう所イーサンと少し似てる
今日2人を見送った後の事を考えるだけで気分が沈んでいたので、午後から一緒に庭の手入れをする事になって嬉しかった。
少し世話が大変な植木を貰おうと思っている。没頭するものがあれば気が紛れると思って
昨夜あんな事があってぎくしゃくしたままお別れを言いたくない、ちゃんと笑顔でいってらっしゃい、気を付けてねって言いたい
頑張ってって言いたい。
それで3ヶ月後にはおかえりって言うんだ
マルコに連れられて玄関に着いたが、まだ2人は来てない。あれ?と不思議に思いながら横を見たらいつの間にかマルコが居なかった。
「アーロさん」
だが間もなくルカが後ろから声をかけて来て振り向く。この一週間ほぼずっと一緒だったからか、半日会ってないだけで久々に感じた
「ルカ、あの、」
その、と続けるがなんて声をかければいいのか分からない。こういう時なんて言えばいいんだろう、頑張ってねって言おうと思ってたけどそれだけって少し冷たくないだろうか
手をモジモジさせて俺まるでトイレに行きたくて言えない子供みたいだな
「頑張って!」
結局これになった。気持ちが急いで朝に全く出す声量ではない声になってしまって慌てて自分の口を塞ぐ。これルカに笑われそうだなって思ってそろそろと顔を伺うと、俺はギョッとする。
どうしよう、ルカまた泣いちゃった
「る、ルカルカルカ…!あぁ~!」
ポロポロと出てくる涙に俺は慌てた
俺もしかしてダメなこと言った?頑張ってってこれから手術に送り出す人に言っちゃいけない言葉とか?てかそんなの言われたらしんどいに決まってるよな!
「ルカごめん!泣かんでぇ…!おわっっ」
俯くルカの顔を覗き込むと、急に抱きつかれてよろめく。身長差がほぼ無いからなんとか持ちこたえて踏ん張れた。
びっくりしたけど応えるようにハグし返すと更にぎゅーぎゅー抱き締められる。
イーサン以外の人とこういうスキンシップした事ないから少し困った。ちょっと恥ずかしい
「忘れないで、元気になって帰ってきたら
僕がアーロンさんを辛いことや悲しいことから、助けますから」
「…?ルカ?」
顔のすぐ側で囁かれた言葉に俺は戸惑う。そして1つの答えが俺の頭に浮かんだ。
自分からこういうこと言うの恥ずかしい。
違かったらどうしよう、でもでも、
もしかしてだけどそういうのって
「それって、それってさ…友達ってこと…?」
言った!言ったぞ!
と俺は心臓バックンバックンしながらルカの返事を待つ。
「ルカ。アーロ」
もーーー!イーサン!!
と俺は声を上げそうになった。
案の定ルカから体を離され、顔を伺うがもう泣いてない、良かった。
良かったけどルカは曖昧に笑った。
きっとそれは俺のさっきの言葉に対してだと思う
やっぱ俺の勘違いだった。恥ずかしい
恥ずかしいな、言わなきゃ良かった
俺はなんだか消えてしまいたくなって拳を握り締める
その拳を、大きな手で包まれる
イーサンだ。
「兄さん」
「ルカ、薬を飲んでないだろう。何か食べて早く飲んだ方がいい。馬車に用意してある」
なんか、分からないけどいつもの2人じゃない気がした。
ルカはイーサンの顔をじっと見たかと思うと、流すように俺に視線を向ける。
「…アーロンさん。忘れないで」
ルカはよく俺に忘れないでと言う。
その言葉が何か別の意味を含んでいる気がしてならない。でもさっきの恥ずかし過ぎる勘違いも含めて俺の考え過ぎだと思う
「うん、行ってらっしゃいルカ」
ルカはメイドに促されて馬車に向かう。その背中を見送って、俺はイーサンを見上げた
手は繋いだまま。なんか分からないけどちょっと恥ずかしくなってきてその手をぶんぶんと振ってみる。
「イーサ、わぷっ」
今日はどうやらハグの日らしい。
ルカと違って身長差があるのでイーサンの逞しい胸筋に顔が埋まる。
そのまま髪を梳かれるが俺はそれどころじゃない。苦しいー!と訴えるように腕をベシベシと叩いた所でやっと解放される。
「よく似合ってる」
「へ」
イーサンの視線を辿るとそれは髪に行き着く。
手で触れてみると固くてツルツルした感触。
外してもいい?と聞くと頷かれたので手に取ってみると、それは綺麗な橙色の髪留めだった。橙と赤が混ざって、その境目を縫うように白がさしてある
これ!
「イーサンの色!」
「、あぁ…そうだな」
違った?イーサンはちょっと目を丸くした後自分の後頭部に手を当てた。なにそのあっちゃーみたいなの、珍しい、ちょっとかわいいかも
「俺に?」
「そうだ」
どうしよう、口が締まらない
こんな日にニヤニヤしてたくないのに
もらった髪留めを両手で挟むように持って口元を隠す、滑稽な格好だけどこれが今現在迅速に顔を隠せる方法なのだ
イーサンは何してるんだって顔で俺の手から髪留めを取って、また付け直してくれた。
その手つきが優しくて、以前よく風呂上がりに髪を梳かしてくれてた事を思い出す。
帰ってきたらまたこんな風に触って欲しい。
それで、昨晩は色々あったけど、怖かったけど、嫌じゃなかったよって言えたら良いな。
言えるかな
その色々を思い出して顔が赤くなっていくのを感じる。蒸気が出そうだ
イーサンが赤い顔の俺を手で上に向かせる
ちょっと抵抗したけど問答無用
イーサンの目はとても真剣で、真っ直ぐ俺を見つめていた。焼き付けるみたいに、じっと
「すまない」
そう言ってイーサンは額にキスしてきて、行ってしまった。ぽかんとした俺を置いて。慌てて馬車に向かって手を振るが、防犯の為に窓は開かないしガラスじゃないから中の様子は見えない。
それでも一生懸命手を振った。
「頑張れーー!!」
イーサンにいってらっしゃいっていうの忘れた
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