植物人-しょくぶつびと-

一綿しろ

文字の大きさ
上 下
10 / 20

梅の思念3

しおりを挟む
「……」

 ぼーっとしながら周りを見る。あれ? 私は何をしていたんだっけ?
 そうだ、お姉様を探していたんだ。

「きゃあああああああああ!」

 悲鳴が聞こえる。この声はお姉様だわ! 廊下の向こうでお姉様が何かを見ながら腰を抜かしていた。

「お姉様、どうしたの?」

 私が声をかけると私がいる場所を指差す。そこには干からびた人間らしきものが横たわっている。服装からすると先程のメイドよね。これはどうしたんだっけ? ああそうだ、あれは……

 私の食事の残骸だ。

「これがどうかしたの?」

 不思議に思いお姉様に尋ねる。お姉様は困惑した顔をした。

「どうかしたのって……人がミイラみたいになって……死んで……」

 ガクガクと怯えるお姉様に近づくとそっと抱きしめる。

「お姉様、大丈夫よ怖くないわ。あれはただの食べ残しだもの」

 安心させるつもりで言ったのにお姉様はまだ震えたままだ。どうすれば落ち着いてくれるのだろう。
 その時、お姉様が私の指先を見ながら

「それは……何?」

 とつぶやいた。

「え?」

 私の指先には白っぽい玉がくっついていた。

「これは……」

 考えて思い出す。そうだこれは、お花の種だ!

「お姉様一緒に来て」

 私はそこにあった食べ残しを肩に担ぐ、それを見たお姉様はヒッ!と言って後ずさった。

「どうしたの?」
「どうしたのって……あなた、それ人間の死体なのよ!?」
「だから?」

 私がそう言うとお姉様は真っ青な顔をして逃げようとする。
 けれど私は逃げ出さない様にしっかりとその手首を掴んだ。

「さあ、来て! 素敵なものを見せてあげるから!」

 そう言ってお姉様の手を引く。嫌がるお姉様を強引に引っ張って温室に入る。

「見ていてね」

 先程、爪に生えていた玉を死体の口に入れると一気に芽吹き根が生え、あっという間にヒデリコが群生した。

「あれ? お花咲かなかった……」
「梅子…………」

 後ろからお姉様の声がする。声がいつもと違って冷たい。きっとお花が咲かなかったからだわ。

「ごめんなさい、お姉様。お花咲かなかったわ。今度はもう少し養分を残してみるね。そして約束通りお花をたくさん育てるわ」

 子供の頃に約束した。お花でいっぱいの小さな家で二人一緒に暮らそう。その夢を元気になった今の私なら叶えられるわ。
 お姉様が抱きしめてくる。

「梅子……ああ……なんてことなの……」
「お姉様泣いてるの? どうしたの?」

 お姉様が泣いている。
 ああ……美味しそうだなあ。また私をあの香りが包む。この香りを嗅ぐと相手が抵抗しなくなってとっても食べやすくなる。
 けどお姉様は食べてはだめ。けど美味しそうだわ……ああ……。

「いい、この事は誰にも言っては駄目よ」
「え?」

 お姉様にはこの香りが効いてないみたいだ。なぜだろうか。けど良かった。これならお姉様を食べずに済むわ。

「わかったわね」

 真剣な顔をするお姉様に頷く。

「わかったわ。お姉様の言う事はちゃんと聞くわ。だって言う事を聞かないとお姉様に嫌われてしまうもの」

 その言葉にお姉様は少し微笑んだ様に見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

迷い家と麗しき怪画〜雨宮健の心霊事件簿〜②

蒼琉璃
ホラー
 ――――今度の依頼人は幽霊?  行方不明になった高校教師の有村克明を追って、健と梨子の前に現れたのは美しい女性が描かれた絵画だった。そして15年前に島で起こった残酷な未解決事件。点と線を結ぶ時、新たな恐怖の幕開けとなる。  健と梨子、そして強力な守護霊の楓ばぁちゃんと共に心霊事件に挑む!  ※雨宮健の心霊事件簿第二弾!  ※毎回、2000〜3000前後の文字数で更新します。  ※残酷なシーンが入る場合があります。  ※Illustration Suico様(@SuiCo_0)

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

奇談

hyui
ホラー
真相はわからないけれど、よく考えると怖い話…。 そんな話を、体験談も含めて気ままに投稿するホラー短編集。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

逢魔ヶ刻の迷い子3

naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。 夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。 「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」 陽介の何気ないメッセージから始まった異変。 深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして—— 「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。 彼は、次元の違う同じ場所にいる。 現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。 六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。 七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。 恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。 「境界が開かれた時、もう戻れない——。」

都市伝説 短編集

春秋花壇
ホラー
都市伝説 深夜零時の路地裏で 誰かの影が囁いた 「聞こえるか、この街の秘密 夜にだけ開く扉の話を」 ネオンの海に沈む言葉 見えない手が地図を描く その先にある、無名の場所 地平線から漏れる青い光 ガードレールに佇む少女 彼女の笑顔は過去の夢 「帰れないよ」と唇が動き 風が答えをさらっていく 都市伝説、それは鏡 真実と嘘の境界線 求める者には近づき 信じる者を遠ざける ある者は言う、地下鉄の果て 終点に続く、無限の闇 ある者は聞く、廃墟の教会 鐘が鳴れば帰れぬ運命 けれども誰も確かめない 恐怖と興奮が交わる場所 都市が隠す、その深奥 謎こそが人を動かす鍵 そして今宵もまた一人 都市の声に耳を澄ませ 伝説を追い、影を探す 明日という希望を忘れながら 都市は眠らない、決して その心臓が鼓動を刻む 伝説は生き続ける 新たな話者を待ちながら

処理中です...