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菫の思念4
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目を開けるとそこは草の上だった。外だろうか? なぜ俺はこんな所に? 確か俺は……そうだ、梅子を抱いてその後……。
身体を動かそうとするが力が入らない。何だ? どうなっているんだ?
「くっ……」
何とか手を動かす。拘束されている訳では無さそうだ。ならばなぜ動けないんだろうか。手を何とか目の前まで持ってくる。
「うわ……ああ……あ……あ!」
その手を見て俺は声にならない絶叫が出た。手が俺の手が枯れ枝の様になっている。老人の手なんてものじゃないミイラの様に干からびているのだ。
「まだ生きてたなんて凄いですね、やっぱり御曹司ともなると身体の栄養状態がいいのかしら」
声がする方を何とか見ると梅子が出会った時と同じ笑顔を俺に向けていた。またあの甘い香りが鼻腔をくすぐる。だが前の様な高揚感はない。湧き上がってきたのは恐怖だった。
「お……ま……なん……なだ……よ……」
絞り出すように梅子にそう問いかける。喉に力が入らず掠れたうめき声の様なものしか出ない。
「私は私、阿賀梅子ですよ。ちょっと待っててくださいね」
そう言うと梅子は何処かに歩いていく。
今のうちに逃げなければと本能的に思うが身体が動けない。もう一度何とか首を動かすと横にあったガラス窓に映った姿を見て愕然とする。美男子、そう言われ続けていた俺は顔すらもミイラの様に干からびてしまっていた。泣きたいのに涙も出ない。
なぜ……どうしてこんな事に?
『梅の香りに惑わされないで』
桜子のあの言葉を思い出す。ああ、そうか……彼女はこれをこの事を警告していたのか。……もっとわかりやすく言ってくれよ……。
そこに梅子が帰ってくる。有無を言わさずに手に持っていた何かを口に突っ込んでくる。入れられた何かは口に入るとスッと消えてしまった。
「あなたの栄養が良いみたいだから、お花が咲くかも。良かったね」
花が咲く? 何を言っているんだ?
そう思った次の瞬間、身体から何かの芽が生えてくる。何だ!? 何なんだよ! 嫌だ! 根が身体に食い込んでくる痛い! こんな身体でも痛さを感じるのか。
「あ……が……」
絡みつく植物に残った栄養を吸い取られていくのがわかる、意識が無くなっていく、ああ死ぬのか? 俺は死ぬのか?
もうほとんど草に埋もれてしまった手を梅子が握ってくる。
「さようなら菫太郎さん」
そうか、俺はこの梅子という化物の餌に選ばれたんだ……。なぜ? 何なんだよこの女は……。嫌だ、死にたくない、俺はまだ俺はまだ生きて……生きて楽しみたい事が沢山あるのにあるのに……なんでこんな……。
「綺麗……これは菫ね」
──
その声を最後に「彼」の思念は途絶えた。
身体を動かそうとするが力が入らない。何だ? どうなっているんだ?
「くっ……」
何とか手を動かす。拘束されている訳では無さそうだ。ならばなぜ動けないんだろうか。手を何とか目の前まで持ってくる。
「うわ……ああ……あ……あ!」
その手を見て俺は声にならない絶叫が出た。手が俺の手が枯れ枝の様になっている。老人の手なんてものじゃないミイラの様に干からびているのだ。
「まだ生きてたなんて凄いですね、やっぱり御曹司ともなると身体の栄養状態がいいのかしら」
声がする方を何とか見ると梅子が出会った時と同じ笑顔を俺に向けていた。またあの甘い香りが鼻腔をくすぐる。だが前の様な高揚感はない。湧き上がってきたのは恐怖だった。
「お……ま……なん……なだ……よ……」
絞り出すように梅子にそう問いかける。喉に力が入らず掠れたうめき声の様なものしか出ない。
「私は私、阿賀梅子ですよ。ちょっと待っててくださいね」
そう言うと梅子は何処かに歩いていく。
今のうちに逃げなければと本能的に思うが身体が動けない。もう一度何とか首を動かすと横にあったガラス窓に映った姿を見て愕然とする。美男子、そう言われ続けていた俺は顔すらもミイラの様に干からびてしまっていた。泣きたいのに涙も出ない。
なぜ……どうしてこんな事に?
『梅の香りに惑わされないで』
桜子のあの言葉を思い出す。ああ、そうか……彼女はこれをこの事を警告していたのか。……もっとわかりやすく言ってくれよ……。
そこに梅子が帰ってくる。有無を言わさずに手に持っていた何かを口に突っ込んでくる。入れられた何かは口に入るとスッと消えてしまった。
「あなたの栄養が良いみたいだから、お花が咲くかも。良かったね」
花が咲く? 何を言っているんだ?
そう思った次の瞬間、身体から何かの芽が生えてくる。何だ!? 何なんだよ! 嫌だ! 根が身体に食い込んでくる痛い! こんな身体でも痛さを感じるのか。
「あ……が……」
絡みつく植物に残った栄養を吸い取られていくのがわかる、意識が無くなっていく、ああ死ぬのか? 俺は死ぬのか?
もうほとんど草に埋もれてしまった手を梅子が握ってくる。
「さようなら菫太郎さん」
そうか、俺はこの梅子という化物の餌に選ばれたんだ……。なぜ? 何なんだよこの女は……。嫌だ、死にたくない、俺はまだ俺はまだ生きて……生きて楽しみたい事が沢山あるのにあるのに……なんでこんな……。
「綺麗……これは菫ね」
──
その声を最後に「彼」の思念は途絶えた。
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