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菫の思念2
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見ると先ほどの妖艶な声とは真逆の純粋そうな少女がこちらに駆けてくる。
「梅子」
桜子が慌てて駆け寄った。
「走ってはダメよ、まだ治ったばかりなのよ」
「ごめんなさい、姉様を見たら嬉しくなってしまって」
そう言って笑う少女からまた妙な色気を感じる。なんだ? なぜこんな化粧すらしていない女から目が離せないんだろう。そしてこの甘い香りは……。
俺がじっと見つめていたのに気が付いた少女が桜子に尋ねる。
「この方は?」
「前に話したでしょう、私の婚約者の如月菫太郎さんよ。菫太郎さん妹の梅子です」
その言葉にハッとする。
「初めまして、如月菫太郎です」
「阿賀梅子です」
その笑顔は幼い。だが俺は彼女から目が離せなかった。なぜだ? なぜこんなにも心惹かれるのだろう。
梅子は挨拶をすると桜子と二言三言会話を交わし、軽く会釈をするとその場を去ろうとした。とっさにこのまま別れたくないと思ってしまう。
「待ってください、先ほど桜子さんから伺ったのですが……庭園を管理される予定とか」
桜子がぎょっとした顔をするのが見える。だがそんなのは無視をしてでも梅子を引き止めたいと思ってしまう。
「ええ、今まで療養していた、阿賀家の別宅を父から譲り受けまして」
「俺にお手伝いできることがあれば、何でも言ってください」
梅子は少し困った顔をすると桜子に目線を向ける。桜子はため息をつくと、
「菫太郎さんは経営について如月のおじさまに色々と学んでいるそうなの。義理の兄として面倒を見て下さるとおっしゃっているのよ。お優しい方でしょう?」
そう説明した。
その言葉にはかなり棘がある、教えなくてもいいと言われそれを了承したのに、舌の根も乾かぬうちに同じ事を申し出たのだからそうなっても仕方ないか。
「そうなんですね、ありがとうございます」
「では!」
やったぞ、これで梅子ともっと親しくなれる、ゆくゆくは愛人にするのもいいかもしれない……そう喜んだのだが。
「けれど、結構です。お気持ちだけ受け取っておきます」
そう言ってお辞儀をすると去って行った。くそ、そう簡単にはいかないか。
だが心の中に「ああ、もう少し話がしたかった」と言う切なさがこみ上げる。女に対しこんな気持ちになるのは初めてかもしれない。
梅子が去った方向を名残惜しそうにみていると隣から鋭い視線の感じた。……まずい今は桜子と一緒だったんだ。
「梅子は可愛らしいでしょう」
「え、ええ、そうですね」
「……」
桜子が怖い顔でこちらを見ている。梅子に邪な感情を抱いた事を悟られたのだろう。桜子に嫌われ完全に梅子との縁が切れてしまうのは困る。
「ごめんなさい」
素直に謝った俺に桜子は悲しげな表情をする。
「いえ、いいんです」
無機質な声で言うと俺の手を握りしめてきた。小さな手なのに物凄い力だ。そして、
「どうか、あなたは梅の香りに惑わされないで」
そう、小さく呟いた。
「梅子」
桜子が慌てて駆け寄った。
「走ってはダメよ、まだ治ったばかりなのよ」
「ごめんなさい、姉様を見たら嬉しくなってしまって」
そう言って笑う少女からまた妙な色気を感じる。なんだ? なぜこんな化粧すらしていない女から目が離せないんだろう。そしてこの甘い香りは……。
俺がじっと見つめていたのに気が付いた少女が桜子に尋ねる。
「この方は?」
「前に話したでしょう、私の婚約者の如月菫太郎さんよ。菫太郎さん妹の梅子です」
その言葉にハッとする。
「初めまして、如月菫太郎です」
「阿賀梅子です」
その笑顔は幼い。だが俺は彼女から目が離せなかった。なぜだ? なぜこんなにも心惹かれるのだろう。
梅子は挨拶をすると桜子と二言三言会話を交わし、軽く会釈をするとその場を去ろうとした。とっさにこのまま別れたくないと思ってしまう。
「待ってください、先ほど桜子さんから伺ったのですが……庭園を管理される予定とか」
桜子がぎょっとした顔をするのが見える。だがそんなのは無視をしてでも梅子を引き止めたいと思ってしまう。
「ええ、今まで療養していた、阿賀家の別宅を父から譲り受けまして」
「俺にお手伝いできることがあれば、何でも言ってください」
梅子は少し困った顔をすると桜子に目線を向ける。桜子はため息をつくと、
「菫太郎さんは経営について如月のおじさまに色々と学んでいるそうなの。義理の兄として面倒を見て下さるとおっしゃっているのよ。お優しい方でしょう?」
そう説明した。
その言葉にはかなり棘がある、教えなくてもいいと言われそれを了承したのに、舌の根も乾かぬうちに同じ事を申し出たのだからそうなっても仕方ないか。
「そうなんですね、ありがとうございます」
「では!」
やったぞ、これで梅子ともっと親しくなれる、ゆくゆくは愛人にするのもいいかもしれない……そう喜んだのだが。
「けれど、結構です。お気持ちだけ受け取っておきます」
そう言ってお辞儀をすると去って行った。くそ、そう簡単にはいかないか。
だが心の中に「ああ、もう少し話がしたかった」と言う切なさがこみ上げる。女に対しこんな気持ちになるのは初めてかもしれない。
梅子が去った方向を名残惜しそうにみていると隣から鋭い視線の感じた。……まずい今は桜子と一緒だったんだ。
「梅子は可愛らしいでしょう」
「え、ええ、そうですね」
「……」
桜子が怖い顔でこちらを見ている。梅子に邪な感情を抱いた事を悟られたのだろう。桜子に嫌われ完全に梅子との縁が切れてしまうのは困る。
「ごめんなさい」
素直に謝った俺に桜子は悲しげな表情をする。
「いえ、いいんです」
無機質な声で言うと俺の手を握りしめてきた。小さな手なのに物凄い力だ。そして、
「どうか、あなたは梅の香りに惑わされないで」
そう、小さく呟いた。
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