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殺め
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「こりゃ凄いな」
目の前に建っている廃墟の様な屋敷を見て驚く。こりゃ想定外のボロさだ。
「住所は確かにここなんだが」
服のポケットからハガキを取り出しもう一度確認する。その時、門が開き中から小柄な老婆が現れた。
「殺めの橘樹様ですか?」
見た目とは裏腹に凛とした声で訪ねてくる。
「ええ、そうです」
「お待ちしておりました」
老婆はお辞儀御をすると中に入る様に促す。俺はその後に続いた。
──
屋敷の中も外見通りのボロさだった。老婆に案内されていなければ一度や二度床板を踏み抜いていただろう。
案内されたのは屋敷の一番奥、ガラス張りの温室。そこだけは綺麗に手入れされていた。ただ、その中の光景は異様だった。菫、菊、百合に秋桜……季節感等まったくない、様々な花が咲き乱れるその中央に梅の古木がむせ返る様な甘い香りをまき散らしながら生えている。ここの主たる風格、実際そうなのだろう。
それにしても……だ。
「ここの植物全て植物化ですよね?」
「…………はい」
老婆が苦々しい顔をする。
あの男はここでそんなに薬を使ったのか? 俺はちらりと梅の木を見る。あれだけは元植物妖だな今は完全に植化してしまっている様だが。植物妖がいるという事はまがい物の可能性が高いか……。
無言で周囲の確認をする俺に、
「処理、できますかな?」
やや不安そうな声で、老婆が俺に尋ねる。
「簡単ですね。まず周りの植物化から先に……」
一通り作業内容を伝えると、作業の方法は企業秘密だと言う理由から、老婆には帰ってもらう。不服そうだったが居てもらっては永遠に作業が出来ない事を告げるとしぶしぶ帰って行った。
老婆が去った後、俺はさっそく作業に取り掛かった。
とりあえず、傍に合った菊の花に触れる。もう思念は残っていないようだ。
植物化で現れた植物には時々人だった頃の記憶……思念が残っているものがある、それを吐き出させてやらないと枯る事が出来ないのだ。
思念が無いならば仕事は楽だ、狙いをつけ群生して咲く中でもひときわ大きな菊を見つけ根本辺りを手でほじくり返してみる。
「えーーと……お、あったあった」
土の中から一般的なビー玉サイズの玉が見つかる。それを取り出すと周囲の菊の花が一瞬で枯草になった。
「んーー」
その玉を光にかざしまじまじと見る。
「これは……違うな」
やはりか、とがっくりと肩を落とす。
植物妖は人を植物化させる実を作り出す。
なぜそんな物を作り出すのか、蜘蛛の様に食料を蓄えておくのが目的のモノ、単に人を植物化させ楽しんでいるだけのモノ……今まで枯ってきた植妖化達も理由は様々だった。
だが何にしろこれは俺が欲しかった「本物」ではない、まがい物だ。
周囲の草や花を見てため息をつく、これ全部まがい物からの植物化だよな……俺にはプラスにならないのに全部処理しなきゃならんのか。
「これは、はずれ案件だったな……」
だが引き受けてしまった以上やるしかない。俺はため息をつきながら取り出した玉を指で押しつぶした。それはプチンと言う音と共に跡形もなく消え去った。
──
片っ端から実をほじくり出しては枯っては潰すを繰り返す。
あの梅の植物妖、かなりの数の人を食ってるな。これだけの力を持っていながらなぜ植物化したんだ? 何か理由があるのだろうが……。
そんな事を考えながらひときわ群生して咲いている菫に触れた時、俺の中に別の誰かの思念が流れ込んでくる。
「うをっと!」
慌てて菫から手を放す、危ない集中していなかったから持って行かれる所だった。この菫は思念持ちだったか、面倒くさいが仕方がない。
俺は意識を集中させると、もう一度菫に触れた。
「さあ、見せてみろお前の思念を」
俺の頭に菫の……菫になった人物の残留思念が流れ込んできた。
目の前に建っている廃墟の様な屋敷を見て驚く。こりゃ想定外のボロさだ。
「住所は確かにここなんだが」
服のポケットからハガキを取り出しもう一度確認する。その時、門が開き中から小柄な老婆が現れた。
「殺めの橘樹様ですか?」
見た目とは裏腹に凛とした声で訪ねてくる。
「ええ、そうです」
「お待ちしておりました」
老婆はお辞儀御をすると中に入る様に促す。俺はその後に続いた。
──
屋敷の中も外見通りのボロさだった。老婆に案内されていなければ一度や二度床板を踏み抜いていただろう。
案内されたのは屋敷の一番奥、ガラス張りの温室。そこだけは綺麗に手入れされていた。ただ、その中の光景は異様だった。菫、菊、百合に秋桜……季節感等まったくない、様々な花が咲き乱れるその中央に梅の古木がむせ返る様な甘い香りをまき散らしながら生えている。ここの主たる風格、実際そうなのだろう。
それにしても……だ。
「ここの植物全て植物化ですよね?」
「…………はい」
老婆が苦々しい顔をする。
あの男はここでそんなに薬を使ったのか? 俺はちらりと梅の木を見る。あれだけは元植物妖だな今は完全に植化してしまっている様だが。植物妖がいるという事はまがい物の可能性が高いか……。
無言で周囲の確認をする俺に、
「処理、できますかな?」
やや不安そうな声で、老婆が俺に尋ねる。
「簡単ですね。まず周りの植物化から先に……」
一通り作業内容を伝えると、作業の方法は企業秘密だと言う理由から、老婆には帰ってもらう。不服そうだったが居てもらっては永遠に作業が出来ない事を告げるとしぶしぶ帰って行った。
老婆が去った後、俺はさっそく作業に取り掛かった。
とりあえず、傍に合った菊の花に触れる。もう思念は残っていないようだ。
植物化で現れた植物には時々人だった頃の記憶……思念が残っているものがある、それを吐き出させてやらないと枯る事が出来ないのだ。
思念が無いならば仕事は楽だ、狙いをつけ群生して咲く中でもひときわ大きな菊を見つけ根本辺りを手でほじくり返してみる。
「えーーと……お、あったあった」
土の中から一般的なビー玉サイズの玉が見つかる。それを取り出すと周囲の菊の花が一瞬で枯草になった。
「んーー」
その玉を光にかざしまじまじと見る。
「これは……違うな」
やはりか、とがっくりと肩を落とす。
植物妖は人を植物化させる実を作り出す。
なぜそんな物を作り出すのか、蜘蛛の様に食料を蓄えておくのが目的のモノ、単に人を植物化させ楽しんでいるだけのモノ……今まで枯ってきた植妖化達も理由は様々だった。
だが何にしろこれは俺が欲しかった「本物」ではない、まがい物だ。
周囲の草や花を見てため息をつく、これ全部まがい物からの植物化だよな……俺にはプラスにならないのに全部処理しなきゃならんのか。
「これは、はずれ案件だったな……」
だが引き受けてしまった以上やるしかない。俺はため息をつきながら取り出した玉を指で押しつぶした。それはプチンと言う音と共に跡形もなく消え去った。
──
片っ端から実をほじくり出しては枯っては潰すを繰り返す。
あの梅の植物妖、かなりの数の人を食ってるな。これだけの力を持っていながらなぜ植物化したんだ? 何か理由があるのだろうが……。
そんな事を考えながらひときわ群生して咲いている菫に触れた時、俺の中に別の誰かの思念が流れ込んでくる。
「うをっと!」
慌てて菫から手を放す、危ない集中していなかったから持って行かれる所だった。この菫は思念持ちだったか、面倒くさいが仕方がない。
俺は意識を集中させると、もう一度菫に触れた。
「さあ、見せてみろお前の思念を」
俺の頭に菫の……菫になった人物の残留思念が流れ込んできた。
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