四次元堂奇譚

四冊目 時戻りの時計・改

過去

　バックパックの中から貰った説明書を取り出す。使い方の他に先ほどうけた説明とは別に注意事項なるものがあった。

　・過去に飛ぶ地点は現在と同じ場所になります。帰る際も過去で居た場所の元の時間軸になります。なるべく人がいない場所、安全な場所で使用・帰還するようにしましょう。
　・時間内であれば戻った過去から更に過去に戻る事が可能です。その場合制限時間はリセットされ12時間に戻ります。
　・契約者が万が一死んだ場合はその時点で契約終了となり、時計は自動回収されご遺体は即元の時間軸に戻されます。

　……物騒な事が書かれているな。けれど俺はみったんを殺した相手と戦わなければならない。正直喧嘩は得意ではない。万が一の事態も想定しなければいけない。
　とりあえず武装はしていった方がいいだろう。何か武器になるものを……俺の部屋には果物ナイフくらいしかないな。こんな小さなナイフで暴漢と戦うのは素人には無理な気がする。
　他には……と見回した時、部屋の片隅にある木刀が目に入る。あの木刀はみったんのライブグッズのひとつで戦国時代をイメージした曲を出した時に販売されたものだ。二万円とかなりお高めだったが、使い道もなく部屋の片隅に飾ってある。
　これなら、いいんじゃないか？　木刀を手に振ってみながらそう思う。刺すとかは難しそうだが、殴るなら俺でもなんとかなりそうだ。別に相手を殺す事が目的ではない、隙を作ってみったんを逃がす事が出来ればいいんだ。
　よし、武器は決まった。むき出しだとダメだから……セットで買った木刀ケースがあったはず。
　服装は……黒ずくめの方がいいかな、夜だと目立たなそうだし。

　服も着替え荷物持った。じゃあ過去に行こう。どこからいつ頃に行くべきか……。昨夜俺がみったんを送った時間よりも前の方がいいな。そう言えば、みったんが誰かに付けられていたと言っていた。そうなると……。

──

「本当に戻った……」

　ここは駅の構内。そう、俺がバイトをしているコンビニの最寄り駅だ。駅にあるデジタル時計が昨日に日時をさしている。
　この時計、本物だったのか。彼女を追っていたストーカーを把握するにはやはりあの日のみったんを追いかけるのが正解だろうと思い、最寄り駅の個室トイレで時計を使ったのだった。
　時刻を見る、みったんがコンビニに来た時間の30分前だ。
　しばらく待つとみったんがスマホをいじりながら改札口から現れた。……あの彼女がこの数時間後に死んでしまうなんて……そんな事絶対にだめだ！　よし、俺は彼女を助ける、そして殺人容疑という疑いを晴らす！　そう決意しながら、気が付かれない様にそっと彼女の後を追いかけた。