四次元堂奇譚

一綿しろ

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二冊目 時戻りの時計

愛してくれる人

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 それから俺は祥子さんのかかった病について調べ、研究し、薬を作るために寝食も忘れ研究に没頭した。

 あれから何年たったんだろう。研究がまったく進まなくなった。俺は焦り、何日も睡眠をとらずに研究室にこもり続けた。身体が悲鳴を上げているのは分かっていたが、この時はこのまま研究が進まず薬を作れなかったら、という恐怖の方が勝っていた。
 そんなある日。

「あの、少し休んだ方がいいですよ」

 俺を心配たのか声をかけてくれる女性が現れた。

「俺は一刻も早く薬を作らなければならないんだ」
「そんな、今のままではあなたが死んでしまうわ」
「いいから! 放っておいてくれ!」
「あなたに死んでほしくないんです!」

 俺の手を握りながら辛そうにそう言った。

「そんなに根を詰めて研究しないで……一人で抱え込まないで……お願い」

 俺は周らない頭で思う。こんなに人に心配されたのは何時ぶりだろうか。彼女の優しさが心にすとんと落ちていく。
 この人の言う通り、もう少しペースを落としじっくり研究したら楽になるなと思った。

「そうだね……もっとゆっくり研究をしてもいいかもしれない、人に頼ってもいいのかもしれない……ねえ、君も手伝ってくれる?」
「ええ……ええ! もちろん!」

 彼女は同じ研究所に勤務する職員だった。彼女は何時も優しく俺に声をかけてくれた。人は弱っている時に優しくされると、簡単に相手に好意を抱く。俺も例外ではなかった。

 そもそも、俺はどうしてこんなにも苦しんでいるんだ?
 そうだ、祥子さんを救うためだ。
 けど、どうして俺はこんなにも祥子さんに執着しているんだ?
 初恋の相手だからか? 
 今この時に、辛い時心が苦しい時、傍にいて慰めてくれて、俺を愛してくれているのは……。

「どうしたんですか?」

 心配そうに俺を見つめる彼女の顔。そうだ、この人なんじゃないのか? 今、俺が大切にして愛すべきはこの人なんじゃないか?

「ねえ、俺が君の事を愛していると言ったら笑うかい?」
「え!?」

 びっくりした顔をした後に彼女は嬉しそうに笑う。

「笑いますけど……それは嬉しいから……かな」

 そう言って俺の手をそっと握ってきた。
 ああ、そうだ。今俺を愛してくれているのは彼女で、俺も彼女を愛しているんだ。
 
「ありがとう……」

 俺はそっと、女性の手を握り返した。

 

 昔、祥子さんから言われた言葉を思い出す。

『君は君の身体の事、将来の事を第一に考えなさい。私の為に体調を崩すような行動をしてはいけないよ』

 そうだ、俺が自分を大切にして、幸せになる事は祥子さんの願いでもあったんだ。そう、これで良かったんだ。これで……。
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