四次元堂奇譚

一綿しろ

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二冊目 時戻りの時計

不吉な予感

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 時計をちらりと見る、21時。祥子さんはまだ帰らない。
 忘れたはずのあの男の言葉を思い出す。

『今夜22時頃、祥子さんが倒れて意識が戻らなくなる。だから、必ずその前に電話をして話をしておけ』

 俺はスマホを手に取った。別にあいつの言葉を信じる訳ではない。ただ祥子さんの事が気になっただけだ。帰りの時間を確認するだけ。そう、それだけだ。
 緊張しつつ祥子さんに電話をかける。コール音が鳴る中俺の心臓はドキドキしっぱなしだった。

「駆? どうしたんだ?」

 祥子さんがいつもの調子で電話に出る。なんだ、元気そうじゃないか……。俺はホッとしつつ答える。

「今日、何時頃になるかなって」
「ああ、すまない、0時を回るだろうから、先に寝てなさい」
「いえ、起きて待ってます、お帰りなさいを言いたいですし!」
「ダメだ。君は君の身体の事、将来の事を第一に考えなさい。私の為に体調を崩すような行動をしてはいけないよ」

 そう、ぴしゃりと言われてしまう。やっぱり子ども扱いなんだよな……。普段から夜更かししてるから平気なのに。
 けれど、それを伝えても怒られるだけだろう、ここは素直に従っておく事にする。

「わかりました」
「よろしい」

 電話の向こうで祥子さんが微笑んでいる気がして嬉しくなる。

「わかりましたけど、祥子さんも無理しないでくださいね」
「わかっている、ではそろそろ切るぞ。少しでも早く帰りたいからな」
「あ、ごめんなさい、お仕事の邪魔して。じゃあ」

 そう言って電話を切る。なんだよ、あの男が言っていた事はやはり嘘だったんだな。

「はーー。よかったーー」

 安心したらなんだか眠気が襲ってくる。俺はそっと目を閉じた。


──


 激しい電話の着信音で目が覚める。
 寝ぼけながら見ると、祥子さんからだ! 俺は慌てて電話に出る。もしかしたら早く帰れるのかもしれない。

「祥子さん?」
「君は今川君の……弟さんかね?」
「え? 誰?」

 電話から聞こえてきたのは、見知らぬ男性の声だった。

「ああ、失礼した。私は彼女の上司で……」

 鼓動が早くなる。嫌な予感が、あの男の声が頭の中をよぎる。ちらりと時計を見ると22時を少し過ぎていた。

『今夜22時頃、祥子さんが倒れて意識が戻らなくなる』

 違う、そうじゃない、違う。そう念じていた俺の耳に届いたのは、

「今川君が倒れて、救急車で運ばれた…………」

 という言葉だった。
 嘘だろ? 目の前も頭の中も真っ白になる。あの男の言っていた事は本当だったのか? だとしたら、祥子さんは……。
 嫌だ。そんなのは嫌だ! 居てもたってもいられず、俺は玄関を飛び出した。
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