四次元堂奇譚

一綿しろ

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二冊目 時戻りの時計

いつも通りの朝

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 目が覚める。何か夢を見ていた気がする。時間を見ると丁度起きる時間だった。
 リビングに向かうと、祥子さんが朝食の準備をしていた。

「おはようございます」

 俺が言うと彼女は微笑みながら、

「おはよう」

 と言ってくれる。それだけで俺はとても幸せな気持ちになる。

「コーヒーでいいか?」
「あ、はい」

 俺は返事をしながら食事が準備されているテーブルの自分の席に座る、祥子さんもコーヒーを置きながら、俺の向かいの席に座る。

「いただきます」

 二人でそう言って食事を始める。いつも通りの朝だ。
 目の前で新聞を読みながらトーストをほおばる祥子さんを気が付かれない様に見る。どうしたんだろう、少し顔色が悪い気がする。
 視線に気がついた祥子さんは少し首をかしげた。

「どうした?」
「いや、何でも……」

 以前、具合が悪そうなのを指摘したら「君は気にする必要はない」と冷たく言われてしまった。それ以降、何となく体調について指摘するのが怖くなっている。

「駆、時間は大丈夫なのか?」

 祥子さんの言葉でハッと我にかえる。
 まずい、遅刻してしまう。慌てて目の前の食事を口に放り込むと食器を洗う。
 自分で出した汚れ物は自分で片付けるが同居時のルールだ。もちろん洗濯も自分でやっている。祥子さんに負担をかけたくないのも勿論だが、俺だって年頃なのだ、下着を憧れている女性に見られるのは、嫌だったのでこのルールには大賛成だった。
 けど、恋人になった暁には、一緒に選択したり洗い物をしたりしたいな……と思っている。何かいいよな、そういうの。肩を並べて、今度こそどこに行こうかなんて話ながら。

「駆、私は先に出る、鍵を頼むぞ」

 祥子さんの言葉に自分がまた妄想の世界にトリップしている事に気がつく、彼女を見送らねばと慌てて玄関に向かう。

「祥子さん、行ってらっしゃい!」
「いってくる……ああ、今日は少し帰りが遅くなる」
「また、残業ですか?」
「ああ」

 祥子さんはここ最近頻繁に残業をしている。働きすぎじゃないか? 顔色が悪いのはそのせいなのだろうか。

「祥子さん、少し顔色悪いですけど……働きすぎなんじゃ……」

 思わず、声に出てしまう。祥子さんはやはり冷たい表情と声色で、

「大丈夫だ、君が気にする事は無い。行ってくる」

 と、だけ言って玄関から出て行った。
 やってしまった……おせっかいだったかな。けど本当に心配なんだ。大きくため息をついて時計を見ると、遅刻確定の時間になっていた。
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