四次元堂奇譚

一綿しろ

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一冊目 縁の鎖

君が俺を殺すから

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 真っ暗な中記憶が浮かんでくる。
 何故かわからないが、俺は彼女に首を締められている。苦しい、苦しい、そうか、俺は死ぬんだな、冷静にそう思う。俺は彼女に恨まれていたのか……? なぜ? なぜだ?
 初めて見かけた時、可愛い人だなと思った。誰にも優しく親切な彼女の行動を見て、素敵な人だなと憧れた。彼女に声をかけられた時は心臓が止まるかと思った、まさか付き合う事になるなんて思いもしなかった。

 そして数ヶ月後に首を締められる事になるなんて。

 俺と付き合ったのはただの気まぐれで、必要なくなったから殺されるんだろうか。苦しい、抵抗したいが……何か薬を盛られたのだろう、さっきの手作りの食事か、身体が動かない。閉じていた目を開ける。
 視界に入った彼女は冷たい目で愛おしそうに俺を見ていた、その顔は本当に美しかった、この世の物とは思えないほどに。嫌われている訳ではなさそうだ。きっと彼女にとっては殺す事が愛の表現なのだ。ならば俺は今彼女を、彼女の愛を独占しているのだ、何と言う幸福感。
 俺を殺す彼女を美しいと愛おしいと思った。この顔をずっと見ていたい、ああけれど、俺は死ぬから、もう見られないのか、残念だ。意識が薄れていく……嫌だ俺は生きたい、生きて……そう生きて、また殺されたい。叶うなら、俺は何度でも彼女に殺されたい、あの美しい顔を見たい、彼女に愛されたい。

 何度でも何度でも。


──


 そうだ……俺は……俺は。

「君にまた殺されたくて戻って来たんだ」
「思い出してくれたのね?」

 彼女が嬉しそうに微笑む、その細い指が俺の首にかかる。ああ……そうだ。俺が見たかったのは。

「ほら、やっぱり嬉しそう、あなたは私の殺意あいを受け入れてくれるのね」

 残酷で冷たくて優しくて美しいその表情。

「身体を重ねるよりも気持ちがいい、私の本当の殺意あいを沢山あげる。また私に殺される為に生き返ってね……愛してるわ……」


──


 命が途切れる冷たい瞬間をまた感じる。だが鎖から暖かいものが流れ込んで来ているのがわかる、そう……これは彼女の命。この鎖の力で俺は彼女に生かされている、彼女が死なない限りは何度でも生き返るんだろう。
 他の奴なんか殺させない。君が俺を殺すなら、俺は何度だって生き返ろう。君の殺意あいは俺だけのものだ、君の殺意あいを独占できる、それが俺の幸せなんだ。
 俺が彼女に繋がれたのか、それとも俺が彼女を繋いだのか。もう、そんな事はどうでもいい。歪で真っすぐな、誰にも理解されない愛の世界に、ずっと二人一緒に溺れていよう。

 俺も、君を……愛しているよ。
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